名も無き奇術師
いつしかもう1人の少年までも一向に変わらぬ景色に、倦怠感を覚えた。
空間から出られず焦燥するそんな2人を取り囲む、清々しく艶やかさを保つ景色。

キルア「チッ」
花が一つ揺れるだけでも少年の癪に触るのだった。

虹の桃源、それは虹源と言い換えても違和なく、一つの概念として存在している。
無風にも等しい軽やかな風と、温度を失った日照り。
隔てるもののない見晴らしのいい広々とする世界が、“お前たちの探すものなど何処にもないぞ“と優しい配色を持って訓する。

キルアより先にこの虹源に不時着したゴンは、どうにか脱出する方法を考えていた。少しでも身体を止めると、全身が鈍くなり、脳までもが停止してしまいそうだった。
それを恐れたゴンは、歩き続けていた。足は棒のように竦んでたが
やがて、落下してくるキルアを受け止めるために極限状態で疾走した後、意識を失ったキルアをおぶって、歩いていたその最中、ある実験を試みた。

ゴンは木の枝を一つ地に突き刺して、歩き出した。真っ直ぐ歩くと、平原に突き刺さった木の枝を見つけた。

そして、ようやく気付いた。

ゴン「キルア。落ち着いて聞いて。多分この空間は球体状になっている。そして、オレたちは環状線をひたすら歩いてるんだと思う……」

キルア「……なんとなくそうだと思った」


2人が、追求した世界の終点、それは“ループ“を錯覚させる球体の空間であった。

「疲れた」

風は誰かの寝息のように止んだり吹いたりしている。
花びらが、幻想的に舞いだし、空に吸い込まれる雪のようだった。
どこへ消えてゆくのか。それらの行く先をじっと目で追った。するとどこからともなく、喉を翻したような、はたまた痞えたしゃくり笑いが響いた。

“クツクツクツ………”

不気味な笑いが、何度も続いた。

“よくぞこの世界の法則を見つけ出したのだね。おめでとう。手始めに自己紹介をしておきます。僕はこの異質空間の調律者です”

“もっとも、この空間に調律などは不要でありましょうが、生前の名残なのです”

ゾクリ。
半身の裏を、冷気が這うようにしてやってくる。
身に覚えのある、気色の悪い感覚。薄気味悪い道化師を一路に想起させる悪寒。
だが、それと同一のようで、何処か違う。まさか、この街に来て感じた悪寒の正体がこれであったとは。衝撃の事実であった。
ぱっと後ろを振り返った時、2人は揃って目を丸くした。

“やあ、初めまして”

目が会うとにっこりとあどけない笑みを浮かべた。
そこに居たのは、少年だ。

それも、同じ年頃の少年だった。
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