成長を見守る




10年程前、ヴィランに襲われ誘拐されそうになった所をたまたま通りがかったらしいヒーローに助けられ、保護されたもののどこから来たのか…そもそも家がどこなのかも家族も自分の名前さえ分からないと言った時、周りに居た大人は心底困ったような顔をしたのを今でも覚えている。
調べても私の家族らしい人からの行方不明届けも届いておらず、全てが謎だとお手上げ状態だったのだから仕方のない事だと思う…家族も名前も、何もかも分からなかった幼い私がその時はっきりと分かっていた事はたった二つだけ…”ヴィラン”に襲われた時の恐怖と、"ヒーロー"にたすけられたという安心感だけだった。

あれから年月は経ち、当時は全く"個性"のコントロールができなかった私も色々と学んで自分の"個性"がどういったものなのか、自分なりに理解してそれをどう使うかを探りながら少しずつ見つけ出していた。
それでも当時から変わらずなりたいものは"ヒーロー"という存在なのだけれども。

「消太くん」
「どうした…?」

気だるげな目を向けながら変わらず低い声で返事をする彼…「相澤消太あいざわしょうた」という人物は所謂世間の憧れの的である"ヒーロー"を生業として活躍しているものの、その名前をメディアが取り扱う事が殆ど無いためテレビ等で彼を見ることが無いのは少々複雑ではあるが、彼がそれで良いと言うなら私もそれで良いと思った。
抹消ヒーロー"イレイザー・ヘッド"それが彼のヒーロー名であり、私をたすけてくれた人であり、私が憧れているヒーローなのだ。

身寄りも分からない、名前も分からない…そんな私をたすけ、引き取ってくれたのが消太くんだった。
だからか刷り込みのように私はヒーローという存在が好きになり、ヒーローに憧れ、そしていつしか自分も同じような存在になりたいと思うようになっていったのは言うまでもない…ヒーローに救われなければ今頃命を落としていたか、私もヴィランになっていたと思うぐらいだ。
私の個性は「感情かんじょう」、基本的に攻撃的な感情は負の感情が多い(と私が思っている)からか、性能的にはヴィランに近いのではと自分の"個性"を知った時に一番に思った事だ…正直、幼い頃の私にはショックだった。
だけど"個性"というものは要は自分がどう使うかで、ヴィランにもヒーローにもなれると消太くんに教えてもらってからはどう人の役に立てる使い方ができるかを必死に考えてきた、"個性"の使い方と勉学どちらも私は頑張って今までやってきた…それが報われたのだと手元にある手紙を私が憧れたヒーローに手渡した。

『雄英高校ヒーロー科推薦入学試験:合格』

確かにそう書かれた手紙を一瞬驚いたように目を丸くしていたけれどすぐにこちらを向いて「良かったな」と頭をぽんぽんと軽く撫でられた…このとき少しだけ泣きそうになったのは秘密だけど、ポンポンと嬉しさで気持ちが高ぶったせいで"個性"によって喜びを具現化した花が無意識に出てしまって軽く小突かれてしまった。





最初は押し付けられてどうしたものかと、正直困っていた。
子供の面倒を見るのはヒーロー活動にしても教師活動にしても支障をきたす、全く合理的ではないと考えて頭を抱えた…そもそも結婚もしていないのに子供の世話をしていたら世間的に見てもよくないイメージがつくだろう…ヒーローとして目立つつもりはないが俺にだって近所の目がある…元々あまり良いイメージを持たれてそうもないが…。
それでもと、生徒くらいでかい子ならまだしも小さい子供の面倒を見る余裕など独り身の俺にはないと断ったが聞いてもらえなかった…何よりも小さく純粋な眼差しで見てくる子供にいつものように辛辣な言葉を言えず、結果的に俺は折れて晴れて子育て生活が始まった。

だが俺が思っていた程その生活は──今思えばの話だが──悪いものではなかった、最初は何もできずに泣いてばかりいた子供は、幼いながらも教えれば失敗を繰り返しながら覚えていった…おまけに無理な我が儘を言って喚き散らすといった事もなく、すくすくと小さな子供は成長していき大きくなっていった…成長過程を思い出しながら世の父親とはこういった感情を抱えながら子を見守ってるんだなとしみじみと思った。
自分の子でもなければ俺は独身だというのに一過程をすっ飛ばした感覚がなんとも複雑な気持ちだが…。
それ程に預かった子供はよくできていた、一度危機を味わっているからか精神的な成長が一般の子供より早く感じるくらいにはしっかりとした子供だったし努力も人一倍していたのも俺は知っているからそれが実を結んだ事が俺にとっても嬉しかった。
渡された合格通知と嬉しそうに笑うあの時たすけた子供を見て僅かに口許が緩んだ。
こいつの合否を知らないのはこいつに関してはひいき目が出ないようにと関わらないように校長に頼み込んだからなのだが──…。

「日詠」

名前が分からない子供に自分が付けた名前を呼ぶ。
首を傾げて返事をする日詠の頭を撫でるとまた嬉しそうに笑って無意識だろう、"個性"で花を出している所をみると相当嬉しい事がわかる…こういった分かりやすい所は嫌いではない。
雄英のヒーロー科の授業は他の科よりも過酷だが、それを承知で今までこいつは努力を積み重ねてきたんだからきっと大丈夫だろう…危険な道だと分かっているからこそ止めたい気持ちもあるが、後押しをしてやりたい気持ちもある…だから俺は自分の道は自分で決めろと小さな子供に言った。
放任等ではない、自分で何かを決めるという決断力は後に必ず必要になってくるものだ…俺は保護者でもあるが教師でもある…だからこそ背中を押してやる事が一番だと思った。


「頑張れよ」

生憎と俺は子だろうが生徒だろうが甘やかす事はできない、だから強くなれと願いながらその小さな背中を押した。





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