「彼らの為に傷つく必要ないんじゃない?」

すると、ニルは、ゆっくりと顔を上げ僕を見やった。
見返した僕はすぐに呆然とした。
吹っ切れたかのように妙に清々しい表情なのに、真赤な目元から涙が止めどなく流れている。
絶えず呼吸を乱す彼女を横目に見て、腐りかけの胸がわずかに軋みをたてた。
先程まで、俯き状であった彼女が、せがむように催促している。言葉ではなく、その眼で訴えていた。


僕は呆気に取られた。
__ なんて、悲哀を帯びた顔なんだろう……

ボクは胸踊った。
__ 見たこともない悲しい表情で泣いていたから。

彼女は手のひらを額に当て、前髪を無造作に掻き乱し、また腕の中に篭る。

「お願……いなく……な…て」

もう、限界の境地だったろう。その一言を言うのがやっとだと、息継いだ。
しかし、何だろうこの感じは。
ボクの中にある何かをそそらせるのは一体 __。
胸部の絞扼感に喘ぐ表情が、ああ、ニスを塗ったように艶めいて見える。

「ああ わかったよ{emj_ip_0836}」

そっと、彼女の頭を触れた。
それは、手のひらと同じくらい小さかった。
ほんの少し、力を入れたら
粉々に壊れてしまいそうなほど__
僕は彼女の心情を察して、去ることにした。或いは、ここに居続けることに身の危険を感じた。

立ち去って、一度だけ顧みたとき、寒夜の下に蹲る彼女は赤子のように見えた。
上空は、雲1つなく澄み切っていて、複数の星が瞬いていた。
ガス灯が照らす路から外れ、木立が並ぶ茂みへと進んでいる最中、ニルのことを考えて思わず笑みがこぼれてしまった。

__ くく 新しいオモチャ 見つけた __


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