忍び寄る影
職場体験当日、コスチュームの入ったケースを持って皆が駅に集まる…歩いてる人達から視線が集まってるのはもう仕方ない気がしてくる。
正直消太くんと一週間も会えないとか……私の精神はやっていけるのだろうか…。
「消太くんの下で働きたかった……」
「何無茶言ってんだお前は」
目的地が同じと言うことで焦凍くんとは例のごとく一緒に行動しているわけだけどちょっと弱音を吐いたら突っ込まれた…無茶は重々承知してるんだけど何故学校で職場体験ができないのかとか色々考えてしまうんだ、許して欲しい。
「それはともかく焦凍くんがエンデヴァーさんのとこ行くとは思わなかった」
「…色々受け入れないといけないもんがあると思ったからな……というかやっぱりお前あいつに目つけられたのか」
「焦凍くんの視野が広がってよかったよ…エンデヴァーさんには体育祭のトーナメントの時に勧誘された」
「……そうか…」
「ついでに君の婚約者になれと言われたんだけど」
「ぶ…っ!!?!?」
飲み物を飲んでる人にこの話するんじゃなかったなと反省した、消太くんと同じように咽てる焦凍くんの背中を撫でて落ち着くのを待った…なんかごめん。
「あの野郎やっぱり変なことぬかしやがったな……っ!」
「うん、私はもう気にしてないんだけどね…断るつもりだし」
「…そこは気にしてくれ…なんかわりィな……着いたらあいつ一発殴る」
「流石に焦凍くんの子どもまで道具扱いかーって最初は怒りそうだったけど過ぎた事だしいいかなって?あと殴るのはやめてね、目の前で親子喧嘩とか見たくないし多分誰も止められないから」
「そんな話をされて自分の事より他人の事を真っ先に考えてるあたり日詠らしいとは思うが…もっと自分を大切にしてくれ…」
「傷付く事を恐れたらヒーローになれないよ?」
「そういう事じゃねぇ」
はぁ…っとなんかすごい疲れきった顔でため息を吐かれた…なんか消太くんと反応似てるなぁ…あ、名前も似てたわこの二人…どっちも性格的に静かなんだよな、だから一緒にいて落ち着くのかもしれない…賑やかなのが嫌いってわけではないけど静かな方が好き。
私が人の多い大通りより人の少ない細道を通る癖はそこから来てるのかもしれない…そのせいで
敵に襲われてたら元も子もないんだけど…いや、ほんと無意識に選んでるんだよ…こわいね、学ぼうよ自分…。
事務所に着いて早々、私が焦凍くんと来た事で返事を「YES」と勘違いしたのか熱烈な歓迎をしたエンデヴァーさんにキレた焦凍くんによって職場体験初日からぐだぐだになったのは言うまでもない。
親子喧嘩が落ち着いた頃…エンデヴァーさんによって保須への出張を言い渡され、ヒーロースーツに着替えてそれに着いていくことになったのだが、焦凍くんのヒーロースーツが変っていた…新しいほうがかっこいいね!!
それを言ったらこっちを見るなって感じで目の前に手を出され顔を背けられた。
それから保須市で通常の活動を行いつつ、職場体験三日目にして事件が起きた…。
エンデヴァーさんが言うにはヒーロー殺しを狙っていたわけだがだいぶ大きな事件なようだ、とある場所から黒煙が立ち込めている…私と焦凍くんもエンデヴァーさんに続いてそちらに向かおうとした時、携帯に一通のメールが届いて疑問に思った、位置情報を一括送信…あて先は──…。
「緑谷くん…?」
ハッとして前を向くと焦凍くんも気付いたようでこっちに目線を送っていた。
お互いに頷いた後エンデヴァーさんの言葉を無視して二人で方向転換してその場所へ走る…エンデヴァーさんには焦凍くんが返事を返していたから多分大丈夫だろう、ぐっと走る足に力を入れようとしたらエンデヴァーさんに呼び止められたので後ろを振り返った。
「焦凍を頼んだぞ」
「…はい!」
それだけ言葉を交わしてお互いに逆方向へ走り出した…焦凍くんもだけどエンデヴァーさんも少し変った気がする…よく知らないから気のせいかもしれないけど、初めて話した体育祭の時より話しやすくなったと思う。
少し足を止めてしまったから焦凍くんとの距離が大分離れてしまった…目的地は同じだから問題は無いだろうけど。
携帯を見て位置を確認した時だった…。
「────…」
「え……?」
走っているとき、すれ違い様に囁かれた言葉に目を見開いてバッと振り返ったが逃げる人に紛れてしまって誰だか分からず、その囁きだけが私の脳内でぐるぐると回っていた。
ドッドッと鳴る胸に手を当てる…冷汗が頬を伝ったが、今はこんな事をしている場合ではないと足を再び動かし緑谷くんが送った場所まで走った…。
《はやく帰っておいで》
私を知る人はいない、筈なのに…まるで知っているかのような口ぶりのそれは間違いなく私に向けられて発せられていた…それがどういう意味なのか分からないけど、何故だかとても嫌な予感がした…。
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