全てが対等ではない世界




緑谷くんが送ってくれた位置情報の場所に着くともう既に焦凍くんとヒーロー殺しと思わしき人物が対峙していて焦凍くんの足元には緑谷くん達が倒れていた。

「緑谷くん!飯田くん!!」
「!?怒木さんまで…!」

駆け寄って倒れている緑谷くん、飯田くん…それからプロヒーローのネイティブさんの様子を見る、飯田くん以外は目立った外傷は見当たらない…しかし動けないとなるとヒーロー殺しの"個性"か…とりあえず皆の傷を完治とまでいくと私が足手まといになりかねないので血が止まっていない飯田くんの腕の止血をしつつ警戒をした。

「遅かったな日詠」
「ごめん、色々あって…」
「そうか、とりあえず優先はそいつらを守る事だ…サポート頼む」
「了解」
「怒木さんも気をつけて!あいつに血を見せちゃだめだ!」
「緑谷が言うには多分血の経口摂取で自由を奪ってくるらしい、気を抜くなよ」

そう話してる間にもヒーロー殺しは攻撃をしてくる…ギリギリのところで避けるものの強い…流石にヒーロー殺しと言われているだけある、まだまだ経験の浅い子どもの私達では凌ぐので精一杯だ…それでもプロが着くまでの間時間を稼がなくてはならない、相手にこちらを逃がす気は全く無いようだから逃げるという選択肢を選ぶのは難しい…血の経口摂取が"個性"の発動条件だとすると刃物を持った相手に迂闊に近付くわけにもいかないだろう…。
焦凍くんが反応しきれなかった攻撃をその後ろで私の"個性"を使って受け止め、できるだけ自分達に傷ができないようにしつつ狙われているネイティブさんと飯田くんを守る…言葉にするのは簡単だけど容易ではないのは確か…思わず顔をしかめた。

「何故…三人とも…何故だ…やめてくれよ…兄さんの名を継いだんだ…僕がやらなきゃ、そいつは僕が」
「…飯田くん…」
「継いだのか、おかしいな……俺が見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな、おまえん家も裏じゃ色々あるんだな」

飯田くんのお兄さんがやられた事は知っていた…だから彼がここに居る事に疑問は無かった、きっとお兄さんの仇を討ちにヒーロー殺しを追ってきたんだろう…飯田くんは頭が良いから保須でヒーロー殺しが再び現れるという予測も簡単にできた筈だ。
私にその事で何かを言える資格はない…USJ襲撃の時私も似たような事をしてしまったから…大切な人を傷付けた人間をゆるせなくて、負の感情で視野が狭まるのを私は知っている…それはきっと焦凍くんも同じだろう、だから気にかかってしまうんだ。
例えそれが余計なお世話だとしても。

焦凍くんは強いけどその分"個性"の使い方が結構大雑把な部分がある…そんな事はきっともう相手も気付いているだろう、その隙を突いて焦凍くんに傷を作っていっている…私も一瞬の隙でナイフを投げられて腕を負傷してしまった…。
焦凍くんが作った氷壁を切り崩し、正確に炎を出した腕へとナイフを突き刺す…上から襲ってくる攻撃から倒れているネイティブさんを守るように立って身構えたが、動けるようになったらしい緑谷くんによってそれが阻止された。
たった数日で見違えるような動きになっている緑谷くんに驚いた…いつもみたいにボロボロになっているわけでもない、職場体験で解決策を見つけ出したのか…と、その場でのん気に考えているのは私だけだと思う。

「轟くんと怒木さんは血を流しすぎてる、僕が奴の気を引きつけるから後方支援を!」
「相当危ねえ橋だが…そだな」
「サポートは得意だけどなんだろう、この疎外感」

相手の"個性"の特性が分かったものの、それでこの状況が一変するわけでもなく…結局やる事は先程と同じくプロが来るまで粘ることになったわけだけど…疎外感が否めない…戦いたいわけではないけど焦凍くん程血が流れてるわけではない私が前に出なくて良いのかと思ってしまう。

「日詠だからそういうのを任せられるんだろ、三人で守るぞ」

焦凍くんがそう言うとヒーロー殺しの様子が変った気がした…さっきより気配が鋭くなったというか…ゾクリと背筋が凍った…。
緑谷くんが突っ込んでいき、焦凍くんが炎を出して支援する…私はもしもの時の為にこちら側の防衛に集中した方がいいだろう、狭い路地で範囲攻撃をする人間が二人いても逆に緑谷くんの邪魔になるだけだ。
しかしヒーロー殺しの動きが明らかに変わった…緑谷くんも油断等していない筈なのに足を切られてしまった…。

