なんて哀しい人
※自傷行為表現注意。
体育祭まであと数日、そんな休みの日に私は一人でカッターとにらめっこをしていた…。
消太くんはあの怪我だから学校で寝泊りをしている…襲撃以降私は消太くんの家で一人で過ごしていた。
少し寂しいだけで特に何も問題は無く体育祭までにできる準備をしていたわけだけど…私はある一つの個性の使い方とその使い方によるデメリットを見つけ出し、自分で実験をして研究を繰り返していた。
始まりはそう、暴走で行った自分の行動…暴走をしていた時は自分の感情に呑み込まれて記憶が曖昧だったのだけど、その時近くに居たであろう緑谷くんに色々話を聞いた…彼は少し私を恐がっていたのを見て申し訳なくなった、二度とあんな事が起きないようにしたいのだけど…実はあの時の暴走は聞いた限りの話とおぼろげではあるがその時の自分の記憶が過去に起こした暴走のそれとは違っていたから難しいかもしれない…。
昔に起こした暴走はそれこそ感情を剥き出しにして…そう、例えるなら初めての訓練での爆豪くんのような感じで暴走をしていたのだ。
だけど話に聞く私は感情を露わにする所か殺しきったように無表情でいたという…そして気掛かりなのは私が出した事も無い黒い炎の話…何を具現化してそんなものを出すことができていたのか分からない…いや、分かってはいるのかもしれない…分かっていて私はそれを認めたくなくて無意識に見ないふりをしているのか…でなければ暴走をしているとしても自分自身で生み出したものが分からないなんて事は無いはずなのだから…。
頭がごちゃごちゃする前にノートに自身の考察をまとめていく…こうすれば頭の整理ができるし、落ち着く事ができる…落ち着けば段々と見えてくる事もある、それが消太くんの教えだ…そしてそれをここ数日、学校から帰った後や休日に繰り返してきたおかげで見えてきた答え…それは私の"個性"は感情を"具現化させる"だけではなく"何かしらのエネルギーに変換"する事ができるという事。
その考えを裏付ける出来事がある…医師の人に聞いた消太くんの傷、血が大量に出ていたにも関わらず傷口が見当たらなかったという不可解な出来事…それはつまり、暴走中に私は消太くんの傷を治したという事…。
それならばそれを確信に変えようと思い立ってカッターを取り出したわけだけど…これ、絵面が多分恐ろしい事になっていそうな気がする…家に消太くんが居なくて良かった、ぱっと見手首を切ろうとしている女子高生だし…手首は切らないけど…。
カチカチと音を立ててカッターの刃を出して指に当てて刃をスライドさせる…思ったより深く切れてしまったようで血がすごい勢いで出ていくしすごい痛い…傷付いた指に手を添えてあらかじめ用意していた感情を表す言葉を頭に浮かべてそれを力に変えていく…なんでも良かった、早く治って欲しいとかそういう気持ちで自分の中をいっぱいにするイメージでただじっとしていると手が光り始めて血が止まって痛みが次第に無くなっていった…光が消えてから手をどかすと傷があった場所はふさがって綺麗に治っていた…。
血だらけになった机をティッシュで拭き取ってから濡れた布巾で綺麗にした…布巾は後で捨てよう…この無茶な実験がバレたら怒られそうだし…。
ここ最近こんな無茶な実験で自分を傷付けては治して使い慣らしていくというのを繰り返しているけど、消太くんが居ないからこそできる事だ…そしてこの"個性"の使い方はいつもと違うせいかデメリットまで違うのだからこんな事を繰り返していたらいつか気付かれてそれこそ怒られるだろう…。
これくらいの傷を治した後は問題無いものの、傷の重さと量によっては視力をしばらく失って生活に支障が出る…以前家の近くで恐らく車に轢かれ弱っている猫を見つけてそれを治した事があるのだけどその後殆どのものが見えなくなってしまって大変だった…次の日には回復して見えるようになっていた事が救いだ…ほんと回復して良かった…。
傷は治っても一時的とはいえ視力が無くなるとなれば戦闘中に安易に使うわけにはいかない、かすり傷に使ったとしても頻繁に使えば同様に視力を失っていく…なら使い所を見誤ってはいけない、でももしもの時の対策くらいは練っておかないといけない。
ノートにそれを書いていると突然携帯が鳴り画面を見ると予想外の人物で一瞬固まるものの、急いで通話ボタンを押した。
「しょ、焦凍くん…?」
『…急に悪ぃ、今暇か?』
「え、あ…うん…暇ですけど…?」
『出てこれるんなら駅まで来てくれねぇか?話したい事がある』
「え、えぇ……?今ですか…?」
『…来れねぇなら良い、また今度にする』
「いや、行きますけどね!!?」
『そうか、じゃあ待ってる』
それだけ言うと通話が切れた…なんというか焦凍くん結構行動派だよね…というか待ってるって事はもう駅に居るのか…時計を見ると12時になる前、丁度お昼時だしお昼を食べながら話そう…休日にまで焦凍くんと一緒かと思うとそろそろ本気で彼の交友関係が心配になってくるな…。
本当なら出かける予定も無かったので未だに寝巻きだった私は到着予定時刻を焦凍くんにメールで伝えて服を着替えて外に出た…適当に淡い色のワンピースを着てきたけど出てきたついでに帰りに服でも買ってこようかな…。
駅に着いてから焦凍くんの姿を探す…いや、探さなくても分かる…だって女性の視線を一人占めしながら気にする様子も無く座ってスマホを弄ってる焦凍くんを見つけてしまったから…すごいなイケメン、こんな漫画みたいな事ってあるんだね…そしてこの視線の中平然としてるとか確実に慣れてる。
近付いて話しかけるのに躊躇しているとなんかチャラい人達が急に話しかけてきた。
「彼女かわいいね〜?一人でどうしたの?俺達と遊ぼうぜ〜?」
「いや、あの…人と会う約束してるんで…」
「って言ってもずっとここで立ってんじゃん、暇なら一緒にゲーセンにでも行こうぜ〜」
ずっとって程立ってないよ!!焦凍くんのイケメンオーラに戸惑ってたんだよ!!
