星は産声をあげた




どれだけのものをこの子どもは抱えて生きていたのかなんて俺には想像もつかない…。
話が終わった後、尚もこの子どもは笑って「どんな罰でも受ける」等と言っているのだから恐ろしいものだ…その場所で同じようにその話を聞いていた警察も苦い顔をしている、多分俺も同じような顔をしているんだろう。
俺だって日詠の事を最初から全てを信じていたわけじゃない、ヴィランであっても近くに置いておけば何か怪しい動きをした際にすぐ捕まえられて合理的だと考えたから引き取った。
子どもとは思えない物分りの良さ、並大抵のものじゃない反射神経と戦闘センス、自身の感情をセーブする能力…全てにおいて怪しさしかなかった…それでも絆されてしまう程に純粋な目で俺を見て必死に追いかけてきた子どもを今まで俺は立場上完全に信頼するわけにはいかなかった…。
どんな罰でも受けるなんて馬鹿げた話だ…罰を受けるならこの純粋な子どもを信用しなかった俺も罪人になるだろう…。

「…話は分かった、けどな…お前を罰する事は無いし、もし罪があっても10年近く俺と過ごして善良を積み重ねたお前はもう赦されても良い筈だ、最初からお前は被害者でしかないんだから」
「…でも…」
「それでもお前は償おうとするなら、その研究施設の事とそこにいた子ども達のこと…わかるなら場所の事を警察に話せ、それで十分だろう」
「……」
「お前は救けを求めた子どもの声を聞いて身体が動いたんだろ、そして暴走した…いいか日詠、それは事故で片付けられる案件だ、殺すつもりじゃなくたすける為に動いたお前が罪の意識でそんなに苦しむ必要の無い事だ…」

もう苦しまなくていい、もう赦されていいんだ…上手い事言葉にできないのがもどかしい…それでもこいつは優しいから救えなかった事が悔しいんだろう、当時4歳前後の子どもがそんな中その場に居た自分達を危険に晒していた研究者も含め全員命を奪わずに救おうなんて事自体難しい…プロのヒーローでも困難だろう…。
生まれはどうであれ今俺の目の前にいる子どもは確かに人と呼ぶには何かが欠けていたが、それでもヴィランと呼ばれるには相応しくないんだ…。

「……緑谷くん達にたすけられた時…」
「ん…?」
「…初めて、生きてみたいと思ったの…」
「………」
「でも…きっと私は許されてはいけなくて……これまで通り、皆の側にいちゃいけないし…雄英にも、戻っちゃいけないと思ってた……」

思わず眉間に皺が寄った…だからか日詠は慌てたように「でもね」と続けた。

「言ってくれたの…側に居ていいって……私のしたいようにすればいいって」
「…そうか…」
「過去に私がした事は誰に何を言われても、許される事じゃないと思ってるし…償うべき罪だと思ってる…この考えばかりはきっと変えられないけど……それでも、私は皆の側に居たい…皆と一緒に、私は生きたい…」

そう言って泣きじゃくる日詠は、兵器なんかじゃなく紛れも無く人間の子どもだった…長い時間を費やしてようやっとヒトになった…ようやく欠けていた部分が埋められたようだった…。
こいつに足りなかったのは生存本能…生きるものは必ずどこかで思っているはずの「生きたい」という考えが無かった、自己犠牲精神は確かにヒーローを目指す上では無くてはいけないものだが痛いという意識も危険に飛び込む勇気もあるからこそそれが成り立つ…だが日詠にはそれが昔から無かった…持ち前の反射神経で補ってはいたがそれは恐らくこいつを造りだした研究者達に植え付けられた「自ら命を絶つ事は許さない」という命令が植えつけられていたからだ…その命令がなければこいつは最初の暴走で命は潰えてしまっていただろう…そうでなくとも、日詠はただでさえ短い人生を一瞬で散らす危険性があった…。
だからこそ日詠が自分からそう思えるようになった事が柄にもなく嬉しく思ったし、心の底から安堵した…。

「…いいんだ」
「え…?」
「お前は生きていていいんだよ」
「…っ!」

止まっていた涙がまた流れはじめた…こいつはこんなにも泣き虫だったか、最近泣き顔しか見ないな…。
側に寄って指で涙を拭ってやっても止まらない、仕方ないから抱き締めて落ち着くのを待った…今は思う存分泣けばいい、今まで我慢してきた分吐き出せばいい、ようやくお前はヒトになれたんだ…。







泣いて泣いて、落ち着きを取り戻した後も私は消太くんに抱きついたまま離れなかった…困ったようにしながらも頭を撫でてくれている消太くんが大好きだ…例え彼自身が私を信用していなかったとしても、私は消太くんに信用してもらおうとこれまで頑張ってきたのだから…記憶を失ってから、初めて優しさをくれた人…初めて私をヒトとして見てくれた人…この人がいたから私は今まで生きてこれた…この世界が、この世界に生きる人達が大好きだと思えるようになれた…。

「…やっぱりはっきりさせとくか…」
「ん…?」
「いや、こっちの話だ……今日ここに来たのは無事の確認と話をしに来ただけだ、しばらくは悪いが警察の世話になっててほしい」
「…うん」
「何か勘違いしてそうだから言うが、ここで罪を償えって言っているわけじゃねぇぞ?お前にとってここのが安全だろうから言ってんだ…俺は雄英を辞めさせられずに済んだがやらなきゃならん事が山ほどある…それが終わるまでは家にも戻れない、爆豪もだがまだお前は狙われる可能性がある分、外に出るのも一人にさせるのも危険だからだ」
「…終わったら迎えに来てくれるの…?」
「ああ、約束する…たまに顔も出す、だからいい子にしてろ」

まるで小さな子どもに言い聞かせるようだ…確かにそれなら消太くんは忙しいだろう、寂しいけどたまに顔も見せてくれるなら…迎えに来てくれるのなら…待っていよう。
小さく頷くとまた優しく頭を撫でてくれた。

「暇つぶしとかもってきてね」
「…分かった…警察に携帯所持の許可は貰ったから、これで欲しいもん知らせろ」
「私の携帯…持ってきてたんだ」
「一応な…」
「消太くんに電話していい?」
「………確実に出られる保証は無いが夜ならな」
「ん、わかった」

確実ではないにせよとりあえずは消太くんの声を聞けるならいい、携帯ならある程度は暇つぶしもできるだろうからこれだけでも十分かもしれない。

「じゃあ、そろそろ俺は行くぞ」
「ん、いってらっしゃい…お仕事頑張ってね」
「…ああ」

少しだけ笑って一瞬だけ抱き締めると立ち上がって部屋を出て行く消太くんを見送った…その少しした後、女性の警察官の方が入ってきて私の仮の部屋を用意したからと案内してくれた。
何かあったら呼んでと呼び鈴のようなボタンを指して言うとその人は部屋から出て行った。
ぐるりと部屋を見渡した後簡素なベッドに腰かけて携帯についているストラップを撫でて焦凍くんの事を思い出す…過去を知られた事はショックだったけれど、受け止めてくれた…たすけにきてくれた…それがどれだけ嬉しかったかなんて、多分彼はわからないだろう…これで焦凍くんにたすけて貰ったのは3回目だろうか…?たすけてもらってばかりだな…私。
突然抱き締められた事を思い出して頬が熱くなってきてベッドに横になった…大分疲れがたまっていたんだろう、横になってすぐに眠気が襲ってきて…気が付いたら意識は夢の中へと入っていった…。
その日私は久しぶりに幸せな夢を見た。



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