白銀はベッド上で小さな夢を見た。


10月の終わり頃だろうか。
この花が枯れたことに気付いた時には、キンモクセイの香りも消えていて、
閉ざされた部屋の中で、僕は本と同じようにホコリを被っていた。
ふと腕を見ると、白い棒のようなものが傍にある。
手に取ろうとしたら一緒に動き始めた。
なんだか少し怖い。けど笑える。

この部屋は傍の小窓のおかげで明るい。
きっと、パステル・イエローがなければもっと。
僕はかれこれ、数ヶ月は光を遮ったろうカーテンにやっとの思いで手を伸ばす。
僕の手が一段と白くなり、無数のホコリに囲まれた。
「掃除でもするか」と呟いて、窓を開けた時。
まだ秋に取り残されたままの僕はびっくりして身を震う。
いや、厳密には夏で時が止まっている。
こんなにも経ってしまったというのに、僕の心はずっとあの時のままなんだ。

白銀の少年はベッドに横たわり目を瞑る。
何かを見ることも、座ることさえ、この際疲れてしまうのだ。
身体の衰えとは実に恐ろしいものだな。
死のうとすれば容易いことだ。
以前、街中で歩いてる老人を見て、膝や腰を曲げてることに疑問に思ったことがあったが
今思い返すと『体が思うように動かなくなる』という本当の意味が分かる気がする。
でも、そんなことをあけすけに言ったら「若いうちから何を言う」なんて、あしらわれるかもしれないな。
けどね。残念だけど僕はその「若者」の一人ではないし、そんなことすらマトモに言われずに
この世で一番静かな終わりを告げるだろう。
そうすればみんなが憐れみながら
「何で、あんなに若いのに」
「なんで」「どうして」って騒ぎ立てるだろう?
その時にようやく、僕は存在するんだ。
開いた窓から、冷たいホコリが舞い込んだ。
2日後の朝、世界は少年の色に染まったのだった。


おわり。


4年前に書いた子。
記念に載せてみました。

- 12 -

*前次#


ページ: