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『赤』は珍しげな頭髪の色から名付けられた。もちろん名前というよりも、色の違いを指す記号と同じ扱いで付けられただろう。
しかし呼んでも反応がないので本人にはあまり意味のない記号だ。

『赤』はその年頃の子供のような仕草をする。
毎日、紙とクレヨンを机に置いて、絵を描く。
どれも画力がぶっ飛んだもので、常人には理解しがたい。

「ハート」「ダイヤ」
「スペード」「クローバー」

一度書き始めると、憑依(ひょうい)されたなのように紙と向かい合う。
差し出された昼食はとうに冷め、オヤツの“お”の字にも全く関心がない。
ただひたすらペンを擦らせ、ガリガリとしきりに響く。小窓一つの、薄暗い個室に・・・

箱にごった返すリンゴから適当に掴みとられてここにやって来るまでは、一人の人間だったらしい。

もっとも、贈り者という概念が存在しなければ実際『赤』は一人の少年だった。

だが『赤』は自分が『それ』であろうが『少年』であろうがどうでも良かった。
それに、孤独に耐性があり一人ぼっちでも現場にはとても満足している様子。
なんせ『赤』は人も感心するほど一人遊びの達人で、1日はもっぱら暇潰しに専業する。
もちろん朝飯前。人を驚かす産物を生み出し、そんな芸ばかり身につくのは時間の問題だった。



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