残った傷は深く




その日は保護されてから皆に会うこと無く警察に行き事情聴取を受けた…二人きりになった後の会話の事は警察にはただ当たり障りのない事を話し、詳しくは伝えなかった…警察も話している内に私の顔色が悪い事に気が付いたのか、詳しい事は聞かずに切り上げてくれて…消太くんが迎えに来て家に戻ってくるなり、私は精神的に負担が大きかったのか高熱を出して倒れた。

翌日、朝になっても熱は下がらなかったけど学校を休むわけにもいかないし、一人で家にいるより学校に居た方がいいと食い下がった結果、具合が悪くなったらすぐに保健室に行くと約束して頭に冷却シートを張って登校したら皆に色々聞かれた…携帯に皆からのメールが届いていたのに気付いたのは深夜だったから返せなかった、大丈夫だと笑って言えば皆はほっとしてくれてそのあとは安静にと静かに座らせてくれていた。

それから数日が経ち色々あったものの前期は終了し、夏休みに入った。



──そして林間合宿当日。

「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれぇ!?」

用意されたバスの前で物間くんが相変わらずの煽りスキルで煽ってきて一佳ちゃんが手刀で止めて回収する…相変わらず手際がいいなぁ。
私もあんな感じで峰田くんを止めればいいのだろうか…よだれを出しながらB組の女の子達を見る峰田くんに引きながら考えた。

バスに乗って着くまでの間、車内は賑わった…皆が楽しみにしてたのがよく分かる。
私も楽しみにしてたので楽しそうにしている皆を見ているのは心を穏やかにしてくれた…。
結局、あの日の事…死柄木弔に話された内容等は誰にも教えていない…ありがたい事に周りも詮索するような事はしないでくれた、それはきっと私にとある変化が起きているのを知っているからだろう…ほんとうに私は周りの人に恵まれたと思う…自分の手を見ながらため息を吐いた。

「日詠、大丈夫か…?酔ったんなら俺に寄り掛かっていいからな」
「あ…大丈夫だよ、ありがとう焦凍くん」
「ああ…水分は取っておけよ」

焦凍くんの優しさが嬉しい…差し出された水を受け取って笑いかけると焦凍くんも笑ってくれた。
焦凍くんとは一時的に距離を取ってしまっていた事を、消太くんに注意されたからと理由をつけて謝ったら許してくれたので夏休みに入る前に仲直りができた…半分嘘だけど、流石に告白をする勇気は無いしあんな事もあったので…うん…また距離を取りたくなるから考えないでおこう。

一時間後、バスが停まったので休憩かと思い皆が外に出る…私も外に出るけど明らかにパーキングエリアではない、不思議に思っていると消太くんに手招きされたのでそっちに向かう…なんだろう?

「何の目的もなくでは意味が薄いからな」
「…?」
「よ────うイレイザー!!」
「ご無沙汰してます」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

ビシッと決めポーズをするけど二人なのでなんとなく締まらないなぁ…と思いつつ小さく拍手をしておく。
プッシーキャッツの人達には小さい頃に何回か──とは言ってもほんとうに数える程しか無いけど──…遊んでもらった記憶があるので面識は一応ある、相手もプロだし忙しい身ではあるのでほんとうに数回…私の事を覚えていてくれているかは分からない。
緑谷くんのオタク知識が相変わらず披露されたけどピクシーボブさんの制裁を食らってた…うん、女性の年齢を明らかにするのはマナー違反だよ緑谷くん…私も昔「お姉さん」と言わないと笑いながら頬をぐにぐにされた…あれは怖かった…あれは確か「お母さんみたい」って言ったらされたんだっけなぁ、と遠い記憶を思い出していると何やら話の雲行きが怪しくなってきた。

「今はAM9:30、早ければぁ…12時前後かしらん」
「ダメだ…おい…」
「戻ろう!」
「バスに戻れ!!早く!!」
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「わるいね諸君、合宿はもう始まってる」
「あー……」

ピクシーボブさんの"個性"で土が盛り上がり、皆がその土に流されるように落ちて行くのを消太くんの後ろで見守った…皆無事で着くことを祈ろう…というか何で私は残されたんだ。

「おまえは今"個性"が殆ど使えない状態だろう、今あの中入っても死ぬだけだ」
「あ、そういう事か…え、でも強化合宿だよね?私だけ何もしないっていうのは…」
「安心しろ、おまえには個別にやってもらうことがある」
「だよね!!良かった!!」

疑問に思っていたことがすぐに解決したのでマンダレイさんとピクシーボブさんに改めて挨拶をしたら、意外にも覚えられていて嬉しくなった…ただその覚え方が「イレイザーの子ども」という覚え方で、何も言わなかったけど心底嫌そうな顔をする消太くんを見て苦笑する。

