編み出せ!必殺技
「昨日話した通り、まずは"仮免"の取得が当面の目標だ」
「はい!」
翌日、全員が教室に集まり今後の事を話す相澤の言葉に真剣に耳を傾けている。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ、当然取得の為の試験はとても厳しい…仮免といえどその合格率は例年5割を切る」
「仮免でそんなキツイのかよ…」
「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……」
相澤の合図と共に教室の扉が開き、ミッドナイト・エクトプラズム・セメントスの教師三人が入ってきた。
「必殺技を作ってもらう!!」
「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!!」
「必殺!コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」
「その身に染み付かせた技・型は他の追随を許さない、戦闘とはいかに自分の得意を押しつけるか!」
「技は己を象徴する!
今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい、コスチュームに着替え体育館
γへ集合だ」
体育館
γ…
通称────…
「
トレーニングの
台所ランド、略してTDL!!!」
(((TDLはマズそうだ!!)))
「ここは俺考案の施設、生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」
セメントスが自身の"個性"を使いながら名称の説明をすると納得したように上鳴が反応した。
すると飯田がすぐさま手を上げ、何故仮免許の取得に必殺技が必要なのかというもっともな質問をするが相澤は順を追って説明すると答え、そのまま話を続ける。
「ヒーローとは事件・事故・天災・人災…あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ、取得試験では当然その適性を見られることになる…情報力・判断力・機動力・戦闘力・他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など、多くの適性を毎年違う試験内容で試される」
「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります、備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」
「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有してる事になるんだよ」
「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ、例エバ…飯田クンノ"レシプロバースト"一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアル為必殺技ト呼ブニ値スル」
「アレ必殺技で良いのか…!!」
「なる程…自分の中に「これさえやれば有利・勝てる」って型をつくろうって話か」
「そ!先日大活躍したシンリンカムイの「ウルシ鎖牢」なんか模範的な必殺技よ、わかりやすいよね」
「中断されてしまった合宿での「"個性"伸ばし」は…この必殺技を作り上げる為のプロセスだった」
「!!」
「つまりこれから後期始業まで…残り十日余りの夏休みは"個性"を伸ばしつつ必殺技を編み出す──…圧縮訓練となる!」
セメントスとエクトプラズムが"個性"を使い、生徒の目の前には山のようになったコンクリートのステージとその場に一体ずつのエクトプラズムが並び立ち、生徒の顔には緊張と期待が浮かんだ。
「尚"個性"の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように…プルスウルトラの精神で乗り越えろ、準備はいいか?」
「「「──…ワクワクしてきたぁ!!」」」
───…
それぞれがエクトプラズムの分身と戦い、そして相談しアドバイスを貰いながら必殺技を編み出す為の訓練の時間が終わり、寮へと戻る時間になると日詠は共に寮へと戻ろうとする轟を呼び止めた。
「どうした?」
「大した用じゃないんだけどさ、少し時間くれないかなって…話したい事があって」
「?別にいいが…なら俺の部屋来るか?」
「うん」
日詠の顔を見て共同スペースで話せる内容ではない事を悟った轟は自室に来る事を提案し、日詠はそれを困ったように笑いながら頷き、お互いに男子寮へと足を運んだ。
