手が届くならば良かったのに
ご飯を食べ終わった後、私は消太くんに言われた通り先程眠っていた場所に戻ると消太くんに連れ出されて外に出た…空を見上げると満天の星空が広がっていてあまりの美しさに目を奪われていたけど、名前を呼ばれて目線を下げると真剣な表情をした消太くんが目に映る。
「死柄木弔と接触した日の事を詳しく話せ」
「……らしくないね、何の前ぶりもなくいきなり話を切り出してくるなんて…それも命令系で」
「茶化すな、あの日からお前の様子がおかしくなったのは明白だろう…何があった?」
「………」
正直あの日何があったかを思い出すだけで胃の中に入っている物を全て吐き出しそうなくらい気持ち悪くなる…あれからしばらく何も口に入れたくなかった、今もあまり食事を口にしていない。
嘔吐きそうになる口元に手を当てて黙っていると、消太くんがため息を吐いた。
「…おまえは知ってると思うが、今回の合宿は"個性"を伸ばす為のものだ…別に話さなくても良いが自己解決をしない限りおまえは恐らく"個性"を以前と同じようには使えないだろう、お前の"個性"はそういった類のもんだ」
「………」
「いくらショックがでかくても"何もされていない"のにあれから日が経った今でもおまえは"個性"を上手く使えないのはおかしい、自分でも分かってるだろう」
真っ直ぐに私を見る消太くんから目を逸らした。
あの日の事は「特に何もされてない」と消太くんに話して終わらせた…私自身が思い出すのを拒んだから…話して、迷惑を掛けたくなかったから…。
でも話さないことで結局迷惑をかけてしまっているのも事実…だからと言って、話して解決するものでもない気がしてくるけど…迷いながら口を開き、あの日あった事を、死柄木弔に言われた事を正直に話すと消太くんは苦い顔をして「そうか」とだけ言って私の頭を撫でた。
それから少し話して、明日に備えて風呂入って寝ろと言われたけど…もう少しだけ外に居ると言うと消太くんはあまり遅くなるなと注意を促してその場を去った。
少しだけ下げていた目線を上げて再び空を見上げる…無数の宝石を散りばめられたかのような星の瞬きが目に映る…あんなにも綺麗なのに手を伸ばしても届きやしない…それを見ているとまるで私が諦めた夢のような存在に見えて顔が歪むのが分かる…。
「私は──…」
目線をそのままにして掌に意識を集中させて"個性"を発動させると以前と同じような火力で炎が燃える…。
「…私は…皆と一緒に居ていいのかな──…」
私が呟くように出した問いは誰にも聞かれずに空気を震わせて消え去った…。
掌の上で燃え盛っていた以前とは違う…ドス黒く冷たく感じる炎を消して施設内に戻るために踵を返して歩き出す。
やっぱり私は自分の"個性"が嫌いだし、そんな"個性"を持っている自分自身が醜く見えて……大嫌いだ……。
▼
──合宿二日目 AM5:30
起床後すぐに施設前にA組生徒全員が集められた。
「お早う諸君、本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる"仮免"の取得…具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ、心して
臨むように」
説明を終わらせると相澤は入学時の体力テストに使ったハンドボール型の測定器を爆豪に向けて投げ渡し、それを投げろと爆豪に伝える。
「前回の…入学直後の記録は705.2m…どんだけ伸びてるかな」
投げる爆豪に周りが和気藹々と盛り上がる…しかし記録はそこまで伸びておらず、709.6mと出され、その記録に投げた周りは勿論の事、本人も唖然としていた。
「約三ヶ月間様々な経験を経て確かに君らは成長している…だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで"個性"そのものは今見た通りでそこまで成長していない、だから──今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬほどキツイがくれぐれも…死なないように──…」
笑ってそう伝える相澤にその場にいたA組の顔が引き締まった。
