未来に幸あれと静かに願う




まぁね、そんな事だろうと思ったよ…。

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?』
「なーにやってんだ……?」
『どーしたA組!!?』

応援用のポンポン…名前わかんないけどそれを持ってA組の女子が全員青い顔で立ち尽くしてる…やっぱり嘘か、嘘なのか…そうだよね、消太くんはそういう事はちゃんと事前に話してくれるもの……それを信じていればこんな事にはならなかったのか…こんなに肌を出して人前に…出るなんて…っ!!

「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」
「よし、あの二人殺そう」
「気持ちは分かるけど落ち着いて日詠ちゃん」

もうこの際恥ずかしいとかもうお嫁にいけないとか私の気持ちはどうでもいい、百ちゃんの純粋な心をもてあそび騙したあの男共は許さない、そして消太くんの名前を使った事は万死に値する。

「元からだったけど口調変ってからさらに男らしなったな日詠ちゃん」
「かわいい女の子が傷付いてるとこは見たくないだけだよ」
「でもだからって自分をないがしろにしちゃだめよ日詠ちゃん」
「そうですわ日詠さん!!」

がばっと起きた百ちゃんにがしっと手をつかまれた…というか、距離が近い…美人さんにこんな接近されると同じ女でもちょっと照れるね…。

「日詠さんは可愛らしくて優しくて…殿方が放っておくわけないのですからもっと自覚を持つべきですわ!!」
「お、おう…?」
「こんなに体も細くて華奢で…髪もお綺麗ですし…」
「まって、やめて、それ以上はやめて百ちゃん、恥ずかしくなってきたから」

百ちゃんを落ち着かせて手を放してもらったけど、少し離れたとこで峰田くんが騒いでいたので先程の恨みも込めて軽く攻撃をしておいた。


レクリエーションがはじまる前にくじ引きで最終種目の組み合わせを決めるらしい…レクに関しては上位16名は参加するもしないも個人の自由…なら私はどうしようかと悩んでいたら尾白くんと庄田くんの辞退発言に皆が騒然とした…理由を聞いて胸が痛くなった…あの二人の辞退に自分も無関係ではないから、何も言えない。
自分で蹴落としておいてそれを見て見ないふり…なんて、私も紛れも無く醜い人間なのだろう…綺麗事を言うつもりも無ければ、責任を感じて辞退するなんて事もする気は無いあたり私は酷い人間だと自負する。
生き残る為には、仕方の無いこと…そう割り切ってしまうしかない。

結果二人の棄権はミッドナイト先生の好みにより認められ、繰り上がりから一佳ちゃん達は鉄哲くんのチームに譲り、鉄哲くんと塩崎しおざきさんがトーナメントに参加となった。
組の表が出され、自分が戦う相手を確認する…勝ち進めていけば爆豪君とは三戦目で戦える…途中焦凍くんと当たらなくて良かったと思うべきか……彼が二回戦目に当たる相手を見て少しだけ眉をひそめた。
一回戦目は三奈みなちゃんだった。

「日詠ちゃん!よろしくね!!負けないよー!!」
「うん、私も…本気で行くから」

笑顔を作って三奈ちゃんに答えた…皆本気だ、それなら私も本気をぶつけないと失礼だと思った…それにこれ以上、私は人の心を踏みにじるような真似はしたくなかった…。
それならば、と…女の子達に謝ってから着替えて、寝ようと思って更衣室から出た瞬間思いっきり誰かに手を引っ張られわけの分からないまま人気ひとけの無い場所まで連れて来られた…誰にとか、言わなくても分かってほしい。

「せめて一言声くらいかけようか焦凍くん、一歩間違えたら誘拐だよ」
「…悪い、今声かけても…逃げられちまいそうだったから…」
「うん、まぁ…気が立ってるの分かるし顔眉間に皺寄ってるからこわいし、かける言葉によっては逃げるかもね…?で、何か用かな?」
「…用、ってわけじゃねぇが…お前さえ良ければ少しだけ相手してくれ」
「はじまる前に仲良しごっこじゃねぇんだって言ってなかったっけ」
「……お前には言ってないだろ、嫌なら良い…」
「ごめんね、拗ねないで…寝る時間くれるならいいよ」
「…もう疲れたのか…?」
「いや、体力温存と個性使用による疲労の回復の為…トーナメントは全力で行くつもりだからね」
「そうか…お前と当たるとしたら決勝か」

私が決勝まで行けたらね、という言葉は飲み込んで適当に相槌を打った。
私は焦凍くんみたいにはっきりとした目的みたいなものはない…ただ爆豪くんと戦いたかったから、消太くんに恥ずかしいところを見せたくなかったから……あと、まぁ…もう一つ実はここまで頑張ってきた理由が一つあるけど、それはあくまでおまけだ…ほんの少しだけ抱いた小さな夢と願望、ただそれだけ。
本気でいくとはいえ、やっぱり明白な目標がある人との差は出てくるだろう…私の目的は少し曖昧すぎる。
焦凍くんはそれから黙ってしまった…もう何も用が無いなら、寝てしまおうか…そう思って壁に寄りかかって座るとその隣に焦凍くんも座った。

「……焦凍くんさ…」
「なんだ」
「あー……まぁいいや、ちょっとこっちおいで」
「は?」
「よいしょー」
「っ!?」

どうして私を側におくのとか、野暮な事は聞かないでおこう…焦凍くんのことだ、きっと無自覚なんだろう…私は彼が私と居る事で少しでも心の平穏を保てるのならそれでいい。
焦凍くんの首に腕を回してぎゅーっと抱き込む…一瞬驚いた顔をした焦凍くんが見えたけど気にしないで胸元に持ってきた頭をゆっくり撫でた、うん…さらさらだなこの髪。
撫でていると少しだけ抵抗していた焦凍くんが諦めたように動かなくなったので頭を撫でながらもう片方の手でぽんぽんと背中を叩いた。

「よしよし、いいこいいこ」
「……子供扱いか…」
「焦凍くんは肩に力が入りすぎてるんだよ、少しはリラックスしないと」
「………」
「まぁ理由は分かってるからこれ以上は言わないけどね、アドバイス的な感じで受け取っておいてくれると嬉しいな」

ぽんぽんと頭を軽く撫でて腕を放したが、焦凍くんは一向に離れようとしない…それどころか私の腰に腕を回して抱きついてきた…今更だけどここ人気が無いとこでよかった!!これ誰かに見られてたら絶対誤解されるやつじゃないか…っ!!

「………」
「あ、あのー…焦凍くん…?何か言うかそろそろ放れて欲しいんだけど…」
「…やわらけぇ…」
「え、セクハラ?やめよう?殴るよ?」
「リラックスしろっつったのはお前だろ、こうしてると心音が聞こえて落ち着くんだよ、我慢しろ」
「なんかまともっぽい意見で論破された……」

いつも思うけど焦凍くんどういう神経してるんだろう…いや、でも人の心音って安心するのはなんとなく分かる…私も消太くんの心音を聞いて安心して眠りに落ちたことがあった、小さい頃の話だけど。
聞いた話からすると焦凍くんは過去にこうして甘えられる人がいなかったんだろう…お母さんを苦しませる自分という存在と父親の存在…どれだけ重く暗いものを抱えて生きてきたことか…チクリと胸がまた痛くなった、この人の全てが哀しすぎて…どうかこの先に彼が幸せになる未来がある事を願うばかりだった。

家族の温かさとか知らない私が…彼と同じ目標を見ていない私が、彼をたすける術など持っているわけもないからと他の誰かに投げ出してしまう私をどうか許してほしい…。





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