途中峰田や上鳴達に茶化されたが日詠は普段と変わらない様子で「必殺技の相談に乗ってもらうだけだから」と返したおかげで二人も興味をなくしたように二人も自室へと戻った…窓から見える空は暗くなりつつあった…。
「…で、話ってなんだ?」
「えーと……」
「日詠…?」
轟の部屋に入るとお互い向き合うように座り、話の内容に入ろうとするも何やら日詠は悩んだ様子でいたが、意を決したように真っ直ぐと轟を見ると轟もそれに気付いてなんとなくだが姿勢を正し日詠を真っ直ぐと見つめながら黙った…傍から見たらおかしな光景ではあるがそれを口にできる者はこの部屋にはいない。
「…消太くんにも言ってない話なんだけど…」
「…ああ」
「誰かに、聞いてほしくて…それで…その、焦凍くんに聞いてもらおうかなってなって…」
「なんだ?」
「あの…神野区の事件で、私が失くしてた記憶思い出したでしょ…?」
「……ああ」
思うよりも重い話かと轟は身構えたが、日詠は心底穏やかな顔をしながら少しだけ目線を下げながらどう話していいのか考えるようにゆっくりと話していく姿を見てほんの少し力を抜いて静かに聞いていた。
「あの後、しばらくゆっくりできる時間ができて…私も色々じっくり考えられる時間があってね、改めて私がヒーローになりたい理由を考えたんだ…記憶を取り戻して、私はようやくスタートラインに立てたと思ったから」
「…見つかったのか?」
「うん…いや、なんて言ったらいいのかな…見つけたというか元々、私は理由があってそれを色々忙しかったり事件に巻き込まれたりしてたせいで忘れてたというか…」
「…以前の俺みたいな感じか…」
「焦凍くん…?」
「俺も、親父への憎しみで昔お母さんに言われた事を忘れてた…体育祭の時に思い出せたけどな」
「そっか…うん、きっと同じだね…大切なことだったけど忘れちゃってた」
「ああ」
「私達、似てるのかもね?だから私は焦凍くんに話そうと思ったのかも…」
「…そうかもな、俺も…日詠に色々話しちまってる」
お互いに少しだけ笑いあった。
轟は父親の願望を叶える為に生み出された子ども、日詠は
敵にとって利用される為に創られた子ども…理由や環境は違えども共感できる部分も多かったのだろうと、二人はお互いに心を許しあえる理由がようやく分かったような気がしてまた笑った。
「話ずれちゃったね…私がヒーローになりたい理由とヒーローになってやりたい事聞いてくれる?」
「…俺でよければ」
「ありがとう…私がヒーローになりたいのは皆の笑顔を守りたいからなの、皆を笑顔にして、そしてその笑顔を守れるヒーローになりたい」
「…お前らしいな」
「そうかな…?幼い頃の記憶で私が救われていたのは、一人の笑顔だったから…あの子のように心から救ってくれる人になりたいって…そうずっと思ってた」
「そうか…」
「それで、できるなら私は……
敵と呼ばれる人達の心も救いたいの」
「!それは…」
「難しいかもしれないけど…私が救われたように、他の人も救いたい…夢物語だと思われてもいい、これが私だもの…幼い頃から考えていた本当の気持ちだよ」
そう言って微笑む顔はどこかすっきりとしたもので、これが本当の日詠の笑顔なのだと轟は気付いて、そしてその言葉が本心である事を理解した…相澤程ではない、寧ろ纏まった時間を共に過ごせるようになったのは雄英に入学してからという短い時間ではあったが、お互いに信じあえる近しい存在であったからこそ理解する事に時間は必要なかった。
「日詠なら、そんなヒーローになれるだろうな」
「まだいっぱい努力しないといけないけどね、きっとなってみせるよ」
「ああ」
笑ってそう宣言する日詠に轟は微笑みながらその頬をそっと撫でた。
「…お互いに、頑張ろうな」
「…うん」
少しだけ驚いた顔をしたがすぐに同じように微笑みを返し、頬を撫でる轟の手にそっと手を添え、そのまま目を少し伏せながらまた口を開いた。
「…それと…もう一つだけ焦凍くんに話しておきたい事…というか、知っていてもらいたい事があるの」
「?」
「……今から話す事はきっといつか、必要に迫られる時が来るかもしれない…来なくても問題はないけれど、焦凍くんには知っていてほしいこと…でもできるなら時が来るまで秘密にしておいてほしい…誰かに話す時のタイミングはきっと焦凍くんに分かる筈だから」
「…わかった、話してくれ」
「ありがとう…あのね───…」
轟は日詠が話す事を真剣に聞き、そして受け止めた。
それが日詠の望んでいる事だと知っていたから、そして先ほどの話よりも今の話の方が日詠にとって本当に話したかった事なのだと内容を聞いて理解したからだ。
自身の思いととある事の
真実の話を話した後、もう遅いからといった理由で日詠は轟に送られつつ自室へと戻った。
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