一番辛いのはきみなのに
結局あのあと焦凍くんが満足するまで相手をして、会話が無くなった後その場で普通に寝た…焦凍くんにもうすぐ時間だと揺り起こされて目を擦りひっぱられながら歩く私を何も言わずに会場まで連れていく焦凍くんはやはりどこか張り詰めていて、やっぱり私じゃ力不足かとため息を吐きたくなった。
焦凍くんは二戦目なので控え室に行くからと、席を取っておいてくれと言われたので頷いておいたけど…隣に座るのか…はじまったら絶対ピリピリしてるじゃないか…爆豪くんと隣の方が絶対楽しいと思える気がするよ、爆豪くんは遊べるし…。
ため息を吐きながら経営科の人からジュースと水を貰って空いてる席に座った隣に水を置いてセメントス先生が作り出していくフィールドをぼーっと見ていた。
『ヘイガイズアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!
心・
技・
体に
知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』
マイクさんが放送を始めると同時に緊張と歓声が会場を包んだ…この中で戦うのかと思うと死にそうだ…胸の前で手を組んで今自分にできる事を脳内でおさらいして落ち着きを取り戻そうと頑張る…けど手が震えて止まらない…。
緒戦は緑谷くんと心操くん……心操くんは"個性"使用可能なら対人に関しては強い、緑谷くんが彼の呼びかけに応えてしまえばそれはよほどの事が無ければ心操くんの勝ちは確定だと思う…でも緑谷くんは予想を超えてくる人間だ、不利だろうと結果がどうなるかなんて分からない…障害物競走の事はまだ根に持ってるからね緑谷くん。
しかしマイクさんのスタートの合図が響いた時、緑谷くんは完全に停止した…ここからだと会話とかそういうのは聞こえないけど、多分心操くんが挑発したんだろう…つまり停止した緑谷くんはそれに答えてしまったという事になる。
心操くんはヒーロー科に行けた人間をあまり良く思ってない…私と共闘してくれた時彼はヒーローになりたくても恵まれなかった、そう話してくれた。
"個性"は使いようだ、と…そう教えてくれる人がいなかったら私も今の彼と同じような立場にいたんだろう、それでも真っ直ぐに心操くんはヒーローになる事を諦めなかったんだからすごいと思う……皆色々抱えて生きているんだ。
心操くんの命令に従って場外まで歩いていく緑谷くんを見て目を細めた…さぁ、きみはここからどうする?
もう一歩で場外、という所で突然その場に風が巻き起こり目を見開いた…洗脳をが解けている、左手の指を見ると中指と人差し指が腫れ上がっていた…あれは緑谷くんが"個性"を使った後のような状態…つまり、彼は…。
「"個性"を暴発させて、洗脳を解いた──…」
それに理解するとゾクリと震えた…とても恐ろしく感じた、のと同時に…何か別の感情も湧きあがった…それが何かは分からないけど、とりあえず震える身体を抑えた。
洗脳が解けた緑谷くんは心操くんに掴みかかり殴られ、それでも諦めないという目で押し出そうとしていく…心操くんが"右手"を出した瞬間、
「あ」
緑谷くんはその右手を掴むと場外へと投げ飛ばし、その戦いに勝利を収め二回戦進出の切符を手にした…。
二人に拍手を送る…心操くん、ヒーロー科へ編入してくる日がいつの日か来る事を待ちわびよう…私は彼を応援したい。
しかし緒戦が思ったよりも早く終わってしまった、次は焦凍くんか…焦凍くんの戦いも別の意味で不安になってしまう…短く息を吐いてジュースを一口飲んだ。
しばらくして二戦目がはじまる…わけだけど…焦凍くんの雰囲気がさっきより怖くなってて、なんか…あったのかな…。
相手の瀬呂くんは先手必勝、スタートの声が響くとテープを伸ばして焦凍くんに巻きつけてそのまま場外へ運ぼうとしていた…が、瞬間ビクリと自分の体が震えたのと同時に会場に大氷壁が現れ、騒然とした…。
瀬呂くんが凍らされた事で行動不能になり、焦凍くんの勝ちが決まった…会場は瀬呂くんに対してドンマイコールが流れた…。
私は怖くて、焦凍くんにどんな顔をすればいいのか分からなくなってしまった…。
氷結を溶かした事で濡れてしまったステージを乾かしている間に隣に焦凍くんが座り、思わず肩を震わせてしまった…何か言った方がいいのかもしれないけど、言葉が出なくてただ持っているジュースを見ていた。
「……悪ィ……」
ぼそりと聞こえてきた言葉にちろりと隣を見ると、悲しそうに顔を歪めて俯いている焦凍くんが見えて、私も悲しくなった…。
「…何かあった…?」
「……親父が…な……」
「…そっか、じゃあ仕方ないね…」
「…怖がらせちまって、悪い…」
「大丈夫だよ」
きゅっと隠れて焦凍くんの手を軽く握って笑いかければ焦凍くんは少し安心したように力を抜いて、でもしっかりと私の手を握り返してくれた。
「お疲れ様」
「…ああ」
短い会話の後はずっと無言だったけど、手は私の順番が来るまで離されないままだった…緊張して震えていた手はおかげで止まった。
三戦目の上鳴くんと塩崎さんの戦いは瞬殺で塩崎さんの勝ち、飯田くんの次は私なので三戦目の途中で控え室に向かうからと焦凍くんの手を離したんだけど…すこし名残惜しく感じてしまった……。
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