痛々しくも笑い続ける
「合理的虚偽ってなんですか…途中まで絶対本気だったのに…信じられますか、あれ私の憧れのヒーローなんですよ?」
「いやまぁ…分かるけどよぉ!あいつは昔からそんなだから気にしなさんな…?」
「お前は何で普通に俺の家にいるんだ」
入学初日に突然の個性把握テストをやった後からずっと日詠はこんな調子でぶつぶつと愚痴を垂れている…そもそもあれは生徒に、というか主に力の制御ができていない緑谷に甘い考えは捨てろと現実を突きつける為のもの…見込みが無ければ誰だろうと切り捨てる、それが俺のやり方だってこいつも長年俺と暮らしていて分かっている筈…いや、分かりすぎていたからこそ、か。
流石に帰りも一緒というわけにもいかないからか、先に帰っているというメールを寄越されて適当な返事を返してから仕事を終わらせて家に帰ると日詠がぐすぐすと泣きながら愚痴を何故か居るマイクに話していた。
日詠が泣いている事に一瞬ぎょっとしたが、マイクが何故ここに居る。
「日詠ちゃんが飯ご馳走してくれるって言ってたからな!」
「…金払えよ」
「容赦ねぇな!もっとノリ良くいこうぜ!!」
「うるせぇ」
並べられた料理を見ると確かに俺と日詠の二人で食うには多すぎる量の食事が用意されていて溜息を吐いた…これは仕方のないことだ、怒る気にもなれない。
生物は少なからず感情を持って生まれてくる…それが"個性"となって出てしまっている日詠は誰よりもシビアな感情のコントロールをしないといけない…高ぶった感情はどこかで発散していかないといずれ暴走してしまうという…それで昔大変な事になった。
日詠にとってそのコントロールと発散方法が"食事を作る"という行為でそのどちらもできるらしく、時々こうして並ぶ飯がやたら豪華になる…今日は品数だけじゃなく量も多く…こいつ学校の帰りにどんだけ買い物したんだ、体力馬鹿か。
それだけ怒っていたのか、それとも別の感情なのか…それは本人にしか分からないが。
「これ食いきるのに何日かかるかわからねぇな…」
「…ごめんなさい…」
「ま、可愛い娘の手料理食えるってのはいい事だと思うぜ!この幸せもんが!!」
「「娘じゃない(です)」」
「お、おう…」
とりあえずその後は食べる事にしたが、日詠とマイクは俺への愚痴を溢しながらの食事は居心地が悪くなるからやめろ。
大量に残ったものの飯を終えてマイクが帰ったあと、色々吐いてすっきりした様子の日詠に謝られた…つくづくこいつはいい子に育ったと思いながら頭を撫でると、ようやくいつもの笑顔に戻って安心した。
なんにせよ、今日の事で日詠がまた一歩成長をしたのはいい事だ。
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入学から二日目、賑わう食堂で席に座って焦凍くんとご飯を食べる…私は昨日のおかずを入れたお弁当を持参しているのでランチラッシュの料理は食べられない…勢いのまま作ってしまった大量のおかずが無くなるまで私と消太くんはほぼ同じ料理を食べ続けなくてはいけないのだけど、あれが無くなったらランチラッシュのご飯は食べたいなと思う…最終的に白米に落ち着くのは同意だ。
焦凍くんは冷たいお蕎麦を食べてるみたいだけど…麺類も美味しいよね。
「悪いな、弁当なのに誘っちまって」
「うん?いや、それは別に気にしてませんよ!私も誘おうと思ってたんで!」
「そうか」
黙々とお蕎麦を食べている焦凍くんを見ながら私もお弁当に箸を付けて食べる…やっぱり唐揚げは揚げたての方が美味しいな…。
そういえば誘われて一緒に食べているのに会話が無い…食べている最中に話すのは行儀が悪いって教わったからなんだけど何か話題を…でも焦凍くんと会話は久々だし何を話したらいいのか…!!
「昨日の…」
「はい?」
「…いや……それよりもずっと思ってたんだがなんで敬語なんだ?」
「…いきなりというか今更ですね…」
「出会った頃はそんな話し方じゃなかったからな」
昨日の…と聞こえたけど言い淀んだので深くは追求しない方がいいだろう。
思っていたよりも焦凍くんは私の事を覚えていたらしい、まさか話し方まで覚えていてくれているとは思わなかった…実はこの口調には深いわけがあるのだけど、それを細かく話していると時間が無くなりそうなのでどうにか短くまとめようと頭を使う。
「うーん…ええと…それはですね、なんと言ったら良いのか…」
「…言いたくないなら別に良い」
「あー…違うんです、ちょっと待ってくださいね…ううんと…そうですね、えー…深く話せば長いことになるので短くまとめるとですね、この口調は一つの枷とでも思っておいてください」
「枷…?」
「私の"個性"は扱いがシビアなので、自分を繋ぐ為の鎖であり信号です」
笑ってそう答えると焦凍くんは怪訝そうな顔をしたので、困ってしまった。
だけどまとめてしまうと先ほど自分が言った言葉が一番しっくりくる…感情というのは言葉が一番よく分かるものなのだから。
「お前の"個性"…確か"感情"だったか」
「はい、激情に駆られると暴走の危険がある"個性"です」
「…その"個性"がどういった性質なのかとかあまり聞かねぇ方が良いか?」
「聞かれても私自身ちゃんと答えられる自信がありませんから勘弁してください…」
私はその後時間ギリギリまで焦凍くんにできる限り簡潔に先ほどの質問に答えた。
私が口調を変え始めたのは実は中学に入ってからだった、ただその頃はまだ慣れていなくてすぐにボロが出るという程にその話し方はおぼつかなかった…だから焦凍くんはその事実を知らない、寧ろ私は焦凍くんの前では自分を曝け出してしまっていたのだから口調を変えようとしていた事等知る良しも無いだろう。
事の始まりはそう、幼少期だ…小さいからこそ感情の振れ幅は大きく、度々"個性"の暴走を繰り返していた程に私は問題児だった…小学校卒業までに何度暴走させて周りの人を困らせた事か、それでも救いは幼少期はそこまで力が強くなかった事だった。
"感情"を"どのような形に成すか"…それが私の"個性"の使い方、感情だけでは私の"個性"は具現化しない…そこに私自身がどういった形で感情を表現するか、それを頭で考える必要がある。
まだ感覚だけで過ごしていた幼少期とは違う、勉学に励んで想像力が豊かになっていくにつれて"感情"という"個性"は力を付けていくのだ。
そして厄介な事に暴走をするとそれが無意識下でできてしまうという事…本来は"感情"と"形"を頭で考えてから発動するという過程が、感情を露わにするだけでそれが形を成して出るというものになる…もっと分かりやすく言うと私は普段からたまに嬉しさ等が無意識の内に花となり出てしまうという事をしているが、あれの攻撃バージョンが襲ってくるという事だ、感情に飲み込まれ理性が吹っ飛んでいればそれは敵味方関係無く攻撃する。
しかし生きている以上感情は付き纏ってくるもので、いつまたそういった事が起きるのか分からないからこそ、緊急処置として口調を変えた。
意識して口調を変える事で自分自身を冷静にする為に、暴走しそうな時に危険信号を出す為に。
「冷静さが無くなれば、口調が戻りますからね」
感情を無くすとか、心を殺すとかができないから臆病にも私は自分で自分を縛り付けた。
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