おそろいの勇気
日詠に自分の事を話そうと決意をしてから大分時間がかかった…話すタイミングは何度もあったはずなのになかなか話題を出せずにいたら、気が付くともう体育祭まで時間が無い…体育祭当日に話すって事もできるかもしれないが…多分…いや、絶対俺は当日かなり気が立っている事は予想できた…それじゃあきっとあいつは怖がっちまうだろう、だからできれば前日までに伝えるべきだと思った…俺も、あいつに信頼していると伝えたかったからってのもあるかもしれねぇ。
それで学校で言えないなら休みの日に伝えればいいんじゃねぇかって思い立ったはいいが、俺は朝からずっと駅前で日詠に連絡しようかしないかで迷ってもう数時間は経っている…明らかに不審者だ、何回か女性に話しかけられたしいい加減覚悟を決めるべきだと思って携帯を弄って通話ボタンを押した…そういえば俺から連絡するのこれが始めてだな。
『しょ、焦凍くん…?」
声が、近い…。
なんだこれ…ばくばくと鳴る心臓を抑えてできるだけ冷静に、いつもの声を出すように心掛けた。
「…急に悪ぃ、今暇か?」
『え、あ…うん…暇ですけど…?』
「出てこれるんなら駅まで来てくれねぇか?話したい事がある」
『え、えぇ……?今ですか…?』
「…来れねぇなら良い、また今度にする」
『いや、行きますけどね!!?』
「そうか、じゃあ待ってる」
それだけ伝えて急いで通話を切った…何してんだ俺、完全に半ば無理矢理約束をこじつけて、最低じゃねぇか…。
それでも、戸惑っていても来てくれるらしい事には安心した…歯切れの悪い返事が最初返ってきたから無理かと一瞬思ったが、どうやら
杞憂だったようだ…少ししてから律儀にも到着時間予測のメールが届いて少し笑った。
待ってる間暇だったから適当にその辺で話せそうな場所を探した…昼前だし飯が食えるとこの方がいいだろ。
弄っていたスマホの時間を見るともうそろそろ来る時間かと、顔を上げてあたりを見回す…まだ来ないか…?あいつの家そういやどこだ…。
ふと視界に入った見慣れた長い銀髪…太陽の光が反射してきらきらしてんな…とか、今日は髪しばってねぇのか…とか考えて数秒、明らかに良からぬ事を考えてる輩があいつに絡んでるのが分かった…あいつ変なのに絡まれやすいな…初めて出会った時もこんな出会いだったのを思い出した。
だけどあの時と違うのは、
救けないとという気持ちだけじゃなくて何となく苛立った事だ。
「日詠」
「へっ?あ、ちょ、ちょっと…!!?」
「行くぞ」
気が付いたら日詠の腕を掴んで引っ張っていく…なんか男共が喚いてたけど睨んで早足にその場を去った…思わず氷漬けにしちまいそうだった…なんかすげぇ胸の中がモヤモヤして苛々してしかたがなかった…。
足を止めて後ろを見たが、運が良かったのかあいつらは追いかけてはこなかったようだ…それから日詠を見て特に傷が付いてるわけでもない事を確認してから口を開いた。
「…お前は面倒事に巻き込まれる体質か何かなのか?」
「やめてください焦凍くん、薄々思ってたことを言うのはやめてください」
「だったらもっと警戒心を持て」
「これ私が悪いんですか…」
小さな声で解せぬと呟いているが、自覚が無い日詠が悪い…性格もいい奴だけど外見もそれなりにいいだろ…いや、よくわかんねぇけど…俺はかわいいと思う…何考えてんだ俺…息を吐いて落ち着かせた。
何故かジト目で見てくる日詠を連れて適当な店に入った…話を聞いてもらうんだからこいつの好きなもんとか聞いとけば良かったな、失敗した…まぁファミレスならメニューも豊富だろうし大丈夫だろ…。
食うもんをお互いに注文をして、食ってから話そうと思った…食いながらでも良かったんだがそんな軽い話じゃねぇしな…でも食い終わった所で決心したからと言って簡単に口に出せる話じゃなかった、初めてこの話を人にするんだ…どこから話すべきか、頭ん中で整理した筈なのになかなか出てこねぇ…日詠も話した時こんな気持ちだったんだろうか。
