目の前の幸福を噛み締める
体育祭から翌々日、動けるようになったので制服に着替えて一旦家に帰り、シャワーを浴びたり髪を切りに行ったりと色々した後自室のベッドに横になって一息ついた…消太くんはまだ学校で仕事をしているのでいない、久々に暇で何をしようか悩みながら軽くなって少し違和感のある短くなった髪を指に絡めて遊んでいた。
まだ腰まで残っていた髪を揃えるついでに肩より少し下あたりまで切ってしまったのだ…もう長くしている必要は無い、特徴的な銀色の髪は量が多ければ目立つ目印になるだろうと思ってずっと伸ばしていた…そもそも準決勝まで行って馬鹿みたいに目立ったのだからそれだけで宣伝効果はあったし、爆豪くんとの戦いで切り落とした事に後悔は無かった…私にお父さんもお母さんもいないと分かった以上、砕けた夢と一緒に切り捨ててしまって心機一転してしまおうと考えたのだ。
そういえば体育祭のやつ録画してたんだった…見逃してしまった戦いとかあるし見ようと思ってテレビの電源をつけたのと同時に一通のメールが携帯に届いた…焦凍くんからだ。
テレビのリモコンを操作して再生ボタンを押してスマホを弄ってメールを開くとたった一言「今、暇してるか?」というものだった…数分考えて「暇で体育祭のやつ見てるよ」とだけ返してテレビに目を向けた…障害物競走、私の見ていない所で色々起きてたんだなぁ…切島くんと鉄哲くんロボットの下敷きにされてたのか…。
少ししてから携帯に着信が入ったのでテレビの音量を下げてスマホに耳を当てた。
「どうしたの焦凍くん」
『…話したい事があってな、邪魔したか?』
「暇つぶしに見てるだけだから問題ないよ」
『そうか…』
気のせいだろうか、焦凍くんの声が前より柔らかくなっている気がした…この休みで彼の迷いは消えたのだろうか。
『…お母さんと、話した』
「…うん」
『…笑って、
赦してくれた…』
「そっか…」
緑谷くんの言葉で焦凍くんは考える事を覚えたようだった…そしてやらなきゃいけない事や、やるべき事を見つけたのだろう…喜ばしい事だ、視野が広がったという事は彼は今後どんどん伸びていける。
『あいつの事は
赦したわけじゃねぇけど…
赦せるわけじゃねぇけど、以前より…そういう気持ちが薄れてる…緑谷と、お前のおかげ……だと思う』
「私は何もしてないよ」
『何もしてねぇことはねぇだろ…少なくとも俺は、お前にも救われたと思ってる』
「…そう…」
『…ありがとな』
「…ううん、私も…そう思ってくれてありがとう」
『ああ…』
それからも焦凍くんは色々と話してくれた…こんな饒舌な焦凍くんは初めてな気がする、少しだけ笑ってしまったら焦凍くんがはっとしたようでいつものように謝った、別に謝らなくてもいいのにね…寧ろ焦凍くんは年相応にもっと話すべきだと思うくらいだ。
流し見ていた体育祭の録画も終盤に差し掛かったくらいでお互いに話す事も無くなったので「また明日」と言って通話を切った、こんなに長話をするのは初めてな気がする…焦凍くんの落ち着いた声を聞くのは好きだったから問題は無い。
少し薄暗くなってきた外に目を向ける。
私の両親は結局生きているのか死んでいるのかすら分からなかったけど、だからと言って私は挫折するつもりはない…時間は有限なんだ、そんな暇は無い…記憶が無くても私には10年近く消太くんと過ごした"思い出"がある、これからも、色んな人との繋がりを作っていくつもりだし、それを大切にしていくつもりでいる。
それでいいんだ、私の中には綺麗な思い出が詰っている…今がとても幸せなのだから、それでいいんだ。
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