第04話〈お迎え〉
有りもしない月の下で息を吐く。
息を切らし、また息を吸う。
普通のことが今では普通にできない。
うっ・・・・・うぅっ・・・・。
誰か助けて、お願い。
誰か・・・・怖い・・・・。助けて・・・。
何をするにしても“これだ”と解釈するには、それなりの裏付けが必要だった。
けれど、少女は既に終わりを見ていた。
ここには入り口が1つしかなくて。
だけどここは行き止まりだった。
鉄格子の隙間からは外を覗けるが指を咥えていることしか出来ない。
それだと疲れるだけだから、しゃがみ込んだ。
折り曲げた膝と、二本腕を前にして、長い夜を過ごす。
後頭部の向こうには何も無ければいいと思った。
出口が手一杯に通せんぼするから。
悟にはまだ早い。
人生が一本道だと知るにはまだ。
まだ早い。
・・・・少し前、教師に言われたことを思い出した。
朝7:21分。
ガチャガチャガチャ。
眩い。長方形の入り口から入射する光は、奥にいくほど拡大した。闇は呆気なく真っ二つに切り裂かれてしまった。物の陰に隠れなければ。闇と壁にすがりつく。闇はか弱い。息の根はか細い。
どうしたって抗えない。
恣意的な光。
今や遅しと食べられてしまう。
でもまだここに影がある。
影。影、影!
光の支配を免れた隅で、影のナイトに護られている。
現れた影の男は、そこから引きずりだそうとする。
ああ、ああ。ああ!
この影の中は違う。
逆光を帯びた者の翳りは・・・。
「行こうか」
どこに行くの?
「さあ立て」
ここにいたい。
ここに。
ここにいたい。
まだココニ。
此処
ここって?
ココはドコ?
私は
ワタシは
どうなるの?
神経が明快に、そして正確に。
研ぎ澄まされている。
灼ける暑さ。
皮膚の表面が光沢する。
目の表面が灼ける。指の皮膚をすり抜けて。
三半規管が揺らいだ。
視界がぼやけた。
目眩がする。
影が、闇が遠のいていく。
後ろへ、後ろへ。
ズリリ、ズリリ。
ゴムと砂利がこすりあう。
光の淵に引きずり込まれるわたし。
やがて、いっそう、全てが闇。
「タバコ吸いたい。」
何事もなく、ただいつものように
そこに存在する平穏な世界。
私の周囲は今までと何ら変わらない
変わらないのだ。
相も変わらず、今日も。
とって食われるだけの人生は嫌だな。
そうだな。豚さんが言った。
小屋から注がれた光が、解放だったなら。
「タバコ吸いたい。」
世界が退廃してゆくようだ。
神経に麻薬が巡り行くのだ。
「手に持ってるだろう」
・・・・・ああ・・・・本当だ。
無数の灰が棒の形状を保ったまま、固まっていた。
何だというんだ。いったい今、私の身になにが起こっているのか。
ガラス越しにある見渡しのいい景色。これでは丸出しで隠れるところもないだろう。私は一体なにを考えている。誰が隠れるっていうのか。走行中の車のドアを押し開けて、映画のワンシーンにいた破天荒な男のように逃亡する者がいるだろうか。
大半が黄緑色で、素朴としているここで?
特に観賞向けではない。本当は果てしなくつまらない。
見ている景色の中に自身の後ろ姿を思い浮かべるているのだ。
バッファローの唸りのようなエンジン音の中、タイヤと道路の摩擦音が聞こえる。
それが私の判断を揺さぶる。
やっぱりやめておこう。どっちにしろ無理だよ。
随意に開けられないドアを開けることなんて。
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