キルアはオームの家に着くと、中の様子を窓越しに見た。
(まだこいつが犯人って決まったわけじゃないが、疑う余地はある。煙突はない。二階に恐らく奴がいるが……ここは正面から入るしかないな)
一旦、屋根から地面に飛び降り、玄関扉まで忍び足で向かう。
そこから息を殺し、見事に、自ら放たれる音を極限まで消した。
鍵穴に人差し指の先を立てると小さく、カチャリ、と音をたてた。
キルアはドアノブを掴み、ゆっくりと中に侵入した。
店内の風景は以前と代わり映えはない。
ごちゃりと不整列に置かれる時計が、視界を遮るようで不快になってくる。
「ん?」
キルアは、棚上の時計の針を見てあることに気づいた。
(これは!そうか、あれは壊れていたんじゃない……!)
時計の針は、どれもバラバラで、その上動いている気配がなかった。
以前来た時は気付かなかったが、針の音が一切していない。
静寂になる夜故に、それが際立っている。
針は、どれもバラバラのように思えたが、針のないものもあった。
時計としての機能は果たせていない。ならばこれらは全てレプリカか……?
しかしそれなら、何故黙っていたのだろう。
キルアは、二階に伸びた階段を登った。
一段ごとに豪快に軋むもので、緊張感が増してゆく。
二階に上がり視界に飛び込んだのは、ゴミ屋敷同然でものが溢れかえった部屋だった。
床に散乱するガラクタ、壁を隠す資料とダンボール、そして、奥に見えたベッド。
その上には人はいない。
(一体どこに行ったんだ……?)
ベッドの脇に添えられた机には、何やら手紙のようなものがある。その横には時計があった。ゴンが持っていたものによく似ている。
「どうか、許してくれ。私の夢の犠牲に、彼らはなってしまった。だが案ずるな、彼らは永遠に生きている。この理想郷の中で…。さあ、扉を開けるんだ。」
キルアは、文字伝いにおぞましい予感が走った。
手紙の横に、ワザとらしく置かれた時計は
この文面と関係している。恐らくゴンは、この時計のフタなる扉を開き、未知の罠に掛けられた。
そしてこれらは次のターゲットである者に宛てられている。
(あけるか……?)
無色透明の液体が全身の至る所から湧き出る。
指先に感じる金属の、凍りつくような冷たさがに身がよだつ。
(呼んでいる。オレをいざなっている…
ゴン……お前なのか?)
恐る恐るに、フタ元に手をかけた。
あの時、頑丈に閉ざされていたはずのフタがいとも容易く開いた。
高まる、恐怖。僅かに開いた隙間を覗くことも躊躇っていた。全ての憶測が、現実と化すならば…
まさか、考えすぎだ。先入観に侵されている場合ではない。
だが視界に映る全ては揺れ動き始めた。
どうしたっていうんだ、動悸が激しくなっている。
強張っていた身体は、次第に末端から弱まり始め、指からするりと時計が落下した。
時計は一度、低空でバウンドして、その衝撃でフタ下が顔を出した。
(しまった………!)
煌々とした光が、部屋の闇を照らした。
小さな時計から放たれる光は、月光さながらに眩く、キルアを捕まえて離さない。
身体の先端が、光に吸い付けられる。
キルアは連れ去られまいと必死に抵抗した。
(くそ、こらじゃラチがあかない。そうだ!)
踏ん張っていた足の力を緩め、自ら時計の方に手を伸ばした。
途端に身体がもっていかれ、もう抗うことは出来ない。
キルアは伸ばした手をフタの上に置こうとしたが、残念なことに指先は光の源へといった。
目も眩むほど非常に眩しく、キルアは光と同化し見えなくなった。
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