溢れる気持ちをどうにかして
四戦目、飯田くんが
発目さんとの戦いが始まって少しした頃に私は控え室から出てステージへ向かおうとしていると途中で予想外の人に出くわして驚いた。
「おォ、丁度いいとこに来たな」
「…エンデヴァー…さん…」
「君を探していたんだ、活躍…と言える場面は無かったが素晴らしい"個性"だね、君も焦凍と同じく"混合個性"持ちかと思ったがそれとは違う、"個性"は何か気になってね」
「…私の"個性"は"感情"です、それだけの為に私を訪ねに来たんですか…?」
「"感情"…なるほど、それならば強いな…君さえ良ければ、卒業後は俺の事務所に来ないか?そしてゆくゆくは焦凍の手助けをしてやってくれ」
「……どういう、意味ですか…」
「君を焦凍の婚約者にしても良いと言っているのだよ、君程の"個性"なら大歓迎だ」
「────」
ドクリ…と、心臓の音が自分の耳に嫌に響いた…。
何を、言っているんだこの人は……婚約者…?つまり、それは…焦凍くんの子供にも、自分の欲の為の道具にしようと言うのか…?焦凍くんがオールマイトを越えられなかった時の為の、保険…?ゾワリと鳥肌が立ってきた…沸々と黒い何かが私の中で渦巻いて気持ちが悪い…。
「最高傑作」だのなんだの言っている相手に色々な感情が混ざり合って今にも吐きそうだ…焦凍くんの気持ちがなんとなく、分かったような気がした…。
暴走してしまいそうな心をなんとか落ち着かせる為に息を吐いた…。
「……考えておきます、もう行って良いでしょうか?」
「あァ…時間を取らせて悪かったね、活躍と良い返事を期待しているよ」
肩に手を一度置かれてそのままその場を去るエンデヴァーさんへの嫌悪感がすさまじかった…今すぐに触られた服を着替えたかったけどそんな時間は無い…焦凍くんが予想した通り、私は目を付けられたらしい…私の予想を超えた発言を思い出して吐き気がする。
ズキリズキリと胸が、頭が、痛い…荒くなる呼吸とふらつく体を抑えてステージへと足を運んだ…。
門の前までフラフラとした足取りでなんとか来て、壁に寄りかかり落ち着いて呼吸をする、大丈夫…私は大丈夫となまじ洗脳するように繰り返し口にする…弱すぎる、私は弱すぎる…こんなではだめだ、分かってる、分かってるけど……あまりにも焦凍くんが可哀想で辛い…涙が出そうなのをぐっと堪えた。
今は考えるのはよそう…目を閉じて頭に消太くんを思い浮かべ、大きく息を吸って吐いた…言ってくれたんだ、大切な人が…大好きなヒーローが…「頑張れ」って、応援してくれた…それに応える為だけに頭を使えばいい、余計な事は考えるな…。
名前を呼ばれて目を開ける…ステージの上に立った時には不思議と前よりも落ち着いていた。
紹介もそこそこにスタートの声が会場に響く、三奈ちゃんは私相手に先手必勝でいくつもりだったのか素早く酸で攻撃を仕掛けてきたけどそれを避け、避けた先に居た三奈ちゃんの体術をいなして反撃…三奈ちゃんの"個性"は対人では調整が難しいのか、体術戦闘になっている…攻撃をしては避けるか防御、殴る蹴るの攻防戦…女子同士の戦いとは思えないくらいなかなか男らしい戦いだ。
「やっぱり日詠ちゃん強いなぁ!!ぜんっぜん当たんない!よっ!!」
「三奈ちゃんも、さっきから、私の攻撃避けてばっかでしょっ!!」
お互いに運動神経が良い方だからかなかなか攻撃が当たらなくて埒が明かない…攻防を繰り返しながら考える、酸を使う三奈ちゃんに焦凍くんのように足元を凍らせて動きを止めるというのは難しい…なら氷結はだめだ、一気に凍らせる程の威力は出せない事は無いけどそれはこちらの消耗が激しすぎる…だからといって三奈ちゃん程の子を気絶させるか
許容重量オーバーにさせるのは骨がいる…。
「…っ!?」
考え事をしていて気付かなかった足元に広がった弱い酸で足が滑って倒れかけた所に三奈ちゃんの攻撃をしかけてくる、滑って避けれない…!!
