5
側においでよ。僕の月。
ああ、君でどうやって遊べばいいだろう。
甘え方を知らずにベッドの中で鳴いている。
脆い、傷だらけの月 __
「ちょっ………なに……」
両腕が、ニルの顔左右に押さえ込まれていた。
両足の左右には、男の両足が固定されていて、あたかも四股の檻に入れられたように逃げる術を奪われている。
柔らかい弾力の上で2人は安らぐ間もなく
ニルは仰向けになり、体面せぬよう身体を左に捩った。
その先に佇むは太く白く、筋が浮いている腕。奇妙な感情が揺らいだ。
トクトクトクと鼓動が高鳴り、ニルの呼吸が乱れた。
ヒソカはじっと、俯瞰をしていた。彼女から、一切目を逸らしはしなかった。それはまるで、賭けの場において弱点を一寸も見逃しはしない、といった執念を感じさせる。
後がない賭けだ。
生暖かい息が、肌に触れる。
接近を図っておきながら、男は髪の毛一本すらないまとも触れようとはしない。
ニルの胸を掻き乱すだけで、差し当たりその気が無いのかもしれない。
しかし、周到な男のこと、この状況に至るまでにも下準備があったろう。
この機会をいつも何処かで伺っていたはず。
夕暮れの波止場、蜘蛛の中から抜け出た時、
、ヒソカが幻影旅団に入団をした瞬間から、いや、ひょっとしたらニルが彼に出くわす前から、すでに賭けが始まっている最中であったかもしれない__
ニルは、顔を背けていた。
それは決してヒソカからではなく、彼の側面に気付かぬよう直視することを避けていた。
「……ガムで拘束出来るのに、しないの?」
「お互い様だろう?キミ、未来を見れるんだってね」
ニルはその言葉に不意をつかれ目が泳いだ。
「ごめんね、前から知ってたんだ{emj_ip_0836}」
2つの柱が、左右で押しやられ、減り込んでいく。目先の腕が、ナイフのように1つの凶器に見えた。
ニルは目をギュッと塞いだ。
「クク、使えばどうなるかなんて分かってしまえるじゃないか。人はいつも未来を見たがるのに、危機的状況下ではそんな余裕もないのかい?それとも恥ずかしいのかい?」
「うるさい」
「……そんなに可愛いと壊したくなっちゃうな」
次第に瞼の筋肉が緩んでいった。
目の前には先程と変わらぬ表情で、瞬きせず見ている男がいた。
「やっと見てくれた」
「もう熟してるでしょう?いつまで焦らす気?」
「さっきまで怖がってたのに急に余裕な顔だね」
ヒソカは本当に殺意はない。ニルは、それが絶望的だった。彼の色に染められる未来を想像して仕方がなかった。
未来予知能力を使うことすら陵辱行為に尽きて、男の思惑通りに事が進むのだ。
「バカにしないで。ヤるならさっさと済ませてよ」
「ふぅん。その後キミは生きてないかもよ?」
「………」
考えが読めなかった。
このまま黙っていれば侵されて殺される。
しかし腕を振り払って逃げようとすれば、殺されるかもしれない。
逃げる前にガムで捕まえられるかもしれない。
自分で自殺を図ろうとすれば、犯されるかもしれない。
何れにしても
殺される、と思ったら怖くて仕方がなかった。
「キミは死ぬほどの痛みを与えられながらギリギリまで生かされ続け、死んだ後は視界を奪われ、真っ暗な独房の世界で死に続けるんだ。ボクの得意な生殺し、味わうかい?」
ヒソカはトランプを指の間でくるりと回した。
「そんなのイヤ……!お願い……、死にたくない………っ助けて……」
泣きながら命乞いをするニル
「素直でいいね。殺さない代わりに何でもしてくれるの?」
「………」
「何もしたくないけど、生かしてはほしいと言うの?……呆れるね」
「何をすればいいの……?」
ニルの瞳がぐらぐらと震えていた。
動揺することは至極自然なことであったが、涙は止まってオマケに、呼吸が安定であった。
ヒソカにはそれが面白くなかった。
____もう理性を失って自身がなにを考えているか理解出来なくなっている。ボクの気迫にも不思議と怖気ないのは短時間で耐性をつけたからではなく 諦めてしまったからだ。
そう考えた。
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