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__ 甘い匂い……。
私はゆっくりと目を覚ました。
何処からともなく、漂ってくるグリーンアップルの匂い。それに、頬に風が当たるのを感じる。
開けた窓の中に見える月は、先程と変わり映え無い。
「おはよう 」
__!!
現実に呼び戻されるように、恍惚としていた頭が鮮明になった。
振り向くと、闇の中に紛れて人がいる。姿形は見えないが、それが誰か直ぐに分かってしまった。
「ヒソカね?」
「当たり (ハァト)」
「まだ何か用があるの?」
男は黙って近寄ってきた。ベッドと、ドアの中央にある四角い窓ガラス。その両扉が開て、ドレープがヒラヒラと泳いでいる。
透けたレース越しに私へと向けられる男の身体は、反面が月明かりに照らされた時、少し驚いた。
ペイントもなく、髪の毛も下ろし、いつもの道化師らしからぬ姿だった。
一見は“身なりを除けば“普通の姿といえようか。それとも、私は普段の彼を見慣れすぎていたかもしれない。
……__ 普段の彼。それは彼にとっての普段だったのだろうか。
人が、寛ぐような状態でいる時、本来ならば落ち着く姿でいたいはず。
もし、落ち着きたいのならメイクなどしないのでないか。
私は今、彼の本当の“素顔”を見ているのかもしれない __
“果物はいかが?“
彼はそう言って、ひょいと果物を投げ渡してきた。
くるくると空中で回転した果物を両手で受け止めることが出来た。膝下に寄せると手のひらから、甘い匂いが漂った。
目覚めた時の、グリーンアップルの匂いだ__。
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