まだそれは始まりに過ぎない
「さすがごみ置場、あるもんだな」
「轟くんやはり俺が引く」
「おまえ腕グチャグチャだろう」
「悪かった…プロの俺が完全に足手まといだった」
「いえ…一対一でヒーロー殺しの"個性"だともう仕方ないと思います…強過ぎる…」
「最後の最後で動けなくなるとかすさまじい失態を犯してごめんなさい…」
「日詠が時間稼いでくんなかったらどうなったかわかんなかったんだ、気にすんな…四対一の上にこいつ自身のミスがあってギリギリ勝てた、多分焦って緑谷の復活時間が頭から抜けてたんじゃねえかな、ラスト飯田のレシプロはともかく…緑谷の動きに対応がなかった」
ゴミ捨て場にあった縄でヒーロー殺しを縛り、それを引きずって歩く焦凍くん…ヒーロー殺しが気絶したからか、動けるようになったけど治癒をするにはまだ油断ができない状況な為、傷はそのままになっている…血を流しすぎた気がしないでもない。
眠気で働いてない頭をなんとか働かせようとしてるけど話してる内容が頭に入ってこない…流石に寝るわけにもいかないので起きていることにだけ集中した。
細道から出ると知らせを受けたであろうヒーロー達が集った…まだエンデヴァーさんの方は交戦が終わっていないようだ、問題はないだろうけど…どうやら以前"
敵連合"のやつらが連れていた
脳無と思わしき
敵がいるらしい、一筋縄とはいかないだろう。
「………三人とも…僕のせいで傷を負わせた、本当に済まなかった…何も…見えなく…なってしまっていた………!」
「………僕もごめんね、君があそこまで思いつめてたのに全然見えてなかったんだ、友達なのに…」
「───…!」
「しっかりしてくれよ、委員長だろ」
「……うん…」
泣いている飯田くんに私は何も言わずにハンカチを彼に渡した。
同じなのだ、大切な人を傷つけられた人は色んな感情から冷静さを無くして視野が狭まってしまう…飯田くんも焦凍くんも私も、そしてそれを見ていた緑谷くんも…ここにいる全員がそれを分かっている、経緯はちがくとも全員同じなのだ…。
だからこそそれを受け入れて反省しなければならない…ヒーロー殺しとの戦いでその事をよく思い知らされたというのはなんだかおかしな話だけど。
携帯を見るとその場所に着いた時間からそれほど時間が経っていなかった…長い時間戦っていると思っていたのに…ふぅと携帯をしまった時、叫び声と共に緑谷くんが
敵に攫われた。
「…っ!!」
皆が緑谷くんの方へと集中してる中、私だけがゾワリとした感覚に後ろを振り返った…あっという間だ、意識を取り戻したらしいヒーロー殺しがどこからか出した武器で縄を解き、目にも止まらぬ速さで緑谷くんを攫った
敵を動けなくし…そして躊躇もなく、殺した…。
「偽者が
蔓延るこの社会も、
徒に"力"を振りまく犯罪者も、粛清対象だ…ハァ…ハァ…」
「……っ」
「全ては 正しき 社会の為に」
イカレた執着──…。
ヒーロー殺しの何がそこまでそうさせるのか…もしかしたら、彼も"ヒーロー"に憧れたひとりなのかもしれない…胸が苦しくなった。
エンデヴァーさんが駆けつけ、緑谷くんはヒーロー殺しに地面へと抑え付けられているけど、きっと大丈夫だ…彼は、緑谷くんには殺気を出していない…彼の殺気は社会へ、偽者と呼ぶ"ヒーロー"へと向かってる…。
「偽者…正さねば──…誰かが…血に染まらねば…!"
英雄"を取り戻さねば!!
来い 来てみろ偽物ども…俺を殺していいのは
本物の英雄だけだ!!」
そう言ったヒーロー殺しは立ったまま気絶したが、その場にいた誰もがしばらく動けずにいた。
悲しい、哀しいヒーロー…彼は今の世に嘆いたのだろうか、嘆き絶望した結果自らを血で染め汚れ役を買って出たのだろうか…彼がどう思って"ヒーロー殺し"という汚名を背負って粛清をし続けたのか、その意志を知ることはできないかもしれない…それでも私はあえて彼への呼び名を改めよう…"ヒーロー:ステイン"と。
どうしようもない世の中を自己犠牲をする事で救おうとした…あくまでも私の解釈だけど、その正しすぎる信念は理解できた……ズキリと頭が痛くなった気がした。
────……。
一夜明け、病院内のとある一室に4人は集まって話していた。
集まってというか…私が緑谷くん達のいる病室へ皆の様子を見に来たからなんだけど…私は女子という事で3人とは別の病室に割り振られてる。
「冷静に考えると…凄いことしちゃったね」
「そうだな」
「あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって…思っちゃうね」
あの後病院に運ばれ私達は治療を受けてそのまま入院という形を取らされた。
包帯が巻かれた自身の腕とみんなの腕や脚を見てやるせない気持ちになる…せっかく治癒を使えるようになったというのにここぞという時に使えないなんて宝の持ち腐れもいいところだ…もっと強くならないと…。
色々話してるうちに病室に緑谷くんの行った職場の方であるグラントリノさんと飯田くんの行ったところのマニュアルさん…そしてもう一人、保須警察署署長の
面構署長が入ってきた……面構さんの顔は…完全に犬…というかワンって…。
掛けたままで良いと言われたのでお言葉に甘えて私は椅子に座ったまま話をきいた。
内容は私達が規則違反ということ、私達四人とプロヒーローである三人の処分について…。
大体予想はついていたので驚きはしなかった…焦凍くんは怒ってるけど。
しかし話はまだ続くらしい…私達の処分は公表すればの話だという事、公表しないという選択をすれば誰にも称えられはしないが処分は免れるとの事だ、それには流石に驚いた。
これは流石に皆の意見は一致する…私も立ち上がり、面構署長へと頭を下げた。
「よろしく…お願いします」
「大人のズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが…せめて、共に平和を守る人間として…ありがとう!」
頭を下げて代わりにお礼を述べる署長に笑みがこぼれた。
それから少し経って私は三人の居る部屋を出て自分に割り当てられた病室へと戻ってきた…携帯を見るとメールが届いていて開いて内容を見ると消太くんからのメールだった…今大丈夫だろうか、携帯を持って再び病室を出て中庭へと出て電話をした…ら、意外と早く出てくれた。
『馬鹿やろう』
「…うん、ごめんね消太くん」
『…無事なら良いんだがな…帰ってきたら説教だぞ』
「う゛……心しておきます…」
『
救けるのは確かにヒーローの本分だがな、その行為で他に迷惑をかけてたら元も子もねぇだろう…そのあたりの事は今回でよく分かったな?』
「はい…」
『お前は考える力も失敗を糧にする力もあるんだ、きっちり反省して今後の経験に活かせよ』
「はい…」
それから残りの職場体験期間を大切にしろと、それだけ言って電話は切れた…きっと仕事と私達がやった事への始末で忙しいんだろう…それでも電話に出てくれた事が嬉しかった。
「そういえば……言いそびれちゃったな…」
現場へ辿り着く前に聞いた私を知っているかのような謎の台詞を思い出す。
あの言葉の意味は一体なんだったのか…あの言葉を言った人は私の何を知っているのか……私はそれをいつの日か知る時が来てしまうのかもしれないと思うとこわくてしかたがなかったのだけど、寧ろそんな事を消太くんに相談したところで困らせてしまいそうで言わなくて正解かもしれないと自分の中に留めるだけにしておいた。
未だに残る嫌な予感に目を背けながら…。
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