星は再び瞬く




昼下がり、太陽が昇って暑いくらいの日差しの中涼しい部屋でうつらうつらとまどろんでいる…記憶を取り戻したのはいいけどその後からやたら眠気に襲われる…長年無意識に抱えていた不安が消えて安心してしまっているのだろうか…?昔ほど眠るのがこわいと感じる事はなくなった…こわいと感じた夢を何故か見なくなったから…幸せを感じているからかなんなのか、とにかく毎日が眠くてしかたがない…寝転がったまま読んでいた本に栞を挟んで枕に顔を埋めて遠退きそうな意識の中昔の事を思い出す…。

『どうしてなにもいわないんだい?』

私の大切な、最初のともだちの記憶──…。
あの時私はなんと答えたんだったか…それは忘れているのに、あの子の嬉しそうな顔だけははっきりと思い出せる…あの顔があの頃の私は好きだった。

目蓋が重い…どうせ眠るのなら少しだけ昔を振り返るのもいいかもしれない…。
あの子…ヨミはあの場所で唯一会話をした子…唯一心を許した子だった…私と同じように身体中に包帯をぐるぐるに巻いて、そしていつも片方の顔だけは見えなかった…それは今も同じか…あの時は傷が酷いからそうしているのかと思っていたけど、今もそうして居るという事は何かを隠しているのか…。
それでもあの子は笑った…それが眩しいと感じたときもあった…あの時の笑顔はもっと優しい笑顔だったのに、今はどこか歪んで…いや…壊れているような…?

──どうしてなにもいわないんだい?──

どうしてだろう…?あの質問は今思うと不思議だ…あの子も、私も…逆らう事は許されない立場にあった…何かを言ったところで聞いてなんてもらえないというのに、無駄だと分かっていてあの子はあえてそれを私に聞いてきた…。
私は何を答えたのだったっけ…何を言ってあの子をあんなに嬉しそうに笑わせたんだっけ…?

──………から…──

思い出せ……大切なことのような気がする…とても、とても大事な事だ…。
ここで思い出さなきゃ私はきっと後悔する…必死に記憶の糸を手繰り寄せた…あの時薄暗い地下牢のような場所を思い出す…自身の手と足に繋がれた冷たい鎖の感触を、音を思い出す…傷をおぼつかない手付きで手当てしてくれる冷たく小さな手を思い出す…。

──あなたたちを、まもりたいから……──

そうだ……そうだった…とても大切なことを、大切な記憶と共に忘れてしまっていた……どんな世界だろうと私はあの子を、そこにいた同じ境遇に立たされた子達を…守りたかった…だからどんな実験でも甘んじて受けていたし、何も言わなかった…他の子が受ける筈だった実験の身代わりにになる事も厭わなかった…。
"兵器"である自分がそんな事を思うなんて馬鹿げた話だと、あの場に研究者達が居れば笑っていただろう…それでも良かった…愚かな考えだと分かっていてもそれが本心だとあの頃の私は隠すつもりなんて無かった。
例え愚かでも、例え自分自身が壊れたとしても…あの場所で目の前で笑う唯一救いをくれたあの子を、大人の都合で造り出されては壊し壊されるだけの命達を…私は守りたかった…それは無力なあの頃の私が叶えることはできなかったけれど、そうだった…それこそが記憶を失っても尚心の奥底から思っていた私が"ヒーロー"になりたかった理由…こんなにも近くに答えはあった…私は何も迷う事なんて無かった、私は最初から・・・・答えを出していたじゃないか…。
私は──…。


突然鳴り響く音に意識が浮上する…いつの間にか寝ていたのか…。
いまだ眠気の覚めない頭で音の元凶を手探りで探して止めようとぼーっとしながら携帯の画面を見ると着信の文字が見えた…タップして目をこすりながら耳に携帯を当てようとすると…、

『おいコラクソ女ァ!!!テメェ人との約束破るなんざ良いご身分だなオイッ!!』
「ふあっ!!?」

突然の怒鳴り声で一気に頭が覚醒した。
変な声出してしまったけどそんな事より耳が痛い…すごく痛い…キーンッってした…少し携帯を耳から離しながら何故こんなにも彼が怒っているのか起きたばかりの頭で必死に考える…うん、さっぱり分からない。

「え、えーと…何か約束しましたっけ…?」
『あ゛…?』
「いや、すみません、わたくしめの頭では貴方様にした無礼を思い出せなくてですね…よければお教えくだされば…と…」
『殺す…ッ!!』
「わぁ、こわい…」

しかしどれだけ考えても思い出せないんだよ…何かあったっけ…?

