落ちた星はもう空へは戻れない




Mt.マウントレディやグラントリノが追いかけようとしてくる敵の足止めをしてくれたおかげで、私達はなんとか逃げ切る事に成功した。
だけどなんとなく、私には居心地が悪かった…私と爆豪くんをたすけた彼らはあの時、間違いなくあの場所にいて、私達の話を聞いていた筈なんだ…つまり、彼らは…彼らとこの場に居ないけど少なくとも必ず居たであろう"彼"は私の正体を知ってしまったということで…ついその場の勢いで爆豪くんと共に彼らの救いの手を取ってしまったけど、彼らがたすけたかったのは爆豪くんだけだったんじゃないかとか今更な事を考えてクシャリと来ていた服の裾を掴んで皺を作った。
たすかりたいと思ったのは…生きてみたいと思ったのは間違いなく私の気持ちだ…、だけど私の気持ちと周りの気持ちは常に一緒ではない、それが分かっているからこそ私は恐ろしかった…だけど非難される事も私は覚悟しなければいけないのだ。

「怒木!怒木も大丈夫だったか!?」
「え……ぁ、うん…大丈夫…だよ」
「良かった…!!大分賭けに近かったからさ、爆豪もお前も来てくれて良かったぜ…」
「いいか俺ァ助けられたわけじゃねえ!一番良い脱出経路がてめェらだっただけだ!」
「ナイス判断!」

切島くんが普通に話しかけてきた事に驚いて反応が少し遅れた事も気にせずに爆豪くんにいつもの笑顔で答えるのを見て戸惑った。
どうして普通に…以前のように接してくれてるのか分からない…迫害されてもおかしくないだろうに…ヴィランだと分かっても尚、あの場でたすけに駆けつけてくれた級友達は尚も手を差し出してくれた…その理由が分からない…。

「怒木さん」
「緑谷…くん…?」
「君に、話したいって…」

緑谷くんが自分の携帯を差し出しながら真っ直ぐに私を見つめてくるものだから、少しだけこわかった…震える手で携帯を受け取り、耳の近くにそれを運ぶとそこから避難する人々の騒がしい声と走っているのか彼の少しだけ荒い息遣いが聞こえてくる。

『……日詠?』
「…焦凍くん…」

やっぱり彼も来ていたのか…できるなら知られたくなかったのにな…なんて、もう過ぎてしまったことを考えながら彼の言葉を待つ。

『無事に助かったみたいで良かった』
「…なん、で…」
『…言ったろ、何があってもお前の味方だって』
「そう…だけど…」
『…いいか、日詠…今回お前と爆豪の救出に来た全員、お前の事をなんとも思っちゃいねぇ』
『轟さん!その言い方では誤解が生じますわ!私達は日詠さんが何者であっても今までの彼女を信じてたすけようと決めたんですのよ!!』
「百ちゃん……」
『……って事だ、わりィな言葉が足りなかった』
「………」
『言いたいことはまだあるが、それは合流してから話す…切るぞ』
「…っ焦凍くん、ひとつ、聞かせて…」
『…なんだ?』
「…私は…皆と居て良いの…?」

シンと静まり返った気がした…聞いてはいけない事を聞いてしまったような気分だ…心臓が煩い。
それでも聞きたかった、聞かないといけないと思った…居て良いのか、悪いのか、あやふやなまま皆の側に居たくはなかった…。

「何分かりきった事を聞いてんだ馬鹿女」
「ちょっ、爆豪!今怒木電話中だから!!!」
「知るか、てめェらだってこいつに"居て欲しい"からたすけたんだろが。お前もこっちに"居てえ"から今ここに居るんだろ、それが答えだウジウジ考えてんじゃねえよ」
『……全部言われちまったけど、そういう事だ、俺は…俺たちは皆お前に居て欲しいと思ってる…けど大事なのは日詠がどうしたいかってことだと思うぞ』

