答えは近くに転がっている




「はっ……は……っ!!」

いつ以来だろう、こんなに全力で逃げたのは…走りながら襲ってくる炎を自分の"個性"で防ぐ。
何が「女の子相手に酷いことできない」だ…開始早々襲ってきたレーベさんの"個性"がかすって右腕にひどい火傷を負ってしまった…ここ最近腕への負傷が激しくて泣きたくなってくる。
このまま逃げていてもすぐ後ろに相手がいるとなると落ち着いて考える事も侭ならない…それならばと、"希望"を"光"へと"エネルギー変換"しそれを放出して相手の目をくらませ、その隙に建物の影へと隠れて移動する…体育祭のように"電気エネルギー"への変換をすれば目くらましも攻撃もできたんだろうけど、あれは私自身も負傷してしまう上に建物への被害が出てしまう…大規模な攻撃はできない。
とりあえず動ける程度には腕を治したけど、問題はこのあとをどうするかだ…私を見失ったレーベさんはゲートの方へ戻りその付近で待ちわびている可能性が高い…切り抜ける方法を考えていると焦凍くんと百ちゃんのチームが条件達成したと放送が入り、焦りと何か複雑な気持ちが入り混じって、何故か胸が苦しくなってきた。
以前どこかで似たようなものを感じた気がする…けど今はそんな事を考えている場合ではない、頭を振って思考を切り替える。

まず私が今分かっている事を整理しよう。
レーベさんの"個性"…おそらく、焦凍くんと同じ"複合個性"…"炎熱"は確かだけどあと一つ何かあるのも確か、そうでなければあの人並み外れた速さと最初に聞こえてきた咆哮に説明がつかない…速さに関してはオールマイトさんも人並み外れているけど、あの人に関しては引き合いに出してはいけない分類に入るから今は考えないようにしよう。
それを今まで見せないとなると何か理由があるのかもしれないけど、何か分からないと対策の仕様が無いので一旦置いておく。
それから私が今居る位置…正直どの辺かわからないけどゲートから大分離されたのは確か、あの人戦いながら私がゲートがある方へ逃げようとすると全力で吹っ飛ばしてきたし炎で道を遮ったりしていたから…。
今私が分かっている事はこれぐらいか…。

そういえば……頭を整理するついでと言ってはなんだが、始まる前にレーベさんが言っていた言葉を思い出した。

──どんな感情でも自分自身が受け入れなければ君は強くなれない──…。

そう言っていた…その言葉の意味など、よくよく考えれば分かってくる……ヴィラン襲撃事件、体育祭、保須事件…過去の事も含めて考えて気付かないわけが無いのだ…私がずっと意識的にしてこなかったことや見てこなかった物事に…。

そんなこと、本当は最初から気付いてたのかもしれない。
分からないと誤魔化し続けて、自分の気持ちも現実も見ないフリ…そうして生きていく事が楽だった、そうやって生きることで自分の平穏を保っていようとしていた…皆が認めるいい子な"フリ"をしてれば嫌われずに済むと思ったから…。
何よりも私の"感情"は醜く汚いものだと思ったから……私は"感情わたし"を殺してきた…。

建物の壁にもたれながら深呼吸をする。
……私が今まで目を背けてきた事、やってこなかった事を見つめなおさなければこの課題はクリアできない…覚悟を決めなければ壁を乗り越える事はできない…。
爆豪くんと緑谷くんのチームが条件達成したという放送を聞きながら私はゲートへと走り出した。



────…。



ゲート前にやはりと言うべきか、レーベさんは居座っていた…私の姿を認識すると微笑んで立ち上がった。
移動している間に梅雨ちゃんと常闇くんのチームがクリアしたらしく、その放送が入る。

「残り10分も無いけど次々と条件達成の放送が入ってるね、ハンデ付きとはいえプロ相手に優秀優秀…で、俺の前に出てきたって事は何か打開策を見つけたと思っていいのかい?」
「どうでしょうね…正直自信はありません、でも覚悟は決めました」
「そうか…じゃあその覚悟と君が出した答えを──…
全力の俺の前に示してみせろ」

そう言い終わるのと同時に姿を変えたレーベさんが襲い掛かってきたので咄嗟に槍を創り出し応戦する…その勢いで相手に押し倒され、ガキンッという音が牙と槍の柄の間に響く…。
レーベさんの姿は猛獣ライオンの姿そのものに変わり、そのたてがみは燃え盛っておりその鋭い牙は今にも私を噛み殺そうと言わんばかりに柄ごとぐいぐいとすごい力で追い込んでくる…このままではいけない、多少なら平気だろうと手から槍へ変換させた電気エネルギーを伝わらせるとそれに気付いたレーベさんは私から離れ、距離を取った。
その隙に身体を起こして多少痺れた手で槍を構え、呼吸を整えながら"個性"の使い方を考える…あの速さなら逃げきる事はもちろんきっと足元を凍結させる等の小細工をしても通用しない、だからと言って大規模攻撃はもちろんできない…それならば、手っ取り早いのは拘束か…。
まるで本物の野生の獣のごとく襲い掛かってくるレーベさんの攻撃を避けつつ、作戦を考える…拘束をするとして、それまでに隙を作らねばならない…しかし先程の目くらましをしようにも同じ手は食らわないとばかりに素早い攻撃を仕掛けてくる…回避しながら作戦を考えている間に次々と条件達成の報告が流される、時間も少なくて焦り始めてる自分を落ち着かせる…。

