人は一人では生きられぬ




チャイムが鳴って消太くんが教室に入ってきて騒がしかった教室が一斉に静かになった。
それから今日の"ヒーロー情報学"はちょっと特別…「コードネーム」つまりヒーロー名の考案だそうだ、一斉にまた教室が盛り上がって消太くんがちょっと怒って静かになる。

「というのも先日話した「プロからのドラフト指名」に関係してくる、指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2・3年から…つまり今回来た"指名"は将来性に対する"興味"に近い、卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」
「大人は勝手だ!」
「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ、で その指名の集計結果がこうだ」

指名件数が黒板に出されてその偏り具合に苦笑しか浮かばなかった…流石に焦凍くんと爆豪くんに注目がいったようだ、派手さも強さもトップクラスだもんね…。
かく言う私も二人には及ばないけど400近くの指名が来ていた…申し訳ないけど正直興味が無いので驚きもしないのだけど。

「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
「!!」
「おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」

なるほど、それでヒーロー名の考案か…。
ミッドナイトさんが教室に入ってきて適当に付けたら地獄を見ると注意を促す、職場体験で使った名前がそのままヒーロー名として世に知られるなんて事もあるらしい…その為の査定にミッドナイトさんが呼ばれたのか、確かに消太くんそういうのは向いてないもんな…。

「将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく…それが「名は体を表す」ってことだ"オールマイト"とかな」

なんかいい事言ってるけど消太くん自身適当に決めてるの知ってるんだぞ私は…マイクさんが昔話してくれた。
それにしてもヒーロー名か…配られた紙を受け取り考える、私がなりたいヒーロー像は今も昔も紛れもなく消太くんただ一人…ちらりと前で寝袋に入って眠っている消太くんを見てこれまでの事を思い返した……それからペンを取って紙に浮かんだ名前を書いて、微笑んだ。

15分くらい経ってまさかの発表形式と言われて決まってはいるものの流石にトップバッターをする気にはなれなかった…少ししてから前に立とう…。
青山あおやまくん、三奈ちゃんと続いて妙な流れになっていた所を梅雨ちゃんが断ち切り、切島くん、響香ちゃんと続いて決まっていく…皆すごいなぁ…色々考えてるんだと発表していくみんなのヒーロー名を見て関心する…焦凍くんの名前そのままというのを見て安心して私も前に立って発表した。

「"日詠"で」
「貴女も名前なのね」
「はい、私が憧れているヒーローに直接貰った大切な名前なんで」
「言われてるわよ、イレイザー」
「………」

笑ってそう言ったらニヤニヤとした顔で消太くんを見るミッドナイトさんに対して消太くんは何も言わなかった…寝たふりをしているんだろうけど顔が若干赤くなってるのが見えているので小さく笑って自分の席に戻った。
私にとって大切な名前、大好きなヒーローに貰った"日詠"という名前で私はヒーローになりたい。


ヒーロー名の考案発表が終わり、どの職場に行くか…渡された指名リストを見て、その中に書かれている事務所の一つの名前を見て思わず眉間に皺が寄った。
午前の授業が終わって昼になってもやっぱりその話題で持ちきりだった、貴重な体験になるだろうからそのあたりは仕方ないだろう…私も一応決まったんだけど…正直行きたいような行きたくないような…やっぱり別のとこにしようかなとか頭を抱えていた。

「日詠」
「あ、焦凍くん…職場決まった?」
「まぁ…一応な、お前はまだなのか」
「いや…目星は付いてるんだけどさ……あ、お弁当作ってきたから渡しておく、ついでに今日は一緒に食べれないので緑谷くんあたりに混ざってきなよ?せっかくだから仲良くなってきな」
「お前は俺のお母さんか……分かった、弁当ありがとな」
「どういたしまして」

焦凍くんにお弁当を渡して自分も自分のお弁当ともう一つ包みを持って教室を出て職員室に向かって消太くんを呼び出した…お弁当を渡して少し話したい事があると言ったら二つ返事で仮眠室へと移動した。

「で、話ってなんだ?」
「あー……えっと…実はね……」

私に渡された指名リストの中にエンデヴァーさんの事務所が入っていた…No.2ヒーローからの指名、私にとっても良い経験になるだろうとは思ってるから行きたい気持ちはある…ただどうしても体育祭の時に言われた言葉を思い出してしまって言い切れぬ思いが溢れてくる…それを消太くんに伝えると飲んでいたお茶を吹き出して咽た…なかなかレアな光景だ。

「……轟の家の事情はなんとなくは分かってたが…なんでお前まで巻き込まれかけてんだ……」
「"個性"を見込まれたというかなんというか…まぁそんな感じで、焦凍くんの婚約者にされそうな私が行ってもいいものかと…」
「そういう考えの人間がお前の"個性"を欲しがるのも無理はねぇと思ってたが……あの人はそういった冗談を言うタイプに思えねぇしな……」

面倒な事になったと項垂れている消太くんにすごく申し訳ない気持ちになった…。

「…そもそも婚約はお互いの親が同意した下で行われる事だ、そしてお前の親代わりは俺だ…俺が同意しなけりゃお前らはよほどの事が無い限りそういった関係にはならない…俺はお前らの意思を尊重するよ、とりあえずそういった事は考えずに職場体験場所は決めろ…あの人が何言ってきても俺はその気もないお前を嫁に出す気はないからな」
「最後の部分だけ聞くと完全にお父さん……」
「轟の嫁になりたいのか」
「それは……私はともかく焦凍くんの気持ちがどうかによるんじゃないかな」
「お前はなんでそこまで自分に無頓着なんだ…誰に似た……俺か…」

ため息を吐いてお弁当に口を付ける消太くんを見ながらお茶を飲む…そもそもそういった気持ちは私にはまだよく分からないのだから仕方ない、好きという気持ちは分かるけど私の好きはきっと恋愛感情のそれとは別のものだ…いずれはそういった気持ちも分かるようになるんだろうか…?
考えてみるけど、私は現状で満足している…ドラマとかでそういうシーンを見て多少は憧れる部分もある事は認めるけど、それだけだ。

「普通お前くらいの歳の女子はそういう話で盛り上がるもんだろ…」
「雄英に来てから女の子達とご飯食べたりする時間が取れてません先生」
「どういうことだ…」
「入学してからは焦凍くんと大体一緒に食べてるから」
「待て…お前ら付き合ってるわけじゃないんだよな」
「普通に友達感覚だけど」

もぐもぐとお弁当を食べながら答えると消太は頭を抱え始めた…なんか私問題発言でもしたんだろうか…?

「……今更だがお前の将来が心配になってきた……」
「え、私何かした…?」
「いや……とりあえず食っちまえ、今後のお前の教育方針を考える」
「はぁい」

返事をして言われたとおりお弁当を食べ進めた、とりあえず抱えていた問題は消太くんがいる限り問題は無さそうだ…それなら私は迷わず、自分の行きたい道を進もう。
つくづく私は周りの人たちに恵まれてると思った。





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