揺れ動く乙女心
トレーニングが始まってから四日が経ち、必殺技を編み出そうとA組生徒達が必死に模索をしている中、日詠もまたエクトプラズムに相談しながら必殺技と呼べるような技を作り上げていた。
「なんだか…皆の"個性"の技を真似てるだけみたいな気がしますけど…これでも自分の必殺技と呼べるんでしょうか?」
「フム…ダガソレコソガ君二シカ出来ル事デアル事二間違イハ無イ、ソノ為ノ"型"作リダロウ?」
「…そうなんですけど…もう一つ、何か無いかなぁと…」
「良い案が浮かばないなら少し気分転換するのも一つの手よ、貴女は色々考えすぎな節もある事だし一度すっきりしたら?」
「…気分転換…」
ミッドナイトの提案に少し悩んだ後、そうする事に決めて少しだけ場所を離れて良いかという事を聞こうと口を開いた時だった──…。
「あ オイ上!!」
爆豪の編み出した技によって砕け落ちたコンクリートの破片が様子を見に来たオールマイトの頭上に落ちてきた事によってその場を見ていた人間はヒヤリとし動こうとしたが、緑谷が破片を蹴りで砕き事なきを得た。
が、その場にいた全員はオールマイトの無事や緑谷の新しいスタイルに目を向けていた為に一人の生徒の一瞬の異変に気付く事は無かった…。
「………」
その生徒はしばらく緑谷の方を見ていたが、ゆっくりと息を吐くと目を逸らした。
そこへ「そこまでだA組!!!」という大きな声と共に現れたのはブラドキングが担当しているB組だった。
相変わらずの物間の煽り言葉を軽く受け流しながら、試験は同校生徒の潰し合いを避けるためどの学校でも時期や場所を分けて受験させるのがセオリーだという事を説明された…もちろんA組とB組も例外ではなく別会場で申し込みをされているとのことを知らされ、物間はホッとした次にはまた煽っていく姿勢に戻った。
「"どの学校でも"…………そうだよなフツーにスルーしてたけど、他校と合格を奪い合うんだ」
「しかも僕らは通常の修得過程を前倒ししてる…」
「1年の時点で仮免を取るのは全国でも少数派だ、つまり君たちより訓練期間の長い者…未知の"個性"を持ち洗練してきた者が集うワケだ。試験内容は不明だが明確な逆境であることは間違いない…意識しすぎるのも良くないが忘れないようにな」
───…
その日のトレーニングも終わり、日が沈んだ頃共同スペースにて女子達は集まって息抜きにおしゃべりをしていた。
「フヘエエエ毎日大変だァ…!」
「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」
「あと一週間もないですわ」
「ヤオモモは必殺技どう?」
「うーん、やりたいことはあるのですがまだ体が追いつかないので少しでも個性を伸ばしておく必要がありますわ」
「梅雨ちゃんは?」
「私はよりカエルらしい技が完成しつつあるわ、きっと透ちゃんもびっくりよ」
「お茶子ちゃんは?」
名前を呼ばれて聞かれても反応を返さずストローを口に銜えながらぼーっとする麗日に蛙吹は軽くつつきながら名前を呼ぶと驚いたように声をあげ飲んでいたものを噴出した。
「お疲れのようね」
「いやいやいや!!疲れてなんかいられへんまだまだこっから!……のハズなんだけど、何だろうねぇ、最近ムダに心がザワつくんが多くてねえ」
「恋だ」
「ギョ」
「な、何!?故意!?知らん知らん!」
「緑谷か飯田!?一緒にいること多いよねえ!」
「チャウワ!チャウワ!!」
芦戸の言葉に明らかに動揺を見せる麗日は自分の個性を使って浮いて否定し続けているが、そこはやはり女子というべきか色恋沙汰には目が無いのか詮索する言葉が飛び交う…蛙吹と八百万は比較的に大人っぽい為「無理に詮索するのはよした方がいい」と言うが芦戸は諦めずに騒ぐ。
「じゃあ日詠ちゃんは!?轟とよく一緒にいるよねえ!!」
「ファッ!?」
日詠もまた他人の事とは思えない為自分の方に矛先が向かないように八百万と蛙吹に同意しそそくさと部屋へと戻ろうと思ったのだがその行動は遅かったらしく、案の定芦戸の矛先が向いた……ちなみに日詠が轟に好意を寄せているのは蛙吹しか知らない。
「あ、もしかしてもう付き合ってたり!?」
「違うから!!焦凍くんとはそういうんじゃないから!!」
「そう言って必死に否定してるのが怪しいんだよォー!!正直に白状しちゃいな!!」
「いや、もしかしたら気があるのは意外と爆豪だったり…?」
「何故そこで王様が出てくる!?」
「A組のツートップ狙いとか日詠ちゃんやるぅ〜!!」
「聞いて!!?」
麗日に負けないくらい真っ赤になりながら蛙吹に抱きついて質問から逃れようとしている日詠を庇うように蛙吹は芦戸を落ち着かせている。
日詠はというと轟の名が出る事は覚悟していたがまさかの爆豪の名前も出て色々な意味で動揺を隠せないでいた…。
助け舟を出すように明日も早いのだからと、早く休むことを提案する八百万に芦戸は抗議するも標的にされていた日詠と麗日はほっと胸を撫で下ろし部屋へと戻った。
部屋へ戻ってベッドへと腰を下ろすと以前爆豪に貰ったピンを撫でた…あの時から無意識に毎日のように付けていた事に今更気付いた日詠は自分自身に呆れるように頭を抱えた。
轟に好意を抱いているのは間違いない、冷静になって考えてみれば初めて出会った時から轟の事を気になっていたという事を誰にも伝えてはいないもののここ最近気付いたのだから間違いは無いのだろう。
「…でも…そもそも好きって感情自体、分からないんだよなぁ…」
轟といる時は幸せに感じる、爆豪といる時は楽しいと感じる…そのどちらも恋愛感情とも呼べるだろうし、またそうとも言えないものではないのかと、再び日詠は自身の感情が分からなくなってしまった…。
轟の事を何故好きになったのか、もしかしたらあの火傷の痕や独りになろうとする態度に同情をかけていただけで一目惚れとは違うのではないか?…そう考えると胸が苦しく感じて静かに息を吐くとピンをサイドテーブルへと置いてベッドへと倒れこんだ。
「………まぁ、今はこんな事考えてる暇なんて無いんだけど………」
轟も爆豪も必死にヒーローを目指している…それを知っているからこそ自分も恋愛なんてものにうつつをぬかしている場合ではないだろう…日詠はよく分からないこの感情はしまっておこうと決めて瞳を閉じて眠りについた。
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