「しかし無茶苦茶なスケジュールだねイレイザー」
「まァ通常2年前期から"取得予定のモノ"を前倒しで取らせるつもりで来たのでどうしても無茶は出ます、緊急時における"個性"行使の限定許可証ヒーロー活動認可資格その"仮免"…ヴィランが活性化し始めた今かれらにも自衛の術が必要だ」

マンダレイさんと消太くんが話している間、私はなんかずっと二人の傍に居た子どもと目が合ったけど、何故か睨まれて目を背けられた…え、なんだこの子……爆豪くんみたい、ちっちゃい爆豪くんだ、ちびかっちゃんって心の中で呼んでおこう。
というかかっちゃんいいな、私もかっちゃんって呼びたいな…呼んだら怒るかな…怒るだろうなぁ…今度呼んでみよう。

「では引き続き頼みます「ピクシーボブ」」
「くぅ──お任せ!逆立ってきたぁ!」
洸太こうた行くよ」
「………下らん」

何歳だこのちびかっちゃん…基、洸汰くん…すごいスレてるな、何かあったのかな…。
だからと言って何も知らない上になんの繋がりもない私が何を言ってもあの子には煩わしいだけだろう…そっとしておくべきだろうか。
しかし私は子どもに嫌われると素直に傷付くのでできれば仲良くしたい。




───…。

一足先に消太くん達と共に宿泊施設に着き、動きやすい服に着替えてお昼ご飯を食べた後、私は夕飯の下ごしらえを手伝ってその後は消太くんと今後について話し合っていた。


「"個性"はまだ戻りそうにないか?」
「んー……不便は無いけど戦闘にはまだ向かないぐらい…?には戻ってる、と思う」
「……今後もそういう事が起きる可能性を考えると、お前は色々対策を考えていかないとだな……」
「…ごめんね」

返事の代わりに頭を撫でると、紙に何かを書きながら考えはじめた…恐らく今後の特訓メニューだろう…。
あの一件以来、私は"個性"が使えなくなった…いや、厳密に言えば使えなくなったわけじゃない、使えはするけど全ての攻撃の威力が落ちたというか…これまでコントロールできていたものができなくなったという感じ…"無個性"程では無いにしろヒーロー志望としてはほぼ役立たずな状態になった。
一番使いやすかった"怒り"という感情でさえ炎はコンロの弱火程度…剣などの武器にいたっては出す事も難しくなってしまった…お医者様が言うには精神的なショックが強すぎたか、スランプのようなもの…らしい、まずは心身共にリラックスをして様子を見るよう言われた…ヒーロー志望にそれは難しい注文だけど…。
原因は死柄木弔からの突然のキスや告白その他もろもろだろうけど、確かに行事やら事件やらで心休まる時間が無かったのも事実…心と感情は違うものだけど、精神的に追い詰められていたのかもしれないというのは自分でも薄々感じてはいた。
正直この合宿に来る必要が無かった気がしてくる……。

「…消太くん、私やっぱりヒーローには向いてないのかな」
「…それは昔から俺が言ってきた事だろう、今更だな」
「うん…」
「諦めるなら止めはしない、ヒーローになったら幸せになれる補償なんざどこにもない…寧ろ辛い事ばかりだろうからな」
「…幸せになりたいとかは、元々思ってないから別にいいんだけど…諦めるのは嫌だなぁ…」
「その諦めの悪さがお前の強さだな…お前は小さい頃から色々詰め込みすぎた…今はゆっくりしとけ、時間は有限だが今のお前は休んでじっくり考えた方が力になる、無駄にはならない筈だ」
「…わかった…」

この話をしてる間その目がこっちを見ることは無かったけど、優しい言葉は変わらずにいつだって私を元気付けてくれた。
迷惑になるかなと思いつつ肩に寄り掛かったら流石に邪魔だったのか肩に乗せた頭を膝に運んでぽんぽんと頭を撫でてペンを握ってまた何かを書き始める…何も言わないという事はこのまま甘えていてもいいという事だろうか…?それなら、素直に嬉しいな…。
消太くんの作業を下から眺めつつ、そういえば久々にこうして甘えたかもしれないなぁと思い返してみる…もしかしたらそれも理由に入っているのかもしれない…だとしたら私はどれだけ消太くんに依存しているのだろうか、自分に呆れてしまう。
そう過ごしているうちに目蓋が重くなっていくのを感じてそのまま意識を手放した…。



─────…。



目を覚ませば真っ暗な場所でただ独り、ぽつんと一つだけある質素なベッドの上で私は病院で着るような…病衣びょういと呼ばれるものに酷似した服を着て横になっていた…。
それだけ認識しても冷静でいるのは、ああ…またこの夢か…、と理解したから…現実ではないと分かったならそれ以上は何も思わない。
もう何度目だろう…たまに見ていた夢が最近では頻繁にこの夢を見る…目を覚ませば夢の中の記憶は無いのに夢の中でははっきりとそれを覚えているのだからおかしな話だ…。