記憶を失っていた頃いままでの通りとはいかないだろうけれど、それでも彼らは信じてくれると言う…皆と居て良いと、はっきりと言ってくれた…。
ああ……ああ、そうだ…私は皆と居たいから最初は届かなかった光にもう一度手を伸ばした……周りにどう思われようと彼らは変わらず私の居場所となってくれると、嘘偽りの無い言葉で私を認めてくれた、見てくれた。
ここに来てようやく曇り空が晴れたような気持ちになれた気がする…。

「……ありがとう……」

まだ清算するべき事は沢山あるだろうけれど…まだ認めてもらわないといけない人達は沢山いるけれど…私はもう大丈夫、もう私は私の存在を否定しないし、黒い感情に呑まれる事も無い。
こぼれ落ちる雫を拭いながら、久々に心の底から笑った気がする…あの頃の私がどれだけ望んでも手に入らないと思っていた繋がりひかりが目の前にある…信じてくれる仲間がいる…それはとても幸福なことなんだろう。
これが幸せだというなら、私がやるべき事はもう決まった…その答えがどうなるかは分からないけど…それができなくても今ならそれもまた良いと思える、そんな考えができるようになる程私は沢山のものを貰ってきたのだから。



だけどそんな束の間の喜びも中継されたオールマイトとオール・フォー・ワンの戦いに打ち消される事になった…。
オールマイトはかなりボロボロになっていて、それでも人々は今回もオールマイトがなんとかすると信じて中継されている戦いを見守った…私もその一人だ。
だけどオールマイトがオール・フォー・ワンの攻撃を自身の力で相殺し土煙が晴れてくると痩せこけ変わり果てたオールマイトの姿に皆が驚愕し、騒然としたのが分かった…。
あの人は…確か体育祭で、救護室の前で見た人だ…。
ああ…そうか、思い出した…そして同時に納得もした…昔A.F.O.あの方に初めて対面し、私の中でA.F.O.あの方がこの世で一番恐ろしく逆らってはいけないという気持ちを植え付けられたあの日、話された私が創り出された意味…恐らく、長年オールマイトが隠してきたひみつ…。
中継が映し出されているパネルから緑谷くんへと目線を移す…体育祭の時、緑谷くんに感じたのはこれか、と一人で納得した…だとしたら…いや、今は考えるのはよそう…。
オールマイトの窮地にその場に居た人達…いや、恐らくこの中継を見ている人達全員がオールマイトを応援しているのだろう…オールマイトへの声援がいっきに広がる…爆豪くんも、緑谷くんも…大声をあげて……私は視線を中継が映し出されている場所へと戻した。
きっとオールマイトはこの戦いで全てを出し切ってしまうのだろう…これも、貴方のえがいたシナリオどおりだというのかオール・フォー・ワン…。

「オールマイト…」

オールマイトの元へエンデヴァーやシンリンカムイ等、バーの方で脳無のうむ達と戦っていた筈のヒーローが集い、そしてその場に倒れたヒーロー達や逃げ遅れた人達の救助を…そしてオールマイトの援護を始めた。
オールマイト…皆が貴方を信じています、皆があなたの勝利を願っています…ボロボロの貴方一人に背負わせるには重過ぎるものかもしれない…それでもどうか勝ってほしい、また安心させてくれる笑顔を見せてほしい…貴方は皆にとって、最高のヒーローなのだから…!
その思いに答えるようにオールマイトはオール・フォー・ワンへ反撃をし、そしてついにその戦いは終わりを告げた──…。
一瞬、誰もが息を止めただろう…オールマイトが敵を打ち倒し、静かに腕を上げ、スタンディングポーズを決めた時一斉に歓声が上がった。



『次は、君だ』

オールマイトがボロボロの姿でカメラへ指を向けそう告げた時だった…日が昇ろうとしたうっすらと明るくなった空に私は一つ星が流れ落ちるのを見て、私は涙を零した。



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