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ヒソカ「君は彼にとって所詮、隔てる為の盾……。その盾すら僕からすればこれぐらいのものでしかないのに」
ヒソカはカーテンを指先でつまみ上げ、舐めるように見た。
「しかし幸運にもアバンギャルドの中には、団長の首を狙う死神が一人混じっているんだ。誰だか知りたいかい?」
そう言いながら、ゆっくりと歩み寄り、伸びた腕先くら、器用に咲いた花がニルの顎を掴んだ。
「何も知りたくない。彼の話はもうやめて。もう関係ないんだから」
ニルは身体の力を吸収されて、一気に竦んでゆく感覚に陥った。それ程に、次元の違いを感じさせた。
ヒソカは俯いた女が自身に怯え、昂り始めていたのを感じ取ると喉を鳴らした。
「そう。関係ない{emj_ip_0836}真実を知ったらもっと惨めかもね。でも本当はクロロのことが好きなんだろう?あの時キミの秘匿が暴かれた時、彼は何故黙っていたと思う?ロクに目もくれず、どう利用し続けられるか考えてたのさ。なにが驚きかって、サポートが捨て駒じゃなかったってことだけど。それ程にキミに価値があるってことかな?」
その彼らしからぬ饒舌さはニルの複雑な感情を、最高潮にまで扇動した。そして
………
パン____ッ!!
男の頬が平手打ちで真っ赤に染め上げられた。目の前に剣幕をまくしたてるニルを見てそれでも男は顔色1つ変えず、涼しい顔をしている。
ヒソカ「………痛いな」
ニルの顔は、男以上に赤く染め上げられていた。感情が昂り、興奮しているのが分かりやすいものだった。
「そうよ。能力のない私に価値なんてない。分かってること一々言わないで」
………また、泣きだす。
そうヒソカは直感した。
だが、その震えは反射的に出てしまった手に、後悔しているようにも見えた。
ヒソカ「心外だな、君の為に__」
「何度も言わせないで……!あんたみたいなキチガイに何が分かるのよ」
ニルは再び手を挙げて、暴力に訴えようとした。
____ 君ってやつは、これほど心配している者が側にいても、何も気にかけない非常な奴のことを想っているのか。
大切にされるより、無造作に扱われた方がいいというのか __
“パシッ”
ニルの振り出された腕を、容易に止めた。
前髪の隙間から見える垂れた目が若干凍てついていた。
「どうなってもイイのかな」
ニルはその表情に殺意にも近いものを感じて硬直した。
男が腕を解放してからも、脅威からずっとその状態のまま放心していた。
「ボクじゃなかったら死んでたよ、キミ。誰からも求められないのが寂しいとガキみたいにキツく当たっちゃうなんて。……甘えかい?」
「甘え?」
「ボクがいなかったら誰に当たれるんだい?」
キミが沈黙してる間、怯えている間、ボクは至福だったのかもしれない。
気付いたらボク以外を考える余地なんて与えてやらない……って意地になっていたから。
「……全部、あんたのせいよ……」
もう………嫌われてしまったかな?
いいんだ。それで。
ボクを傷つけてキミが癒えるな本望だし、それ以上のことなんて今は出来ないって悟ってたよ。
でも__ 心残りがある。
もっといい“終わり方”があったんじゃないかって。
なんて言ったら良かったんだろう。
辛かったね
ずっと側にいてあげる
慰めてあげる
だから
ほら、泣かないで
ねえ、泣かないで
そして僕だけを見ておくれ
月を見つめる彼女の前では、何を言ったところで無為に消える。
虚しいね、僕は君という近い月を見ている。
悲しいね、ボクはキミの御月様になれないの?
玩具は壊れたら遊べない。でも僕は君よりも不器用だから、触れてもいけない。
愛玩物が劣化していく過程を、傍らで鑑賞しているだけ。
僕は無力な道化師
人を笑わせられないなら
僕は一体 何__
そう、僕は道化師
笑わす事すことすら出来ないで
いつも心の奥が泣いている __
「ヒソカ?」
彼女は不思議な物でも見た様な顔をしていた。ヒソカが、泣いている。それも、緑じゃなくて透明だ。彼は人間だった。そう、今になって知らされたみたいに。
「ボクはキミの1番の理解者になれるんだけどな」
喉仏は、低い所に止まっていた。一つ一つ、無抵抗の男から皮が剥がれていくように顕れる“らしくない”仕草。
これが男の 真の姿 であった。
「え………?」
目元中央から、光の線を引く様に伝ってゆっくりと顎の先に着いて、やがてポタリと一粒落ちる時、ヒソカは女を玩具以外の別の物に見立てていた事に気付いた。そう、彼女は月だ__
しかし月を見つめていても、月は見られていることにすら気付かない
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