墓場 - deer

天使との再会(現パロ)

天使を見つけたのは奇跡だったと思う。偶々訪れた出先で、やたらと小さな子どもが1人で歩いていた。親とはぐれたのであろう。聖人君子でもあるまいと通り過ぎようとしたとき、かつて愛した金色と視線が重なった。
大きく開かれる目に確信を抱く。私と同じなのだろう。ユルゲンシュミットでの記憶を持ったまま、この世界へと生まれ落ちたのだ。

「君は本当に……生まれ変わっても世話が焼けるな」

「感動の再会なのに第一声がそれですか!?やり直しを要求します!」

「それを望むなら構わないが、この往来で愛を囁かれたいのか?漏れなく私が犯罪者になるな」

「それは駄目です!仕方ないので抱っこしてください。母さんとはぐれちゃいました」

一緒に探して欲しいと言う。どうせ本にでも気を取られたのだろう。はぐれる様子が簡単に想像できるから頭が痛い。この年頃の子どもとはぐれるのは親にとっては致命的だろうに。
小さな温もりを抱えて立ち上がる。視線が変わったことを楽しんでいるようだ。この人混みで親を探すのは骨が折れる。いざとなれば呼び出しも検討するべきだろう。

「体調はどうだ?熱は出ているのか?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。寝込んだりなんて滅多にしませんし、ちゃんと病院がありますから」

「そうだな。実際にこの世界を経験することになるとは思っていなかった。君の記憶がいかに偏っていたのか実によく分かる」

「うぅ……そりゃあ確かに本ばかりですけど、どうせそんなに変わらないでしょう?実験とか研究とか大好きなくせに」

かつて記憶の中で見た世界を実際に生きることになるとは思ってもみなかった。本ばかりの記憶だったせいだろう。本当の世界には興味深いものが多く、それなりに楽しんで生きていた。

「君こそどうなんだ。その年頃だと絵本しか与えられずに満足していないんじゃないか?」

「流石ですね。もっと本が読みたいとねだりにねだって今日を勝ち取りました」

「で、はぐれたと」

「うぅ、本屋さん意外にも本がある世界って最高じゃないですか……」

「親の身になってみなさい。私ならもう二度と買い物に連れて行かない」

「そんな!」

頭を抱えて呻く姿に溜息が溢れる。変わっていないことを喜ぶべきか、悲しむべきか、頭が痛くなる。

「せめて早く君の親を見つけろ。遅くなればなるほど状況は悪化するぞ」

迷子センターに連れて行く方が速いだろうか。出来ればもうしばらくこの温もりを抱いていたい。そんな葛藤をしていると、小さな手が頬に伸ばされた。

「折角会えたのに直ぐお別れなんて嫌ですよ」

「……君が可愛すぎて困る」

「うふふん、そうでしょう?これでもモテモテですからね!」

「聞き捨てならないな。どこの男だ」

「聞いてどうするつもりですか!?」

「消すに決まっているだろう?」

「絶対教えませんよ!!」

この愛らしい姿を視界に入れた男は消されて当然だろう。これは私のものだと前世から決まっているというのに。

「まさか君は、私以外の男が好きなのか?」

「そんなわけないじゃないですか。自分より素敵な男みたことあります?」

「……ないな。少なからず君にとっての男に私以上の者はいないだろう」

「わたしも大好きですから安心してください」

にんまりと笑った。可愛い。親から親権を奪ってずっと一緒に暮らせる方法はないかと模索するほどの破壊力がある。
それでは恋人ではなく庇護者になってしまうので却下をして向き直る。やるべきことは、親に取り入り確実に外堀を埋めることだろう。

「マイン!」

確実に手に入れる計画を立てていると、聞き慣れた名前が呼ばれる。母さんだ。腕の中から必死に首を伸ばすので、取り落としそうになる。

「やっと見つけた!本当に直ぐ迷子になって!」

「ごめんなさい!このお兄ちゃんが一緒に探してくれたんだよ」

「娘がご迷惑をおかけしまして……」

「いえ、見つかって良かったです」

「お兄ちゃん行っちゃうの?わたしもっとお兄ちゃんと一緒にいたい!」

離してたまるかと必死にしがみついてくる。困った顔をした母親がマインを引き剥がそうとする。それでも必死な手のせいで服が伸びてしまいそうだ。

「こら。お母さんが困ってるだろう?」

「だって……」

むくれる姿も変わらない。愛らしい姿にこみ上げた感情が隠せなかった。

「私がまた会いに行く。だからマインは良い子で待っていてくれ」

「本当に?」

「ああ。きっとまた直ぐ会える。約束する」

小さな小指を絡めて指切りをする。この魔法のない世界で会おうと思えばいくらでも会えるだろう。
そうして母親の腕へ移ったマインに手を振って別れる。何かあったときのためにと交換した連絡先が隣に住んでいる家族の電話番号だと知ったのは、その直ぐ後のことだった。

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