願い、幸福、そして…
その次の日、思いがけぬ訪問者が私の元に来た。
「オールマイト…?」
「やあ怒木少女、元気にしているかい」
「おかげさまで…オールマイトこそ、お怪我は大丈夫なんですか?」
「なに、これくらい問題ないさ」
笑顔でそう答えるてはいるけど痩せ細った身体に痛々しく巻かれた包帯に思わず目を伏せてしまう…携帯で見たニュースで事実上の引退という話は知っている…こんな身体で今まで1人でがんばってきていたのかと思うと胸が苦しい…。
「実は君に聞きたい事があってね」
「……大方の予想はついています…あの人…オール・フォー・ワンの事…ですよね?」
「そう…悪いけど場所を移そうか」
「はい…」
私とオールマイト…そしてオールマイトが信頼しているという塚内さんという警官の方の三人で防音されているという取調室のような部屋に入り、全員が椅子に座った。
「相澤くんに君の過去に何があったのかという話は聞いたよ…辛かっただろう、まずそれに対して謝らせてほしい…当時の君達を
救けてやれず申し訳ない…」
「!?いや、あの…頭上げてください!もう過ぎたことですし…!!」
「不甲斐ないよ、平和の象徴と謳われながら私は手の届く範囲でしか
救けられない…今回の誘拐の件も、君達に怖い思いをさせてしまった…」
「…いいんです…それでも、きっと貴方は私が生まれた施設の存在を知っていたら…迷わず
救けに来てくれたと思いますから…その気持ちだけで十分です…」
「…ありがとう…」
笑ってそう返すとオールマイトも少し笑ってお礼を言った。
過去の事だ、今更どうしようもない…そんな事までオールマイトの責任だとは思わないし、これまで一人で十分貴方は人々を
救けてきた事を知っている…だから謝らないでほしい。
「それじゃあ…本題に入ろうか、まずは君がオール・フォー・ワンに出会った時の事を教えてほしいんだ、覚えている限りの事でいいんだが…」
「…あの人と出会ったのは…1歳になるかならないかぐらいの時だったと思います…その時に私が敵と認識するべき物事を教えられました…その教えも大まかに言えばあの人がいらないと判断したもの、自分が不必要だと感じたもの全て壊せ…といった感じのものでしたけど…あとは…えっと…」
「…私の"個性"の事も知っているんだね…?」
「…はい…」
「安心してくれ、"個性"の事は塚内くんも知っている…その様子だと私が秘密にしている事も理解してくれているようで安心したよ…そして、恐らく君は気付いているね…?」
「…貴方が誰に譲渡したのか…ですよね」
「…やっぱり知っていたか…」
「…薄々ですが…」
"ワン・フォー・オール"は人から人へ譲渡し継承していく"個性"…私はその力を譲渡された人物を消す使命を言い渡されていた…いつか戦うであろう強敵の為に鍛え上げられた…私はより強い相手を"殺す"為に創りだされたのだとあの人に逆らってはいけない事と共に教えられたのだ…。
だとしたら体育祭の時、一瞬だったけど戦う緑谷くんを見て「殺したい」と思ってしまった事は仕方のなかったことだったのだと今更ながら納得した…あの時はわからなかったけれど間違いなく"殺意"だった…少し危なかったのかもしれない…。
「そうか…正直に話してくれてありがとう」
「いえ…私も少ししか分からなくてすみません…」
「いやいや!十分さ!それに申し訳ないんだが、彼にも協力してもらいたい事があるらしいからね」
「協力…ですか…?」
「実は君が生まれたと言っていた研究所を探しているんだ、何かの手がかりが見つかるかもしれないからね」
「でも…あの場所はあまり記憶に無くて…」
「それは分かっているよ、でも何か思い出したらなんでもいい、教えて欲しいんだ」
「あまり、頼りになるかは分かりませんが…わかりました……その代わりといってはなんですがもしあの場所を見つけたら一つ頼みたいことが…」
「?なんだい?」
「…私も、その場所に連れて行ってください…」
「…わけを聞いてもいいかい?」
「…あの子達の墓を…ちゃんと埋葬してあげたいんです…そんな事をして許されるとは思っていないけど、せめて……」
「そうか…うん、そういう事なら話は通しておくよ」
「すみません、ありがとうございます」
塚内さんとオールマイトは笑ってくれていた…もう話は終わりらしく、私はもと居た部屋に返され、する事も無く警察の人に借りた本を読んでその後の時間を過ごした……そう言えば爆豪くんに連絡してないんだけど…まぁここから出たらと言っていたから…うん…出てないからいいかな…!!
