少女は懺悔する
その後、まずは焦凍くん達と合流をしようという事になり私達は移動する事にした。
緑谷くんは泣いていたけれど、もう落ち着いたようで少し安心した…彼がオールマイトのファンだって事はよく知っていたから、あの姿は耐えられなかったのだろう…そして何より、多分彼もオールマイトのあの一言に隠されたメッセージに気付いたからか…。
「日詠…っ!!」
「!!」
声がした方へ顔を向けるのと同時に抱き締められ目を見開いた。
苦しいくらいに力強く抱き締められ、首元に埋まった顔から少し汗が滲んでいる事から、多分相当走ったんだろうと考えてはっとする。
「ちょ……焦凍くん…あの、皆見てる……んだけど……」
「無事で良かった…」
「聞いてる!?」
相当心配してくれたんだろうけど恥ずかしい、すごく恥ずかしい…。
切島くんはぽかんとしてるし百ちゃんは口元に両手を添えながら真っ赤になってるし…というかその場に居る級友達だけじゃなく一般の人もちらちらとこちらを見ているのが分かる…というか電話で安否は確認してた筈なんだけど焦凍くん。
小さい声で「
救けてやれなくて悪い…」と謝ってきて一瞬なんの事か分からなかったけど多分、攫われた時の事だろう…その気持ちだけで私は十分嬉しいよと焦凍くんの背中を撫でてあげた…こうした人のぬくもりも久しぶりだと思ってしまう。
「あー……お取り込み中悪いんだけどな、轟…爆豪と怒木の事一旦警察に送ろうぜ…?」
「………そうだな、わりィ…」
切島くんが目のやり場に困ったように頬をかきながら伝えると焦凍くんもはっとしたように少し顔を赤くしながら私から離れてくれた…その代わりに手は繋がれたけれどもういいですと言わんばかりに皆何も言わなかった…いや、誰か止めてよ。
少しして緑谷くん達に爆豪くんと共に私は警察に送り届けられ、爆豪くんはしばらく静かだったけどご両親が迎えに来てお母さんと喧嘩する爆豪くんに少し笑って見守っていたら爆豪くんが私の方をいつもの悪い目付きで私を見た。
「……こっから出たら連絡よこせ」
「え、なんで」
「いいからよこせ」
「あ、はい…」
有無を言わさない雰囲気でそれだけ言って爆豪くんは自宅に帰った。
体育祭後押し付けた連絡先に彼は律儀にも自分の連絡先を送りつけてくれたのでそれはいいのだけど、連絡よこせなんて言われるとは思わなかった…相変わらず読めない部分があるな彼は…。
そして爆豪くんは「出たら」と言ったけれど、正直私がここから出られる保証は無いんだよなぁ…そんな事言ったらきっと彼は怒るので言わないけれど、これは事実だ…私は記憶を失っていたとはいえ
敵である事が判明し、もし仮にも
敵ではないと言われてもあちら側にいた罪は償うべきだと思っている…。
ふぅ…と小さく溜息をついて小部屋に備え付けられた小さな窓から空を見上げる…もう日は昇って外は明るかった…皆は無事に家に帰れただろうか…?
「日詠」
突然名前を呼ばれて振り返ると、ずっと会いたかった人がドアの前に立っていて目を見開いた…だけど駆け寄らない、駆け寄ってはいけない気がした…皆には認めてもらえたけれど、やっぱり私はまだ怖い…信じた人に拒絶される事がこわい…。
言葉に詰まって、視線を床へと下ろすと溜息が聞こえてきてゆっくりと足音が近付いてきてスッと手が上がる微かな音が聞こえて思わず小さく体を震わせてしまったけれど、降ってきたのは温かく優しい手でそれは私の頭を不器用にも優しく撫でてくれた。
「…消…太くん…」
「…悪かったな、
救けてやれなくて…」
「あ、の……」
「警察から大まかな話は聞いた…緑谷達があの場所に居たってのも、お前の記憶が戻ったってのも」
「っ…」
頭を撫でる手を止めてしゃがんで私の視界に再び入る消太くんの顔…会見の為に髭が剃られた顔に少し違和感を感じてしまうけれど、紛れもなく私の大好きなヒーローが真っ直ぐと私を見ていて今度は目を剃らすことができない。
「……お前が思い出した記憶の事、詳しく話せるか…?」
あくまでも私の意志を尊重してくれている消太くんの声色に無駄に入っていた力が抜ける…元々消太くんが来たら全部話そうと思っていたから、小さく頷くと消太くんと共に部屋を移された。
どうか聞いてほしい、私の過去を、私の罪を、私の懺悔を…少し長くなってしまうかもしれないけれど私の知っている全てを聞いてほしかった。
私は敵から生み出されたモノです、人の
理から外れた行為によって創られたモノ…彼らは私…いえ、私達の事を"生物兵器"と呼んでいました。
より強い"個性"を求め、遺伝子を人の手によって組み替えていく事で目的を達成できる代物を創りだす…そうして創られた仔は失敗例と成功例に別けられ、成功例には名の代わり区別番号を割り振られ様々な実験を繰り返された…より良い"個性"を作り出す為に…より良い"兵器"を生み出す為に…。