心でそう叫んだけどそんな事口に出せるわけも無く、適当に返答していく…というか私そんなに可愛くないだろうにナンパしてくるとか暇人なのかな?
「日詠」
「へっ?あ、ちょ、ちょっと…!!?」
「行くぞ」
そんな事を考えてると突然後ろから名前を呼ばれたと思ったら焦凍くんがいて、そこから腕を掴まれてそのまま半ば無理矢理別の場所に移動させられた…頭が追い付いてない。
駅から大分離れた場所でようやく焦凍くんが足を止めて私の方を向いた。
「…お前は面倒事に巻き込まれる体質か何かなのか?」
「やめてください焦凍くん、薄々思ってたことを言うのはやめてください」
「だったらもっと警戒心を持て」
「これ私が悪いんですか…」
解せぬと不満をもらしたら焦凍くんは大きなため息を吐いた…失礼だなこのイケメン、イケメンだからって何でも許されると思うなよ、私は許すけど。
とりあえずという事で適当なファミレスに入ってお昼ご飯を食べてから当初の目的、焦凍くんが話したいという事を聞くことにした。
最初は言いにくそうにしていたがぽつりぽつりと言葉を紡いでいく…焦凍くんが話す彼の半生と家庭環境は思ったよりも重く、そんなものを彼は一人で抱えてきたのかと胸が苦しくなった…彼は私の人生を「壮絶な人生」と言っていたけど、自分こそ壮絶な人生じゃないか…焦凍くんがそれを話した後、私は何も言えなかった。
そして最初の訓練の時に私が炎を使った時彼があんな反応をしたのも頷けた…それはそうだ、自分が憎んでいる父親であるエンデヴァーさんもまた炎を使うのだから…あの時きっと私がエンデヴァーさんに見えたのだろう。
「…本当なら、もっと早くに日詠には話しておこうと思ってた…」
「え…」
「こんな話、色んな奴に話す事でも話したいって思う事でもねぇ…でも日詠は俺にだけじゃねぇけど、話してくれただろ…?あの話を聞いてからずっと話そうとはしてたんだが…なかなか話を切り出せなかった…」
それを聞いて、彼の行動を思い出した…あの話をしてから焦凍くんに誘われては大体一緒に行動していたけど話さなかったりわりと意味不明な行動をしていた…ああ、そうか…ずっと話す機会を窺っていたのか…。
「話さない方が良いのかもとか考えたんだけどな…お前が支えになりてぇとか信じてるとか言ってくれた時、すげぇ嬉しかった…それでも話すまでに時間かかっちまったんだが…体育祭が始まる前に話せて良かった」
「…体育祭…?」
「…クソ親父が来る…だから戦闘において俺は左はぜってぇに使わずに一番になる…」
「…そう…ですか…」
「お前も気を付けろよ」
「へ…?」
「お前の"個性"はあいつに目を付けられそうだからな…変な事を言ってきたら無視しろ」
「……わかりました…」
あまり人を疑うなんて事はしたくないのだけど…これはきっとしかたがない事なんだろう、頭の隅にでも置いておこう。
「悪かったな、こんな話の為に休日に呼び出しちまって」
「いえ、話してくれてありがとうございました……あ、そうだ!焦凍くんにこれあげます!」
「…なんだこれ…」
「ライオンのストラップです、今作りました」
「いやそれは分かってる…なんでこれを俺に渡すんだ、あと"個性"を公共の場で使うな」
「人を傷付けない範囲での"個性"使用はわりと許されるんですよ…"勇気"って感情を具現化させて作ったものですからお守り代わりにどうぞ」
「…こんなのも作れるのか…八百万みたいだな」
「感情と形が一致しないと作れないので百ちゃんみたいに色々作れるわけじゃないんですけどね…でもまぁ似てるかもしれません、焦凍くんや爆豪くんの"個性"も真似できますし」
「…ふーん…まぁありがたく貰っておくが、これ同じもんもう一つ作れるのか?」
「作れますけど…どうしてですか?」
「それはお前が持ってろ」
真顔で渡したストラップを自分のスマホに付けて満足そうにしている焦凍くんに対してぽかんとしながら作った同じデザインのストラップを握った。
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