それならばと滑る足を利用して思いっきり三奈ちゃんの足元を蹴って転ばせた……なんか良心痛むなこれ。
三奈ちゃんが起き上がる前に三奈ちゃんの倒れた体の形を沿うように障害物競走の時に作ったのと同じ剣を突き刺して地面に貼り付けの状態にした…三奈ちゃんが動けない事をミッドナイト先生が確認して私に勝利の旗があがった。
「あー!!負けたー!!くやしーっ!!」
「三奈ちゃん大丈夫?刺さってない…?というか怪我してない?」
「だいじょーぶ!!でもくやしーっ!!」
「元気だなぁ…」
悔しいと喚いているのを苦笑しながら刺さった剣を抜いて三奈ちゃんを起こしてあげた…咄嗟にやった事だったから少し心配になったけど怪我は無いみたいで安心した。
お互いに笑って握手を交わして拍手が鳴り響く中、私達はステージを降りてその場から離れた…人の居ない場所まで着くとその場所に座り込んだ…大丈夫だと言い聞かせて抑えられたと思ったけど、やっぱり一度出かけた感情を抑えるのは正直しんどい…一応さっきの戦いで少しは発散したものの未だに溢れてくる感情に飲み込まれそうになって、それをなんとか堪えて、吐きそうになる…。
「おい」
聞こえてきた声にビクリとした…顔を上げてそっちを見ると怪訝そうな顔をした爆豪くんがズボンのポケットに手を突っ込んで少し離れた場所で私を見下ろしていた…返事をしようにもドクンドクンと鳴り響く自分の心臓が気持ち悪くてえづいていると爆豪くんが私の近くにしゃがみこんできた。
「……何してんだ、こんなとこで…」
「…っ……」
「おい、ここで吐くんじゃねぇぞ動けんなら便所行け」
「……だい、じょうぶ…」
「ひでぇ顔して何が大丈夫なんだよ、迷惑かけたくねぇなら別のとこ行けや」
ぶっきらぼうにそう言いながら私の背中を撫でてくるあたり、この人も人の子なんだなと結構失礼な事を考えて、少しだけ笑った。
「何笑ってんだ」
「いや…爆豪くんもやさしいとこあるんだなって…」
「殺すぞお前!元気じゃねぇかクソが!!」
「ああ、うん…ごめん、おこらないで…というか、控え室行かなくていいの?」
「あ゛ァ!?テメェがこんなとこで
蹲って俺の道塞いでやがったんだろが!!」
「…うん、まぁ…そっか…うん…それはごめんね、謝るよ…ついでに少し甘えてもいいかな爆豪くん…」
「嫌に決まってんだろ、ふざけてんのか甘えてぇなら勝手に救護室にでも行け」
「手握ってくれるか抱きつかせて」
「おい聞けや白髪女」
「時間無いから、手かりるよ」
舌打ちする爆豪くんを無視して手を握った私に何か言おうとしたけど、私の手が震えてるのに気付いたのかまた舌打ちして大人しく握られててくれた。
あったかい、人のぬくもりはとても安心する…ごつごつした同い年なのに私より大きな手を握って心を落ち着かせた…呼吸が戻ってきたので離してあげた、多分もう大丈夫だ…。
「ありがと…もう平気」
「くたばれクソ女」
「えー、お礼言ったのにいきなりそれ…?その口の悪さどうにかしないと本当にいつか
敵に間違えられるよ爆豪くん…」
「うるせぇ死ねっ!!俺はもう行くからな、具合悪ィならさっさと
リカバリーガールんとこ行け!!ついでに死ね!!」
「結局死ぬんだ…まぁいいや、ありがとう爆豪くん」
立ち上がって去ろうとする爆豪くんを呼び止めた、せっかくだから伝えたい事を伝えておこう。
「必ず勝ち進んで全力できみに挑む、だからきみも全力でかかって来てね…負けないから」
機嫌悪そうに睨み付けながら足を止めた爆豪くんに向かって笑って宣戦布告をした。
「…上等だ、精々そのひでぇ顔をマシにしてから俺の前に立てよ、そしたら全力でぶっ潰してやる」
ニィっと
敵顔負けの怖い笑みを返して再び足を進めた爆豪くんを見送ってようやく私は立ち上がった…そんなに酷い顔をしているのか、客席に戻る前に顔を洗ってくるかな…。
「うわ、もうお茶子ちゃんと爆豪くんの戦い始まってる…」
一度顔を洗うためにトイレに寄ったりタオルを取りに行ったりしてたら相当時間がかかってしまった…この会場広すぎなんだよ…。
「…遅かったな」
「うん…まぁ、色々あって…?」
「…?」
流石に「エンデヴァーさんに貴方の嫁になれみたいな事言われました」とか言えない、これ以上焦凍くんにストレスを抱えさせるわけにはいかない…思い出したらまた腹が立ってきたな…どうしようこれ。
焦凍くんの隣に座ってジュースを飲んだ…ぬるい…。
戦いを見るとお茶子ちゃんが爆豪くんに突撃を繰り返してるが、爆豪くんの爆破でそれが防がれては吹き飛ばされてを繰り返している。
「…この戦い、さっきからこんな感じなの?」
「ああ、大体こんな感じだ…始めたぐらいの時に麗日が上着で身代わりを作って攻撃したがそれも防がれた」
「なるほど…」
お茶子ちゃんはそれにヤケになってるわけじゃない、ちゃんと考えた上での攻撃…それでも突撃をしてはそれを防がれ逆に反撃を食らい続けるのはきつくない筈が無い、明らかにお茶子ちゃんの消耗の方が激しい。
見ていて気持ちのいいものじゃないんだろう、観客の殆どが青い顔をして見守っていた…ついには一部からブーイングが起こる程だ…それに対してマイクさんも同意しかけたけど、消太くんがマイクを取ってブーイングを起こしたプロに向かって……あ、これ怒ってるな。
『ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう、本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねぇんだろが』
消太くんの言葉に拍手を送りたくなった…かっこよすぎるよ、私が憧れたヒーローかっこよすぎるよ…なんかもうさっきの嫌な気分全て吹っ飛んだ気がしたよ…いや、まだ残ってるんだけどね…そんな簡単に忘れられたら苦労はない。
お茶子ちゃんが浮かせていた石を流星群のように一斉に落とす…落ちる場所なんて考えていないそれは完全に捨て身の策…お茶子ちゃんの本気を感じた…だけどそれは爆豪くんの爆破で一瞬で消え去ってしまった…やっぱり、彼は強い…。
それでも立ち向かおうとするお茶子ちゃんだったけど、体力の限界が来たんだろう、行動不能とみなされ爆豪くんが二回戦出場となった。
それを見てから焦凍くんは無言で立ち上がって移動を始めたけど、私は何も声をかけられなかった…。
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