生きるとはなんですか?




先生せんせぇ…?てめェがボスじゃねえのかよ…!しらけんな」
「黒霧、コンプレス…また眠らせてしまっておけ」
「ここまで人の話を聞かねーとは…逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」

どうにか敵の隙を作ろうと爆豪は日詠を背に庇うように立ちながら考えていると、突然背後のドアからノックの音が転がってきた。

「どーもォピザーラ神野店です──」

その声に一瞬その場に居た全員がドアに顔を向けて固まるも、突如として別方向の壁が破壊されオールマイトが突入してきた事で驚愕し、ヴィラン達が慌て出し、黒霧がワープゲートを開こうとした瞬間にシンリンカムイの必殺技"ウルシ鎖牢"によってその場に居たヴィラン全員が捕縛された。

「…っ!!」
「!?」

シンリンカムイに捕縛される前に日詠に駆け寄っていたヨミは反射的に身を守ろうといた日詠の"個性"で創られた鎖によって捕まり倒れたのだが…──。

「………」
「…っ…?」

先程とはうってかわって余裕そうに笑っている顔はどこにもなく、今にも泣き出しそうなヨミの顔を見て日詠は戸惑った…そんな顔をされるとは日詠自身、思ってもいなかったのだ。
そして気付いた、最初からヨミという人物は日詠に執着しすぎているのではないか?と…、確かにこの少女だか少年だか判別のつかない子は自身の目的を日詠に伝えている…だが日詠が忘れてしまった過去を思い出させる為だけにしては、全てが回りくどいやり方だった…もっと効率のいいやり方もあっただろうに、それをしなかったのだ…何かわけがあるのではと日詠が口を開きかけた時、抵抗を止めようとグラントリノによって荼毘が気絶させられた途端、ヨミの雰囲気がまた変わり…その豹変に気付いた日詠だけがビクリと体を震わせた。

「もう逃げられんぞ敵連合ヴィランれんごう…何故って!?我々が来た!」
「オールマイト…!!あの会見後にまさかタイミングを示し合わせて………!」

ヒーロー・エッジショットが"個性"を使ってドアの隙間から中に入りドアの鍵をあけると警察が数人入り、警戒態勢に入っているのを日詠は横目で見てから目線をヨミの方へと戻した…顔は床の方を向いていてフードや長めの髪で見えなかったが、一言も話さない相手を見て日詠は小さな恐怖心を抱く…。
その気持ちを落ち着かせようとできるだけ爆豪の近くにいるようにしようと、爆豪の少し後ろに立つように移動し、手に持っていた相手を拘束した鎖を見つめた。

「怖かったろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ少年少女!」
「こっ…怖くねえよヨユーだクソッ!!」
「せっかく色々こねくり回してたのに………何そっちから来てくれてんだよラスボス…仕方がない…俺たちだけじゃない……そりゃあこっちもだ、黒霧持って来れるだけ持って来い!!!」

死柄木がそう叫んだ。
しかしその場所には何も現れず、その場はシンと静まり返った…黒霧は死柄木に謝り所定の位置にあるハズの脳無のうむがないと理由を話し死柄木は驚愕した。
それもその筈だった、黒霧の言う所定の位置…つまり約5kmキロ程離れた距離にある脳無のうむの格納庫はその時にはもうNo.4ヒーロー・ベストジーニスト率いる別働隊が制圧していたからだ。

「やはり君はまだまだ青二才だ死柄木!」
「あ?」
敵連合ヴィランれんごうよ君らは舐めすぎた、少年少女の魂を、警察のたゆまぬ捜査を、そして我々の怒りを!!おいたが過ぎたな、ここで終わりだ死柄木弔!!」
「オールマイト…これがステインの求めた…ヒーロー…」
「終わりだと…?ふざけるな…始まったばかりだ…正義だの…平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…その為にオールマイトフタを取り除く、仲間も集まり始めた、ふざけるな…ここからなんだよ…………」

死柄木が黒霧の名を呼び終わる前に黒霧はエッジショットによって気絶させられてしまい形勢は変わらず、未だヒーロー側の優勢…更にそれは追い詰められ、その場の空気は切羽詰っていた。





