存在意義を問う
ブラドキングが通報をしていたことで
敵が去った15分後、救急や消防が到着した。
生徒41名の内
敵のガスによって意識不明の重体15名、重・軽傷者11名、無傷で済んだのは13名、そして…行方不明2名。
プロヒーローは6名のうち1名が頭を強く打たれ重体、1名が大量の血痕を残し行方不明となっていた。
一方
敵側は3名の現行犯逮捕、彼らを残し…他の
敵は跡形もなく姿を消した。
生徒らが楽しみにしていた林間合宿は最悪の結果で幕を閉じたのだった──…。
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──どうしたら良かったのだろう…?
いや、どうしようも無かったのだ…どうしようもできなかった…。
「私は無力だ」と、それははっきりと明確に理解していたのだから。
あの日、あの時、届かぬ星に手を伸ばしながら幼いながらにも私は自分自身が"この世に生きていてはいけない存在"である理解し、自分を殺す
術を探しにその場を離れたのだから、どんな理由があるにしても私はあの惨劇を忘れてはいけなかった…私は私自身の事を忘れてはいけなかった…。
何故私は自分自身の罪から逃げるように記憶を失くしてしまったのだろう…?
「──い──……お……──おいっ!!いい加減起きろクソ女!!」
「……ぅ……」
聞き覚えのある声に未だ働かずはっきりとしない頭をなんとか覚醒させて目を薄く開ける…ぼやけた視界でうっすらと見える拘束具…また随分と入念に拘束したものだとまるで他人事のように思い、頭が覚醒しはじめた事によって全身の至る箇所から焼けるような痛みが走り思い切り顔を歪めた…そして、そう…あの時のように私は思うのだ…。
──また死ぬことができなかったのか…と。
決して口には出さずに、ゆっくりと顔を上げると目の前には数人は知らない人達ではあったものの、見覚えのある人物達がこちらに視線を向けていた…その中にはもちろん死柄木弔も居たわけだが、彼は私を見ずにカウンター席に座っていた。
そういえば、と聞き覚えのある声がした方を見ると私と同じように拘束された爆豪くんがいて少し驚いた…が、何故か私がすごい睨まれていたので視線を逸らしたら舌打ちが聞こえてきて、周りが
敵だらけだというのに味方である筈の隣に居る彼の方が正直こわい…プライドが高いから、捕まったことが癪に障るんだろうけどそれを私にぶつけるのはやめていただきたい。
爆豪くんが居る方向とは逆を向くとすぐ近くには対面した時のように、相変わらずの貼り付けたような笑みを浮かべている…確かヨミと名乗った人物が私を見ていた…この子を見ていると自分自身が不安定になってくる気がする…迷った挙句、私は視線を自分の手元に落として大人しくしていると死柄木が信じられないような事を言い始めた。
「早速だが…ヒーロー志望の爆豪勝己くん、怒木日詠ちゃん…俺の仲間にならないか?」
「寝言は寝て死ね」
敵を前に…しかも拘束されているにも関わらず強気な彼の姿勢は流石だと思った。
彼はそんな言葉に従順に「はい、わかりました」なんて答えるような人ではない事は分かっている…それでこそ"爆豪勝己"という人物であると、まだ少しの間しか時間を共にしていないけれど分かった事だ。
だけど私は何も言えなかった──…。
そんな返事を分かりきっていたと言わんばかりの態度で聞き流し、備え付けられていたテレビの電源を誰かが付けて私たちが攫われたことのニュースが流れ始める。
雄英高校謝罪会見が映し出されるとそれが私達に見えるように位置し始める
