気配
____翌日
街の大広場は、何やら賑やかしかった。人集りの中央では、大道芸が行われている。
クラブを3つ、ジャグリングしていると、どこから現れたのか途中から4つに増えて、それを器用に回している。
類を見ぬ芸当は見事に観客を湧かせていた。
男は、“赤毛男”か“奇術師”以外に名を持たなかった。
というのも、「匿名希望のピエロ」と公言しているのだ。
赤毛男はディアボロというヨーヨーのようなコマと、ジャグリング用のクラブの他には何も持たず、色んな街に着いては無償で路上パフォーマンスを披露していた。
キルア「げっ、嫌なもん見た……」
たまたま通りかかった少年2人に向けて、舞台上から赤毛男が微笑んだ。ジャグリングの最中で、目配せするのは並の人間には到底出来ぬものだが、平然とやってのける男に観客一同、目玉が出ずっぱりだ。
ゴン「ヒソカ!何でここに!?」
次いで、舞台上に視線をやったゴンは半ば叫び声で、驚いた様子を見せた。
キルア「何で……ってか、ここに来る前の街にもいたぞ……」
2人は、赤毛男を以前から知っていた。それもそのはず、ハンター試験の際に洗礼を受けたり、グリードアイランドでの思わぬ同行で、彼の様々な側面を見ている。
そんな交流は多々あれど、関係性は無いに等しい。
何故ならいつかは相見えるはずだからだ。しかしその緊迫感を払拭するようなあのポーカーフェイスは、見た目以上の薄気味悪さと奇異感ゆえに“こいつは色んな意味で危ない”と2人は悟る。
相手からしてみれば、獲物を捕縛する為の愛想付き合いもとい監視と言ったところだろう……そう思うと、鳥肌が立つキルアであった。
キルア「うっ、気持ち悪っ……」
キルア(そいやこの悪寒は身に覚えがあるぞ)
時折、背後から見られている感覚に陥っていた2人であったが、埒があかないのでこの頃は話に出さなかった。
だがこの日赤毛男を見た瞬間についに終わりを迎えるような気がした。
キルアはいても立ってもいられず不安げな顔をして話を切り出した。
キルア「なあ、この頃、変な気配があるだろ?」
ゴン「うん。ヒソカと会ってからでしょ?でもそれとこれを為合わすには難しいよ」
キルア「グリードアイランドから3日に一回の威圧感、背後から奇妙な音、不自然に落ちてる粘着物、からの白昼堂々大道芸!?いくら何でもタイミングがマッチし過ぎだろ!」
ゴン「大道芸ってお昼にやるもんでしょ」
キルアはため息混じりに嘆声をあげ、打っても打っても外れる的の気分のように焦燥した。
キルア「そうじゃない!お前ぜんっ全わかってないな!ちょっとは用心しろってことだ!可能性を視野に入れてんのに無防備にして寝首かかれたりしたら悔しいだろ!」
ゴン「分かるよ、でもそんなこと言っても埒あかないよ」
キルア「ああ!?じゃあどうすんだよ!?」
そうこうしているうち、舞台の上はラストスパートに移っていた。
赤毛男は観客を舐めるように一通り見ると、退屈そうな表情を浮かべ、大量のトランプを高く散らし上げる。
男の姿がそれらに覆われ、ひらりくらりと地面に着地する頃、男の姿は無かった。
一瞬あたりはどよめいた。その瞬間を、誰も目に捉えることは出来ず、路上には匿名希望の大道芸人の小道具が残されたままだった。その中にいくつか、小銭も混ざっていた。
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