ベッドから降りて適当に歩きしばらくすると一つの扉が目の前に現れる、勝手知ったるようにその扉を開けてその先を見る…その一連の動作がこの夢の中では決まり事のように行われる…これをしなければ、現実の私は目を覚まさない…。
現れたドアのドアノブを握りその扉を開けると真っ暗だったその場所に赤が広がる…そこで私は決まって耳を塞いで何も見たくないというように目を強く瞑る…それでも目の前に広がるのは、赤、紅、あか……耳は塞いでる筈なのに、聞こえてくる悲鳴にも似た声…、気が狂ってしまいそうだ…。
いつもはそこで終わる、終わるはずなのに今回は違うみたいだ…こんな夢はやく覚めて欲しいのに、はやく目を覚ましたい、お願い、もう見たくない…そう願っていると誰かが近付いてくるのに気付いて顔を上げる…近付いて来たのは子ども…でも顔は黒く塗りつぶされたように、見えない…それがとてもこわくて、逃げ出したくなったのに身体が動かなかった…。

「はやくかえっておいで」

その子どもがそう言って笑った…顔は見えないのに、笑ったような気がした。
意識が浮上していく中子どもの言葉がどこかで聞いた声と重なる…どこで聞いたんだっけ…?



─────…。



「……っ!!」

バチッと目が開き勢いよく体を起こし、あたりを見渡してようやく息を吐いた。
かたかたと身体が震え息が乱れて汗が噴き出す…心臓の音がやけに煩い…。

「日詠…?」
「しょ…うた、く……?」
「…大丈夫だ…、俺はここにいる」

消太くんは私の近くに来ると私の震える手を握って、安心させるように頭を撫でてくれた…それだけで上がっていた息が治まり、震えもしばらくすると止まった…でも消太くんからはなかなか離れられなくてしがみついていた。

「…夢見が悪かったのか…?」
「……わからない…わからない、けど…すごく、こわかった…」
「…ここ最近ずっとだな…」
「………」
「とりあえず他の奴のとこいって飯食ってこい」
「みんな帰ってきたの…?…わかった…」
「飯食ったら俺のとこにこい、話がある」
「ん」

消太くんから離れて頷き、ふらふらと食堂へ向かうと皆がご飯を食べ……貪っていた。
お昼は結局食べ損ねて今帰ってきたというなら仕方ないか…皆ボロボロの姿でご飯に夢中になっているのがなんだか面白くて笑ってしまった。
たまたま空いていた焦凍くんの隣に座ると、焦凍くんが自分の皿を少し退けてくれた。

「お疲れ様」
「ん…やっぱり日詠は先生と先にこっちに来てたんだな」
「今の私じゃ死ぬって言われてね」
「…そうか…」

もぐもぐとご飯を夢中で食べてる姿は普段クールな焦凍くんと違って年相応に見えるのがなんか…なんとなくかわいい…お腹空いてるんだねって頭撫でてあげたくなる、撫でないけど。
流石に好きだと自覚したらそんなスキンシップはとれない…慣れてしまっていたとはいえ隣に座ってしまった事さえ今思うとすごく恥ずかしいくらいなんだから…考えるのやめよう、顔が熱くなってきた…世の中の女の子は恋をするとこんな気持ちになるのかと思うと乙女って強いなって思う…心臓がもたないよね…。
しかし恥ずかしくてもつい相手の顔を見てしまうのは仕方のない事なのだろうか…?焦凍くんの顔を見てあることに気付く。

「あ」
「ん…?」
「焦凍くん、口元にご飯付いてる」
「…どこだ…?」
「取る?」
「頼む」

言われるままに焦凍くんの口元に付いたご飯粒を取ってあげた、意外にもこういうとこは子どもっぽいんだなと思っていたらご飯粒を取った右手首を掴まれ、指先に付いたご飯粒を食べられて…それだけで固まっていたのにあろうことか焦凍くんは指先をぺろりと舐めて私の手を離すとしれっとした顔でまたご飯を食べ始めた。
何があったのかさっぱりでしばらくフリーズしていたけど徐々に顔に熱が集まってきて混乱した頭で誰かに見られてないかとあたりを見回したら皆ご飯に夢中になっているようで先程の事は……目の前で私よりかはまだマシだろうけど赤くなってる口田こうだくんぐらいしか見てないようで安心した…口田くんは話さなかったけど何も見てませんアピールを必死にしてくれてた…なんかごめんね…私が謝るのもおかしい気がするけど。
何はともあれ気分は回復したので…結果オーライ……なのかな…?





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