光の中に




バレてしまった…隠していたつもりは無いけれど、あの温かな場所に戻るには隠すべき事実を、よりにもよって「平和の象徴」たるオールマイトに知られてしまった。
私はもうあの場所に戻れない…戻れるとも思っていない…私は生まれてきてしまったという罪を、あの日起こした事への罪を償わなければいけない…私は幸せにはなれない、なってはいけない…それでも消太くんや皆と過ごした時間は幸せだった。
10年くらいの年月、私は確かに"ヒト"として生きていた…思えば私のヒトとしての人生は消太くんにたすけて貰ったあの時から始まったのだ…それまでは…人間どころか生きものとして扱ってもらえてなかったから、だから、消太くんと出会って、沢山の人達と触れ合って、色々な"感情"を知る事ができた…私の中にある気持ちは冷たく暗いものだけじゃないって事を教えてもらった、あたたかい日だまりのような明るいものを貰った…だからね、だから…せめて私はその恩返しが最期にできたらと思ったの。
命に代えても、爆豪くんをたすけようと思ったの…大好きなあの人と同じ黒い色の炎、私が出すものはどうしても穢れたものに見えてしまうけれど、これは私の"一番最初の感情"だから…私の…怒木日詠の最期を飾るにはこれ程までにぴったりなものは無いだろう。
この"感情"を自発的に暴走させれば今度こそ私は完全な兵器となって定められたルールを本格的に破ったヴィランとなってしまうだろうけれど、爆豪くんがまた敵に捕まらなければそれでいい…ここにオールマイトが居るなら事が終わり次第すぐに私を捕まえてくれるだろう…それでよかった、完全には恩を返せなくても、それで、私の行動で救われる人が1人でもいるならそれで──…。

「っ…おいクソ女!!!!てめェいい加減にしろよ!!!」

暴走させようとしたら爆豪くんが怒ってる声が聞こえて顔をあげるとヴィランに囲まれながらも諦めずに戦って抵抗している爆豪くんの姿があった。

ヴィランの言う事なんかに一々反応してんじゃねえ!!今おめェがしてえことはなんだ!?ヴィランになることかよ!!!」
「そ…れは……」

何を言ってるの爆豪くん、私はさっききみの質問に、頷いたじゃないか…私はヴィランなんだよ…?ヒーローを目指してるきみにとって敵なんだよ…?どうしてそんな、敵に塩を送るようなことをするの…?どうして、私の決心を鈍らせようとするの……?

「記憶を取り戻したらてめえはもうヒーローになることを諦めんのか!?クラスの連中を…イレイザーヘッドを裏切るのかよ!?てめえの夢に向ける覚悟はそんなもんだったのか拍子抜けだなオイ!!」
「……っ」

ちがう…違う!違うッ!!私はほんとうにヒーローになりたかった!!皆を、消太くんを裏切るなんてしたくないっ!!でももうどうしたらいいのか分からないんだよ…!!どうしようもない!どうしようもできなかった!!それほどの罪を背負ってしまった!!世を乱す"兵器"として生まれた私の存在は"罪"そのものじゃないか…っ!!
それがどうして今更ヒーローになれるって言うんだ…私は、わたしは……!!

「何も分からねえなら前を見やがれ!!何があっても諦めねえ諦めの悪さがてめェの強さだろが!!いつまでもクソくだらねーことでウジウジしてんじゃねえよクソがッ!!殺すぞ!!!」
「────」

爆豪くんの言葉に目を見開く…頭が真っ白になった気がした。
「くだらないこと」…私が思い悩んでいた全てがそんな言葉で片付けられてしまった…そうか、私が今まで悩んできた事も、過去も、全てくだらないことだったのか…そんな簡単な言葉で吹き飛ばせるものだったのか…。
唖然としていると爆豪くんに突然襲い掛かってきたヨミの姿を捉えて咄嗟に鎖で捕まえて倒れさせた…この鎖に"拒絶"のエネルギーが流れている以上ヨミは個性を使えない筈。

「…私の正体を知って「くだらない」なんて言えるの、多分爆豪くんだけだよ」

まだ頭の整理は終わってない、滅茶苦茶にされて正直考えがまとまらない…けど、不思議と心は晴れやかだった…この"感情"を力として出していても暴走をしないのがきっともっとはやくに辿り着くべきだった"答え"なのだろうと纏っている黒い炎を見て思った。
隙をみて再び攻撃を仕掛けてきたヴィランから爆豪くんを守りつつ近くへと駆け寄った。

「…遅ぇんだよ、バカが!!」

怒られたけど顔は笑っていたから自然と笑ってしまった。
まだ私はこんな風に笑える事ができたんだなと少し驚いた…しかし状況はまだ変わってないので暢気に笑い合ってる場合じゃない…どうするかをまず考えよう、他の事はこの場から離れた時に考えればいい。