息が苦しい、オールマイトが来た…他にもヒーローがたくさん来ている…きっと外にもヒーローは待機しているのだろう、たすけられた、もう大丈夫だ…そうは思っても安心ができないのは何故だろう…?幼い頃、消太くんに救われたあの時のような安心感が今の私には無かった…。
寧ろ、私は今追い詰められている死柄木達と同じ位置に立っているような気がしてならない…拘束されてもいない、威圧的な姿勢で詰め寄られてもいないというのに…。
ふと先程フラッシュバックした映像を思い出す…それが私の中でヒーローを信頼してはいけないと言っているようですごく居心地が悪い…私は恐怖で今すぐにでも近くにいるオールマイトにすがりつきたい気持ちでいるというのに身体は逃げ出したくてしかたない…まるで心と身体が別々の生きものになったようで気持ちが悪い…。
きっとこれは私の記憶なんだと思っても、その確証がどこにもない…その確証を得たいという気持ちと知りたくない…思い出したくないという気持ちが心の中でぶつかり合っている…思い出したくないと言ったところで、過去の私と現在いまの私はきっと違う立場にいるのだと薄々感付いてしまっている以上、思い出すのは時間の問題だと嫌でも察してしまう…それでも私は、理由は分からないけれど思い出したくないから苦しいのだろう…。

「ふざけるな、こんな…こんなァ…こんな…あっけなく…ふざけるな…失せろ………消えろ…」
は今どこにいる死柄木!!」
「おまえが!!嫌いだ!!」

そう死柄木が叫んだ時、何も無い場所から黒い液体と共に脳無のうむが現れ、その場の全員が驚いていた。
私も驚いてヨミの方を向く…しかし相手も一瞬驚いた顔をしていた、その顔は私の視線に気が付くと笑みに変えたのだけど…。

「ぅ゛…!!」
「お゛!!?」

突然ゴポッと自分の口の中から先程から脳無のうむを出しているように見える黒い液体がどんどん溢れ出て自分自身が飲み込まれていくのを感じた…声を聞いた感じ、きっと爆豪くんも同じだ…自分の事でいっぱいいっぱいだけど、オールマイトも焦ったように私達を呼んだのが聞こえたが、私の目の前は既に真っ暗になっていた。




ゴポリ…

黒い水に飲み込まれた時に気泡が出てきたような音が聞こえた気がした…気泡の音というより自分が飲まれた音かもしれない…それでも私はそういった音に感じた…そっちの方が聞き覚えのある音だったから、表現しやすいのだ。
長い時間、水の中にいたような気がする…正確には忘れてしまっていたのだけど…そうか、そうだ…私は確かに、水の中にいて…その時が一番安心できた…そんな時間は僅かしか無かったけど、それだけは覚えている…それだけは明確に思い出した。


「っごほっ…!ゲホッ!!」

バシャという音と共に地面に手を付いて思いっきり咳き込み口の中に入っていた黒い水を吐き出し、目の前の人影に気付いて恐る恐ると顔を上げるとパイプのような仮面をつけた…恐らく体格から男であろう人物が私を見下ろしていて、悲鳴さえも出せないほどに恐怖した…ガクガクと身体が震える、こわいのに相手から目が放せない…知っている、私はこの人を知っている…逆らってはいけない、逆らえない…絶対的な力…そう"教え込まれた"のだから。
仮面のせいで顔は見えない、けれど私の中の記憶があっさりと蘇ってくる程に…彼の力は強大だという事実を、私は"知りすぎて"いる…。

おかえり・・・・、外の世界は楽しかったかい?」
「…ぁ……」

ああ、ほんとうに時間の問題だった…その言葉を聞いた瞬間私は全ての記憶を思い出してしまった…私の出生、私の名前、私という存在が生まれた理由…私の罪を…全て、思い出した…。

「ゲッホ!!くっせぇぇ…んっじゃこりゃあ!!」
「悪いね、爆豪くん」
「あ!!?」

爆豪くんの声が聞こえてようやく目線を相手から逸らす事ができた…しかし体に力が入らない為顔だけ爆豪くんの方へ向け、ようやくその場所の状況が把握できた…少し離れた場所にある建物の殆どが崩壊している…私達が居る場所は更地のように何も無い…それが何を意味しているのかなんてすぐに理解できた。
頭の整理が追いつかないままその場所に黒い水と共に先程の場所に居たヴィラン達が現れ、死柄木に対しその男──オール・フォー・ワンは話しかけはじめた。

「また失敗したね弔、でも決してめげてはいけないよ、またやり直せばいい…こうして仲間も取り返したこの子達もね…君が「大切なコマ」だと考え判断したからだ…いくらでもやり直せその為にせんせいがいるんだよ、全ては君の為にある」

その言葉にゾッとした…。
どうしたら良いのだろうか…私は、どうしたいのだろう…できるのなら爆豪くんだけでもここから逃がしてあげたい、彼はこちら側・・・・にいてはいけない人間だ…私は彼がヒーローになった姿を見たいんだ…でも、それはオール・フォー・ワンにまた・・そむかなくてはいけないという事だ…"あの時"の事はまだ幼かったから事故であったと説明がつくけれど……いや、そんな事は今更じゃないか…そもそも私は"生きたい"なんて感情なんてものは持っていなかった
……だって…だって、わたしは……。

──ただの"実験動物へいき"なのだから──…。






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