更に数日後、消太くんが顔を見せに来てくれた。
「全寮制…?」
「そうだ、今回の件で生徒の安全確保の為全生徒に寮に入ってもらう事にしたらしい」
「そう…」
「寮が出来次第、各家庭に許しを貰いに行くから迎えに来るのはもう少し先になると思うが…お前はいち早く寮で暮らす許可を校長に貰った」
「わかった」
「…気が進まないか…?」
「ううん、大丈夫…皆の親御さんに許可もらえるといいね」
「…そうだな…そのあたりは俺達教師が説得するしかないだろ」
「頑張ってね」
「ああ」
寮…つまり生徒は全員学校で暮らすという事だ確かに安全確保の為には理にかなっているだろう、だけどきっとそれだけじゃない…これまでの事から学校内に内通者が居る可能性を疑っていることが分かった……そして私はその一番の有力候補に上がっていそうだ…。
そんな事を考えているとベシンとデコピンをされて小さく悲鳴を上げた…痛い…消太くんにこういった事されたのは初めてで頭が追いつかず額を抑えながら泣きそうになるのを堪えて消太くんの顔を見上げると不機嫌な顔が映った。
「え、なに…なんでそんな怒ってるの…」
「くだらない事を考えるな、お前はもう自分でこっちに居たいって決めたんなら必死にしがみついてりゃいい、信頼はそういったもんの後からついてくるもんだ…自然にな、だから余計な事は考えないで前だけ向いてろ…いいな?」
「…っはい」
どうして消太くんは私の考える事が分かっちゃうんだろうな…ああ、いや…消太くんだけじゃなくて爆豪くんもか…あれ?私そんなに分かりやすいのか…?
暢気にそんな事を考えていたら私の前に一枚の紙とペンが出された…これは……思わず勢いよく消太くんの方を見ればいつも通り淡々とした表情ではあったけど優しい目だ…あの時、私を
救けてくれた時と同じような目だ…。
「正式にお前を俺の養子にする事に決めた、これはその為の書類だ…合意するならここに名前を書け」
「消…太、く……」
「どうした?」
「いきなり…なんで……だって……」
あんなに、父親になるのを嫌がっていたじゃないか…。
頭が追いつかない…でも嬉しい…嬉しいけど疑問がいっぱいだ…。
「…元々、お前の両親が見つかる見込みが無いと判断された時に書かせるつもりでいたんだがな…色々忙しくてタイミング逃したり…まぁあとは俺が決断するのに時間がかかった…」
「で、も…私の事、疑ってたんじゃ…」
「……知ってたのか……確かに最初はお前の事を疑っていたし、完全に信じる事もできなかったがな…」
「………」
「だがそれは"ヒーロー"という立場上での話だ、お前の"保護者"という立場なら俺はお前を信じているし……お前に幸せになってもらいたいと思っている」
優しく頭を撫でられる…大好きな手、大好きな声、大好きな温度…私に色々くれた人…私に欲しかったものをくれた人…ああ、だめだ…こんなに幸せなのに涙が出てくるなんて可笑しい…。
こんなに幸せでいいのだろうか…不安になってしまう程だ…。
「…泣き虫になったなお前…」
「だっ、て……」
「書類濡らすなよ」
「っわかっ、てる…」
呆れたように笑って泣き止むのを待ってくれている消太くんに申し訳なく思いながらもなかなか泣きやめない…嬉しいんだよ、すごく嬉しい…涙を拭って、仮にと与えられた名前を丁重に書く…誕生日とかはどうしたらいいんだろうか…。
「適当に書いとけ」
「…いいのかなそれで…というかこれ受理されたら私の苗字相澤になるの?」
「お前が名乗りたい方を名乗れば良い」
「…そうだね」
何も考えないでいよう、今は幸せだけを感じていよう…。
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