「いいかテメェ!!俺だけ助かる方法を考えんじゃねえぞ!!!テメェもここから脱出する方法を考えろよッ!!?」
「難易度高すぎて私が囮になって爆豪くんが逃げるって方法のが早い気がしてくるんだけどなっ!!!」
「ふざけんな!!俺らが居るからオールマイトが闘い辛れぇんだろが!!死にてえならこっから脱出してから勝手にくたばれ!!!」

せめて嘘でもいいから私の為とか言って欲しかったけどそんな事言ったら敵より先に私に彼の"個性"が飛んできそうだし、言ったら言ったで気持ち悪くて戦闘どころじゃなくなるので黙った……のに睨まれた、なんなの…爆豪くん読心術でも会得してるの?流石天才だね!!
馬鹿な事を考えるのはやめて、脱出方法を考えようにも二人一緒にここから逃げるのは今の状況だとかなり厳しい…。
私の"個性"で何か使えないか考えていたその時、突然氷が現れて驚いた…ああ、まさか…そんな……黒い炎が動揺で揺れた気がした…。

氷を使って空高く飛び出した人達をその場に居た全員が確認した…確認しなくても分かる、あれは緑谷くん達だ…こんな滅茶苦茶な方法を思いつくのは彼しかいない…。
一瞬だ、ほんの一瞬…初めて外にでた時…私が記憶を失う少し前の時に見た空を思い出した…あの時も崩壊した建物や瓦礫だらけの場所で私は輝く星を見た…あの時見た星は希望だったのか、それとも……それだけは記憶が戻った今になっても分からないけれど、あの時は輝きに触れることは赦されないと分かっていても手を伸ばしてしまった…今度は…今度も私は手を伸ばして良いのだろうか…?

「来い!!」

切島くんがそう叫んで手を伸ばした…私は……。
爆豪くんと目が合った…迷う間も無く私は爆豪くんにしがみついて彼に合わせるように"個性"を使って高く飛び、爆豪くんが切島くんの手を掴んだ。
遠く離れた地面を見てようやく自分の身体が勝手に動いていた事に気が付いて驚いた…あの時手を伸ばす事に躊躇していたのに、なんで……。

「何ィイイ!!?」
「爆豪くん怒木くん俺の合図に合わせ爆風で……」
「てめェが俺に合わせろや」
「張り合うなこんな時にィ!!」

こんな時なのに、いつも通りに話す彼らを見て笑ってしまう。
そしていつも通りに私を呼んでくれた事に、涙が出てきた…。
そうか…そうだった、私はずっと…記憶を失っても心のどこかで生きている事に悔恨を感じていた…幸せだと思っても強く生きたいと願ったことは無い…それは"兵器"としては必要のない感情ものだったから、自然とそういった気持ちは拒んで口にはしなかった。
厄介な話だ、記憶は脳だけじゃなくて身体にも残る…たった数年だったとはいえ私は確かに"生物兵器"として育てられ、植えつけられた"記憶トラウマ"がある…研究者達の教えを律儀にも守ってしまっていた、その記憶がそうあるべき・・・・・・だと私自身の気持ちであるかのように錯覚を起こしていた。

だけどそれは違った、私の心はいつも叫んでいた…願っていた…。
たすけてほしいと、生きたいと…"人間"になりたいと、願って…私はそれを"嫌悪"し"拒絶"し"憎悪"し私自身を殺し、そして"絶望"した。
私は誰かにそれを否定されたかった…生きていて良いのだと言われたかった…人を殺す"兵器ヴィラン"じゃなくて、人を守りたすける"人間ヒーロー"になりたかった。

ヒーローに救われた私は、誰かを救うという願いが、気持ちが、ただ綺麗だったから憧れた…始まりはそんな偽善に満ちた願望だった、だから…だからこそ私は何を救うべきかも定まっていなかった…そのまま私は走り続けていた、そして雄英に入って間近でヒーローになりたい子達の夢を、願いを…私が持っていなかったはっきりとしたものを見てようやく悟った。
私には強い憧れも、気持ちも、願いも無い…唯一支えとなっていた「本当の家族を知りたい」という願いも体育祭の日に望みは消え、残った偽物の夢は脆く崩れやすかったのだ。
それでも皆は側に居てくれた、弱音を吐いても側に居てくれると言ってくれる人がいた、こんな人でなしのような私を知って尚、たすけようとしてくれる人がいた…。

それなら信じよう、たとえ偽物であったとしても…ヒーローに憧れた事も、一度は挫折してしまったけれど私が選んだこのみちが正しいのだと…皆が、私を信じてくれたように信じよう…。
私を"ヒト"にしてくれたかけがえのない人達の為に、皆と同じ時を刻む為に…生きていこう。





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