落ち着いて、一つ呼吸をしてようやく口を開けた…まず俺の出世の話、個性婚の話…それからお母さんの話、俺の半生の全てを…体育祭に懸けるつもりでいる思いも全部話した…それを聞いた日詠は苦しそうに、泣きそうな顔をしているもんだから「あぁ、こいつは他人の事も自分の事のように思えるような優しい奴なんだな…」って思った…そんな顔は見たく無かったけど、不思議と話せて良かったと思えた。
こいつに気を許せるのは多分、そういう話をしても哀れんだりしないで親身になって聞いてくれるとこがあるからなんだろう…嬉しい事は自分の事のように笑ったり悲しいことは自分のことのように泣いたり…そういった感受性豊かなところがあるから…だと思う。
「…本当なら、もっと早くに日詠には話しておこうと思ってた…」
「え…」
「こんな話、色んな奴に話す事でも話したいって思う事でもねぇ…でも日詠は俺にだけじゃねぇけど、話してくれただろ…?あの話を聞いてからずっと話そうとはしてたんだが…なかなか話を切り出せなかった…」
情けない事この上ねぇよな…ここ最近ずっと日詠の時間を奪ってきたってのに、結局今日この時まで俺は言えずに過ごしてきた…その事に多少罪悪感はあったから流石に謝っておいた…。
「話さない方が良いのかもとか考えたんだけどな…お前が支えになりてぇとか信じてるとか言ってくれた時、すげぇ嬉しかった…それでも話すまでに時間かかっちまったんだが…体育祭が始まる前に話せて良かった」
「…体育祭…?」
「…クソ親父が来る…だから戦闘において俺は左はぜってぇに使わずに一番になる…」
「…そう…ですか…」
「お前も気を付けろよ」
「へ…?」
「お前の"個性"はあいつに目を付けられそうだからな…変な事を言ってきたら無視しろ」
「……わかりました…」
それだけ言うと気まずそうにジュースを飲む日詠…多分こいつは俺とは違って人を疑ったりするのは苦手…というか嫌なんだろう、そういう純粋な性格だっていうのはよく分かってる…でもありえないことじゃねぇ、あいつなら日詠の"個性"を欲しがってもおかしくない…日詠まであの親父のせいで狂わされたらと思うと気が気じゃない…。
「…悪かったな、こんな話の為に休日に呼び出しちまって」
「いえ、話してくれてありがとうございました……あ、そうだ!焦凍くんにこれあげます!」
「…なんだこれ…」
「ライオンのストラップです、今作りました」
「いやそれは分かってる…なんでこれを俺に渡すんだ、あと"個性"を公共の場で使うな」
「人を傷付けない範囲での"個性"使用はわりと許されるんですよ…"勇気"って感情を具現化させて作ったものですからお守り代わりにどうぞ」
「…こんなのも作れるのか…八百万みたいだな」
「感情と形が一致しないと作れないので百ちゃんみたいに色々作れるわけじゃないんですけどね…でもまぁ似てるかもしれません、焦凍くんや爆豪くんの"個性"も真似できますし」
「…ふーん…まぁありがたく貰っておくが、これ同じもんもう一つ作れるのか?」
「作れますけど…どうしてですか?」
「それはお前が持ってろ」
爆豪の名前が日詠の口から出た瞬間何故かイラついたが、貰ったストラップはありがたく貰っておくことにする…シンプルなデザインのそのストラップは男の俺が持ってても別段違和感を感じないもので…まぁ多分その辺は日詠が俺の事を配慮した結果なんだろうが、どうせなら同じものを日詠にも持っていてほしかった…そこに大した意味は無い、ただなんとなく…だ。
ストラップを自分の携帯に付けて、日詠を見るとぽかんとした表情で俺を見ていたから…そのまぬけな顔に少し笑ってやった。
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