作戦内容が固まり、心を落ち着かせる…時間もない…勝負は一瞬、覚悟は決めた…即興の使用方法だから成功するかは分からない…否、"必ず成功させなければならない"。
私自身が汚いからと、醜いからと切り捨ててきた"感情"を思い出す…確かに私の中から生まれた"感情"であると認め、受け入れてしまう事は恐ろしいけれど…。

《君の!力じゃないか!!》

体育祭の時、焦凍くんに緑谷くんが言っていた言葉が頭の中で再生する。
私に言った言葉ではないけれど、彼の言葉とその姿勢に心を打たれたのは焦凍くんだけじゃない…。
青山くんとお茶子ちゃんのチームがクリアしたという報告を聞きながら集中する…持っていた槍を片手に持ち、構えて投げる…勿論レーベさんは避けるけど当てることが目的じゃないから構わない。
それが刺さった場所がみるみる凍り、氷壁を作り出された事でレーベさんは更に飛び退きそのまま空中から私の方へとかかって来た──…。

「っ!!?」

数センチ…後数センチでレーベさんが私の懐に入る所でレーベさんの姿は元に戻り、地面へと赤黒い鎖と共に縫い付けられていた…鎖の端には同じように赤黒い剣が杭のように刺さっている為簡単には外せないだろう、本人は驚きで混乱しているようだ。
その隙にとカフスを取り出しレーベさんの腕へとかけ、座り込んだ…唐突に汗が噴き出し息が上がる…力が抜けてしまった。
私と、それから峰田くんと瀬呂くんのチームの達成報告が流れた後、試験終了の放送が流れた…ほんとうにギリギリだった…。

「…お疲れ様、と条件達成おめでとう」
「…ありがとうございます…」
「んで、ちょっと…これ外してもらっていいかな?」
「あ、はい」

剣を引き抜いて鎖を退かすとレーベさんは身体を起こして一度炎を出してそれを確認すると消し、私を見た。

「…嫌なら答えなくていいんだけどさ、使った"感情"と使い方を教えてもらっていいかい?」
「…"冷静"をエネルギー変換させ纏わせた"怒り"の槍と同様、"嫉妬"を具現化させた鎖に"拒絶"のエネルギーを纏わせました…槍に電気エネルギーを伝わらせる事ができたので、具現化させた物に別の力を纏わせてそれを伝わらせる事もできるんじゃないかと…殆ど博打です」
「"個性"を"拒絶"して一時的に俺の"個性"を消したってところか…その上で更に身動きが取れないように剣まで刺すとか……即興にしては随分と手の込んだ事をしてくれたというか…君の"個性"強すぎでしょ…なんなの」
「…すみません…」
「あー……いや、責めてるわけじゃなくてね?うん、まぁ…いいや…、とりあえずあのアドバイスは役に立てたかい?」
「はい…すごく…」
「なら良かった」

にっこりと笑って座ってる私を抱き起こすレーベさんに驚く…所謂お姫様抱っこというやつなのだが突然すぎて思考が追いつかない。
しかし力が抜けているので抵抗ができない…。

「流石に女の子をこんなとこで動けるまで休ませるわけにもいかないから、ちゃっちゃと戻ってガールの治癒とか受けさせようと思ってね?少し失礼させてもらうよ」
「あ、いや…あの…ありがとうございます…?」
「…君ってほんといい子だよね、あのイレイザーさんとこで育ったとは思えないぐらい…」

バスに乗って帰路を走る…私は横にさせられた。

「…あの、レーベさん…」
「ん?」
「…私が、自分自身の"感情"を殺してるってなんで分かったんですか…?」
「あー……イレイザーさんに我儘も文句もろくに言わずに育ったって聞いてたんだけど、こんな理不尽な試験も言われる儘に受け入れてたからさ…あれ多分イレイザーさんも反抗されるの少し期待してたと思うんだよなぁ…」
「えっ」
「まぁそれはさておき、君はまだまだ子どもなんだから沢山我侭言っていいんだよ…素直に甘えられるのは子どもの特権、大きくなるにつれてそれは難しくなってくる…君は色んな事情が重なって甘える事もろくに覚えずに成長してしまった、よりにもよって我慢を真っ先に覚えて自分自身の"感情"を一部だけ否定し続けてしまった…そんな感じだろう?だから何でもいいから否定して目を背けていた"感情"を受け入れる事を教えた」
「……気持ち悪くないですか…私が見せた"感情"…」
「"嫉妬"も"拒絶"も、何も気持ち悪い"感情"じゃないよ…人は欲にまみれた生きものだ、生きているからこその"感情"なんだからどんなものでもそれは君の"感情"であり自分自身だ…受け入れてやらないとかわいそうだろ?」

そう言われて、頭を撫でられて、思わず涙が零れた…。
愛されたいと願って、私自身が私を拒絶していた…だから私は弱かったのだ…簡単なことだった、全ての"感情"を受け入れる事が暴走をしない為に必要な事だったのに私はそれができなかった…私の暴走はきっと気持ちが反発しあったせいでできた爆発みたいなものだったんだ…。
"ヒーロー"は完璧な存在だと、綺麗な存在だと…私はどこかで"ヒーロー"に対して理想を押し付けそういった存在になろうとしていた…それが枷になっていたのか…"ヒーロー"だって同じ人間だというのに。

「まぁそれを俺の言葉で気付けたんなら大丈夫、きっと君は強いヒーローになれるさ」
「…ありがとうございます…」
「もう一つ気付くべき感情もあるけどね」
「…もう一つ…?」
「恋愛感情」
「へ」
「…日詠ちゃんエンデヴァーさんの息子さんの事好きでしょ」

……はい?






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