敵達を見てから、テレビに目を映すといつもとは違うスーツ姿で頭を下げているヒーローが目に入り泣きそうになった…テレビの向こうに居ると分かっていても、その姿に手を伸ばしてしまいそうになったが、少しだけ持ち上げた拘束された腕から力を抜いた。
▼
「この度──我々の不備からヒーロー科1年生28名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を
怠り、社会に不安を与えた事…謹んでお詫び申し上げます、まことに申し訳ございませんでした」
「
NHAです、雄英高校は今年に入って4回生徒が敵と接触していますが、今回生徒に被害が出るまで各ご家庭にはどのような説明をされていたのか、又具体的にどのような対策を行ってきたお聞かせ下さい」
「周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討…"強い姿勢"で生徒の安全を保証する……と説明しておりました」
▼
酷い話だ……命がけで救けようと奮闘してくれているヒーロー達を、ただ
救けられるだけしかできない者達がよってたかってヒーロー達を悪者扱いし、こうして世間へと発信していく…結果が全てなのだと、縛り付ける。
称賛や喝采の為にヒーローをやってるわけではないと昔消太くんが言っていた…私もそれに同意していた。
しかしそういった純粋なボランティア精神を持ったヒーローはもう少数派に思える…だからこそ、ステインは"ヒーロー殺し"となり真の"
英雄"と呼べる人物だけを生かしてきたのだろう…だからこそ、私は彼に「分からない」と言われたのかもしれない。
消太くんの言っていた事は同意見だった、目立つのがあまり好きではなかったからという理由もあったけれど、私も人を
救けるという行為は"当たり前"であると認識していたから…その行為に称賛は必要ないものだと思っていた…だけどそれは本当に私の気持ちだったのだろうか…?
自分自身が築き上げてきたものが崩れていくようだ…もう何も分からない、私は雄英に居ていいのか…消太くんやクラスの皆と一緒に居ていいのか…次々と頭に浮かぶのは疑問だらけだ、答えがほしい、何も分からないのは恐ろしいの…誰か、誰か、私に答えを教えてほしい…。
──私は生きていていいの──…?
そうだ、私はずっと考えていた、そう思っていた、何故?なぜ?ナゼ?
あぁ、わからない…分からない事だらけだ、分からない事自体が気持ちが悪い…どうしてこんな感情があるのだろう…?
感情が無ければ…生きていなければ…何故私は生を受けてしまったのだろう?何故記憶の無いまま生きているのだろう?何故あの時
救かってしまったのだろう…?どうしてあのとき、わたしはほしにてをのばしてしまったの…?
………あの時っていつだったっけ…?
「荼毘、拘束外せ」
「は?」
話が終わったらしい…だけど今私はそれどころじゃない…。
話が頭に入ってこない…ぐるぐる頭が回る…脳をいじくり、かき混ぜられたような気分だ…ドロドロとした感情に息が詰る…ぐちゃぐちゃと黒いクレヨンですべてが、わたしが、塗り潰されていくような感覚…暗い暗い冷たい泥水の中に突き落とされたようだ…。
私はどうしてヒーローを目指していたんだっけ…?そもそも私は、ヒーローを目指すべき存在では無かった…筈なのに…。
カチャカチャと音を立てて爆豪くんと私の拘束が外されていく…爆豪くんのはトゥワイスと呼ばれた男が、私のは自ら立候補してきたヨミが、それぞれの拘束を解いていく…拘束が全て外れ、死柄木が爆豪くんに近付いた瞬間大きな爆発音が響き、私の思考はようやく止まったものの、瞬間…脳内にフラッシュバックするように映像のようなものが流れ込んできて目を見開いた。
今のは……今頭に流れてきたものは…どこかで……?
