少年は少女の笑顔を望む




日が沈んで飯を食って、風呂に入れば後は寝るだけの時間…正直くたくたでこんな生活が後数日は続くのかと考えると早く寝ちまった方が良いんだろうが風呂から上がった後日詠が外に出ていくのに気付いて緑谷達に夜風に当たってくるとだけ伝えて俺も外に出て日詠の姿を探せば案外早くに見つかった…あいつは上をじっと見上げているもんだから同じように視線を上に向けると星がすげぇ…明かりがすくねぇからか…。
目線を日詠の方に戻せば俺に気付いてねぇのか、未だに空を見てる…空の星を見るよりこっちのが綺麗だと思うのは惚れた弱みか…月明かりに照らされた銀色の髪が風で揺れる度にきらきらと光って、なんか…どっかに消えちまいそうで不安になって、思わず駆け寄って日詠の腕を後ろから掴んだら驚いた顔をして俺の方にようやく振り向いた日詠の顔を見て我に帰った…何してんだ俺…。

「…焦凍くん…?どうしたの?」
「あ………一人で出歩くのは、あぶねぇと思って…」

我ながら苦しい言い訳だと思った…もっと他に言える事があっただろ…。
そう思いながらも手が放せなかった、頭が混乱していて自分自身わけわかんねぇ…いや、一番わけわかんねぇのは日詠自身か。
きょとんと目を丸くして黙っていたけど「そっか…ごめんね?」と言って笑ってくれた…空気を読んでくれたのか、情けねぇと思う反面日詠のその優しさに胸の奥が熱くなる…ほんとうに俺はこいつの事が好きなんだな…。
強く握っちまった手首が痛かったらしく、謝って名残惜しくも手を離せば今度は日詠から手を繋いでくれた…照れたように笑ってまた空を見る日詠を俺はずっと、目に焼き付けるように見ていたかったが、流石にやめておいた…何より俺自身が照れくさくなってきた。

しばらく無言で二人で星を見ていた。
日詠は何を考えているのかわからねぇけど、俺は星を見ながら久々にこうやってゆっくりと一緒にいられる時間ができた事を嬉しく感じていた…俺だってまだまだ思春期真っ只中の男子だ、少しくらい…そういう事を考えても罰は当たらねぇだろ…と、心の中で誰かに言い訳をする。

「…焦凍くんはまだ寝ないの…?疲れたでしょ?」

日詠の声に視線を少し落として隣にいる相手を見るけど視線は相変わらず空へ向けられていて…少し寂しく感じる…。
前ならこうやって話すときはちゃんと相手の方を見ながら話す奴だったのに、今日は誰とも視線を合わせようとしなかった…顔を向けていてもどこか別の場所を見ている目だ。

「…それは俺らより長い時間やってたおまえもだろ」
「私はブランクがあるから…その分頑張らないと追いつけなくなっちゃう」
「…日詠…」
「ん?」
「…いや……なんでもねぇ…」

何かを言いたい、言ってやりたいのにかける言葉が思いつかねぇ…。
日詠が何かに悩んでる事は分かるのに、力になってやりたいのに…こういった事は日詠の方がきっと上手だ、何に悩んでいるのか聞き出そうにも上手い事はぐらかされるのは分かりきってる…こいつはそういう奴だ、全部一人で抱え込もうとする。
そういった所も好きなんだが、頼ってもらえねぇのは悲しいものがある…。

「………」
「………」
「…あのさ、焦凍くん」
「なんだ?」
「今から、少し独り言を言うけど気にしないでほしい」
「……わかった…」

沈黙を最初に破ったのは日詠だった…変わらず空を見上げて星を見ているが、少しだけ辛そうな顔に見えて俺もなんだか辛くなって同じように再び星を見た。
話す内容の整理をしているのか少しの沈黙から、ぽつりぽつりと日詠が言葉を吐き出していく…。

「…昔から皆ね、私の事を"いい子"だって…"優しい子"だって言うんだ…私は嫌われたくない、ひとりになりたくないってだけ、ただの偽善でしかないのに、皆が褒めるの」
「………」
「きっと"ヒーロー"になりたい理由もその偽善の延長線上のものなんだって、思い始めてきた…どうしてヒーローを目指したのか、わからなくなっちゃったんだ……偽善だと思うと自分がとても汚いものに、穢れたものに思えて…どんどん、嫌になっていく…」
「…おまえは、十分綺麗だろ…」
「……ありがとう、でも私はそうは思わない…思えないよ……」

日詠を見るともう空は見ていなかったが、その代わり地面を見つめていた…髪と身長差でその表情はよく見えない…ただその声は段々弱弱しくなっていって…こんな日詠を見たのは初めてで戸惑った。

「不安なんだ…私の記憶に…忘れてしまった記憶の中に、きっと思い出したくない"何か"がある…それを思い出しそうで…っ…こわいの…」
「日詠…」
「思い出したら、自分が、自分でなくなりそうで…っ」
「日詠!!」
「…っ!!」

繋いでた手を離して腕を掴んで引き寄せて…震える身体を抱き締めた。
こんなことで完全に安心できるなんざ思っちゃいねぇ…気にするなと言われたがこれ以上日詠の独り言を大人しく聞いてなんていられなかった…。

「大丈夫だ…」
「…わからないよ…どうして"ヒーロー"になりたかったのか…記憶を思い出す事も…何が正しいのか……わからない…」
「大丈夫だから…何があっても、俺はおまえの味方だ」
「………」
「ずっと側に居てやる」
「…うん…」

泣き顔は…多分見られたくねぇだろうから日詠の頭を自分の胸に押し付け、少しだけ強く抱き締めて頭を撫でる…こんなこと慣れちゃいねぇからできるだけ優しく撫でてやる。
同じヒーロー志望のやつに思う事じゃねぇだろうけど、俺は日詠を守ってやりたい…こいつが抱えてるもんを、少しでも軽くしてやりたい…日詠が俺にしてくれたことと同じことをして支えてやりたいし、できる事なら苦しませる原因からたすけ出したい…そう思った。
まだこいつの言ってる事はよく分かってねぇし不安を取り除く言葉は言えねぇけど、せめて和らげてやれたらと思って日詠が落ち着くまではずっと…大丈夫だとか根拠もない言葉を送りながら抱き締めていた。



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