「止めてくれ……もう……僕は……」
「やめて欲しけりゃ立て!!!」

緑谷くんの血が舐められ動きを止められる…足を止めずにこちら側に走ってくる相手の足を止めようと色々してみるが避けられるか切られるか…全く効かない…とんだ執念、圧倒的な力…敵ながらに惚れ惚れしてしまう。

「なりてえもんちゃんと見ろ!!」

私の攻撃も全て避けられ、焦凍くんの氷壁も崩れる瞬間…その全てが音声は普通に聞こえてくるのに動きはスローモーションで目の前を過ぎていくようだった、映画のワンシーンを見ているような、完全に私は第三者のような感覚でそれを見ていた…。
そのせいで反応が遅れてしまったのに気付いたのは左腕と手に激痛が走った後だ…ナイフで怯んだところを切りつけてくるが片手で剣を作り出し受け止めてなんとか凌いで焦凍くんの声で横に退いた…居た場所に氷結されていくが相手も避けて今度は焦凍くんに襲い掛かってくる…私の腕を重点的に潰しにきてるのは先程治癒の力を見せてしまったからだろう、触れなければ治癒ができないんだ…よく見てる…そして回復役がいれば先にそっちを潰すのは定番、おかげで痛みで両腕が上手い事動かせられない…まずい。

「氷に、炎……言われたことはないか?"個性"にかまけ挙動が大雑把だと」
「化けモンが…」

案の定焦凍くんの癖が読まれていた…斬られそうな焦凍くんが、ヴィランにやられた消太くんの姿と脳内で重なり、自分の内側から何か黒いものが湧き上がる感覚がした…。

「!」
「レシプロ…バースト!!」
「飯田くん!!!」
「解けたか、意外と大したことねぇ"個性"だな」

飯田くんが動けるようになったようで焦凍くんを斬り付けようとしていた相手の刀の刃を折った時にハッと我にかえった…息を長い間止めていたかのように呼吸が荒くなった…皆がヒーロー殺しに集中してて良かった、静かに呼吸を整えていると一瞬、ヒーロー殺しと目が合った…気がした。

「轟くんも緑谷くんも怒木くんも、関係ない事で…申し訳ない………」
「またそんな事を…」
「だからもう、三人にこれ以上血を流させるわけにはいかない」
「…感化されとりつくろおうとも無駄だ、人間の本質はそう易々と変わらない…おまえは私欲を優先させる偽物にしかならない!"ヒーロー"を歪ませる社会のガンだ、誰かが正さねばならないんだ」
「時代錯誤の原理主義だ、飯田人殺しの理屈に耳貸すな」
「いや、言う通りさ僕にヒーローを名乗る資格など…ない」
「!」
「それでも…折れるわけにはいかない…俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」
「論外」

ヒーロー殺しの言葉は理解できた…今の時代、ヒーローがたすける事に対価が発生している…無償の心で純粋にヒーローになりたいと思う人間は少ない…それは人間の欲望、誰しもある"感情"が今の社会を作り出していると言ってもいいのかもしれない…。
焦凍くん達が応戦している、私も隣でできる事をしていたけど限界が近い…さっきのアレはやっぱり暴走しかけていたのか、自分の弱さに嫌気がさす。

「轟くん、温度の調整は可能なのか!?」
炎熱ひだりはまだ慣れねえ、何でだ!?」
「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」

焦凍くんと飯田くんが話している…その隙に投げナイフを投げてきたのが見えたので咄嗟に焦凍くんを庇って右腕にそれが刺さる…飯田くんも伸ばしていたらしく続けて投げてきた先程よりも大きいナイフが刺さり倒れてしまった。
焦凍くんがそれに反応したけど飯田くんの「いいから早く!!」という声で言われた通り飯田くんの脚を凍らす…その間の時間稼ぎくらいなら私もできる、腕の痛みを気にせずに前へ出た…再び出した剣で相手の攻撃をいなす、限界が近い以上下手に炎等を出して攻撃するよりかは武器を出してそれで戦った方がまだ消費は少ない…決着がいつつくかも分からないのに下手な行動はできない。

「ハァ……お前は…わからないな……」

突然そんな事を言われた…わからない、というのは…私が彼にとっての粛清対象か否かという事だろうか…?突然の言葉に唖然としていると血を舐められゾアっとした感覚と共に身体が動かなくなってその場に力なく倒れた…しくじった…!!
しかし時間稼ぎは十分できたようで、飯田くんと動けるようになった緑谷くん双方の攻撃が見事に命中したそれでも意識は残っていたが最後のたたみかけでようやくその戦いは終わった。





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