「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…!馬鹿は
要約出来ねーから話が長ぇ!要は「嫌がらせしてえから仲間になって下さい」だろ!?無駄だよ」
何かを思い出しかけたせいでこみ上げてきた吐き気を抑えながら霞む目で爆豪くんを見た。
「俺は
オールマイトが勝つ姿に憧れた、誰が何言ってこようがそこァもう曲がらねえ」
▼
───……
「生徒の安全…と仰りましたが、イレイザーヘッドさん、事件の最中生徒に戦うよう促したそうですね?意図をお聞かせ下さい」
「私共が状況を把握出来なかった為、最悪の事態を避けるべくそう判断しました」
「最悪の事態とは?26名もの被害者と2名の拉致は最悪と言えませんか?」
「…………私があの場で想定した"最悪"とは生徒が成す術もなく殺害されることでした」
「被害の大半を占めたガス攻撃…敵の"個性"から催眠ガスの類だと判明しております、
拳藤さん鉄哲くんの迅速な対応のおかげで全員命に別状はなく、また生徒らのメンタルケアも行っておりますが深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません」
「不幸中の幸いだとでも?」
「未来を
侵されることが"最悪"だと考えております」
「攫われた爆豪くんについても同じ事が言えますか?体育祭優勝、ヘドロ事件では強力な
敵に単身抵抗を続け、経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが反面、決勝で見せた
粗暴さや表彰式に至るまでの態度など精神面の不安定さも
散見されています、そして怒木さんもまた度々荒々しい面を見せ精神面の不安定さ…何より身元が不明だという事は彼女もまた"
敵"であった可能性もあります。もし彼女が敵が送り出した者であったとしたら?違ったとしても、もしそこに目をつけた上での拉致だとしたら?言葉
巧みに彼らを
勾引かし悪の道に染まってしまったら?未来があると言い切れる根拠をお聞かせください」
「──行動については私の不徳の致すところです、ただ…体育祭での
ソレらは彼らの"理想の強さ"に
起因しています。誰よりも"トップヒーロー"を追い求め…もがいてる、あれを見て"隙"と捉えたのなら
敵は浅はかであると私は考えております……そして怒木日詠に関して、もし
敵に堕ちるような事、または敵に送り出された者であったその場合──…私が責任をもって捕らえます」
───……
▼
「ハッ言ってくれるな雄英も先生も…そういうこったクソカス連合!」
爆豪が死柄木に攻撃を仕掛けた事でその場の空気が臨戦態勢に入ってしまった中、日詠は記者に対して頭を下げながら話す相澤の姿を目に映しながらどこか遠くを見つめていた。
爆豪の立場を理解した上での反抗に対し、それぞれが色々と意見を口にしている中、死柄木の顔を覆っていた"手"が落ちた事に気が付いた黒霧は急いで死柄木を止めようと動き出したが、死柄木は以前のように
癇癪を起こす事もなく冷静に自身の"個性"が発動しないように"手"を拾い上げると、それをまた顔に付けた…流石に黒霧もこれには驚いたらしく、目を見開いているのが分かる。
「出来れば、少し耳を傾けて欲しかったな…君とはわかり合えると思ってた…」
「ねぇわ」
「……ねぇ、バクゴーくんはああ言ってるけどキミはどうなの?」
日詠は話しかけられた事でビクリと一瞬体を震わせ、話しかけてきたヨミの方へを顔を向けた。
「………」
「ソイツもてめえらの仲間になんかなるわけねぇだろ!!」
「キミには聞いてないんだけど、ちょっと黙っててくれるかなバクゴーくん」
「わ、たし…は……」
チラリと爆豪を見て瞳を揺らす…。
正直な話をするならば少女は迷っていた…どちらの手を取るべきなのか、今日詠にとって知りたい一つの"
過去の記憶"を持っている者のは
敵側にしかいないのだ…だがその"
過去の記憶"を知るために一度でも敵の手を取ればもう二度と戻れないような気がして固まってしまう。
他の
敵の言うように
懐柔されたフリでもして級友の前で敵の手を取るという一時的とはいえ裏切り行為をしてみせる事も日詠にはできなかった──何よりもフリでも裏切る行為だけは絶対にしたくないのだ。
だからこそ、少女はすぐに答えが出せずにいた。
「っ…テメェ裏切ったら殺すぞ!!!」
「……っ、わたしも…あなた達の仲間には、なれません…」
「完全に脅迫じゃんバクゴーくん酷いんだー」
「…まァ直ぐに答えが出てねェ時点で時間の問題な感じはあるけどな」
「……仕方がないヒーロー達も調査を進めていると言っていた…悠長に説得してられない、先生…力を貸せ」
死柄木の言う「先生」とは誰なのか分からないというのにそれを聞いた途端、日詠の脳内は嫌な予感でいっぱいになった。
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