筋繊維は酷使することで壊れ、強く太くなる…それは"個性"もまた同じであり、使い続ければ強くなり、使わなければ衰える…つまりこの強化合宿の目的は「限界突破」。
許容上限のある発動型は上限の底上げ、異形型・その他複合型は"個性"に由来する器官・部位の更なる鍛錬……通常であればこれらは肉体の成長に合わせて行うものだが、雄英は
敵活性化のおそれ…即ち対
敵戦闘がこれからの社会で激化していくことを視野に入れたその為の対策・準備の為に無茶苦茶なスケジュールを組むことを余儀なくされた。
しかしプロヒーローの人数は6人、それに対し訓練する人数はB組も入れればその数は40近く…雄英も忙しい為人員をヒーロー科一年の為に割くことは難しい。
その為「プッシーキャッツ」の"個性"は全員の管理にはうってつけだった為、今回の合宿に協力を要請されたわけだ。
ラグドールの見た人の情報が100人まで居場所も弱点も分かる「サーチ」、ピクシーボブの「土流」で各々の鍛錬に見合う場を形成、マンダレイの「テレパス」で一度に複数の人間へアドバイスをする…そこへ
虎が殴る蹴るの暴行を加えるわけなのだが、この四人の実績と広域カバー可能な"個性"は短期で能力の底上げをするのにもっとも合理的だと相澤は語る。
各々が見合った鍛錬メニューを言い渡される…それは"個性"の力が戻ったと相澤に報告をしていた日詠もまた例外ではなく、少し離れた場所で一人鍛錬をする事になった。
「おまえは数日とはいえブランクがある上にその"個性"だ、他の連中より少々内容がハードだが必死になってついて来い」
「わかってる」
「たまに見に来るが呼ぶまでは鍛錬をやめるなよ」
「うん」
「……ほんとうに大丈夫か…?」
「…大丈夫だよ、心配しないで」
笑ってはいたが以前と同じような覇気が感じられなかった事に相澤は気付いていたが、時間もない為何も言わずに頭だけ撫でてその場を離れた。
それを見送ると日詠は"個性"を発動させ集中した…日詠の"個性"はいわば発動型だが複合型の訓練内容も入ってくる、クラスにいる数人と同じようなプランを一人でこなす…それにプラスして"個性"の発動にイメージが必要な為か脳の活性化も目論んだような内容を言い渡された。
現れた
土魔獣を見据えて攻撃をする…ただし"今までどおりの戦い方"は禁止、次々と現れる魔獣を別の使用方法を見つけながら全力を出して倒していかなくてはならない、そういった内容の訓練だ。
強力故に厳しくなる事を日詠は理解していたので普段通り何も言わなかった…そして何も感じなかった…。
魔獣と対峙するその顔からは表情が消えていたことを知る人ももちろん、誰も知らない……。
PM4:00
日が傾き始め、空が暗くなり始めた頃に鍛錬は終了し夕飯のカレー作りの時間となった…殆どの生徒がぐったりとしながらもカレー作りに勤しむ、その中で轟はあることに気付き相澤に歩み寄った。
「先生、日詠……怒木の姿が見えませんけどあいつは…?」
「…あいつは今から呼びにいく、おまえは気にせず作れ」
「…わかりました」
頷いて離れていく轟を見てため息を吐いてから相澤は日詠がいる場所へと足を運ぶ…その場所へ行くと丁度最後の土魔獣を倒した所のようで、息を切らしてどろどろになった姿の日詠は相澤が近付く為に足を動かす前にその存在に気付き振り返った。
「…終わり?」
「ああ、クラスの連中は飯作り中だ…おまえもはよ合流してやれ」
「ん……消太くん」
「どうした?」
「手繋いでもいい…?」
少し悩んだがため息を吐いて無言で片手をズボンのポケットから出して差し出すと、日詠は嬉しそうにその手を強く握った。
長年共に暮らしてきた子どもに迷子のような顔をしてそんな事を言われてしまえば断る事はできなかった…何より日詠の様子がおかしい事に気付いていたから相澤はその要求を呑んだのだった。
「…消太くん…」
「…なんだ…?」
「……私が迷子になったら迎えにきて、こうしてまた手を繋いでね」
その言葉の真意は分からなかったが今にも泣きそうな声で呟かれた言葉には短く返事をするしかできなかった。
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