『連絡よこせっつっただろがクソが!手間取らせやがって!!』
「あー……まだ警察にいるから連絡するべきじゃないと判断しました、申し訳ございません、かっちゃん」
『次その呼び方したらまじで殺すぞ』

試しに前々から呼んでみたいと思ってたかっちゃん呼びをしたら15歳のヒーローを目指してる子どもとは思えないドスの効いた声で返されました、ありがとうございます。
電話越しだというのに何故私は正座をしているのか…こわいからだね!怒ってる時威圧感すごいよね爆豪くん!!そこが面白いんだけど!!

「で、連絡してきたということは何か話したい事でもあるんですか?勝己くん」
『何勝手に名前呼んでやがんだゴラ…別に用はねぇよ死ね』
「何その暴君的思考…」

何様だ、かっちゃん様か…。
じゃあ何で連絡よこせと言ってきたりわざわざ電話してきたりしたんだ…特に用は無いと言いつつ電話を切るつもりはないらしい…じゃあ何か私が話題を出そう、話し相手も居なくて暇だったんだ。

「そういえば全寮制の話ってもうしたの?」
『…さっきオールマイト達が来た』
「じゃあ王様は許し出たんだ」
『呼び名くらい安定させろや…特に反対も無くな、雄英になら任せられるってよ』
「じゃあ今後は王様って呼ぶから……そっか、良いご両親だね」

王様呼びはまんざらでもないらしい、咎められないならこのまま王様って呼ぼう。
それにしても呼び名安定させろって王様には言われたくない言葉だ…たまに苗字で呼んでくれるけどほんとにたまにだしなぁ…まぁあれだけ信頼してるであろう切島くん相手にも呼んだりしてるとこ見ないし今更か。

『………なあ』
「?どうしたの?」
『……お前、オールマイトにとってデクのやつはなんなのか、知ってるか』
「──…」

思わず目を見開いてしまった…どう答えるべきなんだろう、緑谷くんとの事はきっと秘密だ…オールマイトが隠していることを私が軽々しく口にする事はできない、でもきっと王様はそんな嘘を見抜くだろう…。

「……知ってるよ」
『…そうか…』
「…聞かないんだね」
『聞いたら話すのかよ』
「あはは、話さないね…こればかりは、本人が話さないと意味無いだろうし」
『…わかってんだよ、そんな事は』

いつものような覇気が無い…辛いのだろうか、憧れていたオールマイトが幼馴染には話し、自分には話さない秘密があるという事が…それに気付いてしまったことが…。
電話越しだと相手の感情が読めないな…でも元気があまりないのは確かだ。

「王様、王様」
『んだよ』
「休みが明けたら先生に頼んで一騎打ちしよう」
『はあ…?』
「体育祭のリベンジ、ついでに家臣の私が王様のストレスの捌け口を勤めましょう」
『…家臣の分際で俺がついでとか良い度胸だ、あん時以上にボロボロにしてやるよ』
「従順すぎても王様にはつまらないでしょ?」
『確かにな』

微かに笑った声が聞こえてきて安心した。
笑っていてほしい…その笑顔を守る為に私は戦いたい、昔からそう思っていたから…。

──えがおはひとを"あんしん"させるんだって──

そうだね、だから私はあの時君の笑顔が好きだった…。

──だから、たすけるときにはわらってたすけてね──

うん、笑うよ…笑って必ず、今度こそ君をたすけるよ…あの時は笑えなかったけれど、今度こそ…笑って沢山の人をたすけられるヒーローになるよ…だから待っていて、また君があの時と同じ笑顔を見せてくれるように頑張るから…必ず、救けて守ってみせるから。



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