それでもやはり人型の"生物兵器"を一から創りだす事は困難だったのでしょう、失敗を繰り返して結局長きに渡る
実験は最近までに100を少し越えたあたりまでしか創り出せず、また"成功例"でさえも「寿命が短い」というデメリットを負ってしまっていた…簡単に言えば私達はクローンと同じようなものだから、普通の人より寿命が短くなったり劣化するのは当たり前の事…でも成功例:143番目の子どもは奇跡的にそのデメリットを負わずに済んだ…。
より人間に近く、より強い"個性"を持った"生物兵器"…生み出された143番目の子はまさにその理想であり間違いなく"最高傑作"だった……ある一点を除いては。
間違っていたんです…人に限らず、生きている物に必ずあるモノを"個性"として組み換えてしまった事自体が…脳の発達が通常より優れて生まれてしまった"兵器"に"感情"など与えてしまった事が…そのせいでその研究所は崩壊してしまったのだから。
143号――私は創りだされた時から絶えず思考を続けていました、その思考の全てが答えの無い疑問ばかりだったけどやっぱり一番考えていたのは自分と世界の存在意義だったと思います…地獄のような場所で
造み出された挙句死んだほうがマシだと思える実験の日々…毎日悲鳴や自我を失い狂ってしまった子どもが死んでいく様を見せられ、それでも命令が無ければ自ら命を絶つ事も許されない…正直、知的能力が無い方がまだあの現状に耐えられたのかもしれません…だから私は失敗例とされた子が羨ましく思っていました、生きるという意味も死ぬという意味も知らなければきっと幸せだったのかもしれない。
自由も無く、かろうじて生かされ、外に出ることも許されず、薄暗い施設の中で実験という名の虐待をされ、時には失敗例の子を処理させられ……そんな小さな世界で私は初めて感情を得ました、その感情は記憶を失っても消える事は無かった…"絶望"なんて、普通の人の子であるならこんな感情を生まれてすぐに得る事は無かったでしょう。
…話を少し変えましょう、私が造りだされるきっかけとなった…一番最初の理想に近かった成功例の子どもの話です。
あの子は言うならばもうひとりの私なのでしょう…あの子からしたら私はあの子自身、あの子がいなければ私は造りだされなかった…あの地獄のような場所であの子だけが唯一の話し相手だった…あの子は私とは違って実験の時以外は自由に歩き回って…いわばその場所に居た"
兵器達"の世話役、でしょうね…不安定ではあったもののあの子がいなければきっと私はすぐに壊れていたと思います。
そして多分…あの子と出会っていなければ、私はあの場所から出ることは無かったでしょう…。
ここからおそらく私が記憶を失った経緯…原因となった事件の話をしましょう。
消太くんと出会う少し前、一ヶ月くらい前の話かもしれません…結果から言うなれば私は自分の"個性"を
わざと暴走させて研究所を破壊しました。
そんな事をした理由は簡単です…私は研究者達に我慢の限界がきてしまったのです。
許せなかった…赦せなかった…命を
弄ぶような彼らの行いが、失敗例とはいえ生きていた筈の彼らの命をあんなにも簡単に壊されていく事が…。
何があったのか、要約しましょう…彼らは、"
最高傑作の兵器"をより強くする為に失敗例の子どもをつなぎ合わせ、化け物を生み出し私と戦わせたのです……そう、あれは…形は歪でしたがきっと
脳無の原型となったもの、なのかもしれません…いえ、失敗例も成功例も含めてもしかしたら全て
脳無の原型となったモノかもしれませんが…すみません、そのあたりの事は私にも分かりません…。
とにかく、私はソレと戦えと命令された…私はいつも通りその命令を忠実にこなそうとしました…しかし、攻撃をする前に一つの声が聞こえてきたのです…「
救けて…」と…その小さな声を聞いて私は考える間も無く、"怒り"に身を任せ暴走させた…身体が勝手に動いていた、気が付けばあたり一面は炎と瓦礫しか無かった…その時の無茶な暴走で私は記憶を失い、その代わり自由を得た。
それからは消太くんと出会うまで私はひたすら歩いて、歩いて、ただ本能が働くままに行動していました…あの場所から逃げるように、あの地獄にもう二度と戻りたくなくて…しかし負った罪を償い果てる場所を探しました。
記憶は無くともあの場所で覚えた絶望も怒りも苦しみも憎悪も…身体に、脳に、刻まれていた…だから私は人がいる場所を避けて過ごし、一人安堵できる場所を無意識に探していました。
…これが私の全てです…私の知っている限りの、忘れた記憶と過去です。
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