取るぜ!仮免!!
訓練の日々は流れ──……ヒーロー仮免許取得試験当日!!
「降りろ到着だ、試験会場国立多古場競技場」
「緊張してきたァ」
「多古場でやるんだ」
「試験て何やるんだろう、ハー仮免取れっかなァ」
「峰田、取れるかじゃない、取ってこい」
「おっもっモチロンだぜ!!」
「この試験に合格し仮免許を取得出来ればお前ら
志望者は晴れてヒヨッ子…セミプロへと孵化できる、頑張ってこい」
相澤の言葉で盛り上がるA組から一歩離れた場所で日詠は遠くを見るように見ていた…その隣には轟がいる為一人ではないのだが。
「…円陣をやるみてぇだが混ざらないのか?」
「数日前にとんでもないカミングアウトした私が入って良い場所じゃないよ」
「……お前、わざとあの場所で言っただろ」
「あはは…まぁ、いつかは話さないとって思ってたから丁度良いかなって」
困ったように笑って見せる日詠に少し眉間に皺を寄せるも轟は何も言わなかった。
数日前…日詠が皆の前で暴露した事は以前と比べ他の連中と距離を取る事になってはしまったものの別にはぶられたりするわけでもなく、皆日詠が悪いとは思っていないもののどう接すればいいのか分からない…といった態度が抜けないでいる…それが普通の反応だろう、寧ろ全て受け入れ今まで通り接する事ができる人間など極僅かしか存在しない……日詠自身はそう考えていた。
実際はそれに加えカミングアウトをしてからの日詠はどこか冷たい雰囲気を纏っているから近寄りがたいといった理由もあるのだが……。
「そんな事より、あの時話した約束……守ってね」
「…わかってる」
「それならいいんだ…仮免、絶対に取ろうね」
「"Plus…「Ultra!!」
轟が「ああ」と返事をするのと同時に円陣を組み声を発する切島と共にもうひとり、聞き覚えの無い声が響いた。
「!」
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよイナサ」
「ああ!しまった!!どうも大変失礼致しましたァ!!!」
勢いをつけて頭をガァンと地面に当てるほどのお辞儀をしてそう謝るイナサと呼ばれた男にA組の殆どは驚きと共に困惑したような空気になった。
しかしその空気も一変しこの空気にしてしまった本人である彼とその後ろで立つ人達の制服を見て周りがざわつく…それもその筈、彼らが纏うその制服は数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校──…
「東の雄英、西の士傑」
──
士傑高校
「一度言ってみたかったっス!!プルスウルトラ!!自分雄英高校大好きっス!!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス!よろしくお願いします!!」
「あ 血」
「行くぞ」
頭を下げた時のようにまた勢いよく顔を上げるとその頭には血が滲んでいたが本人は気にしていないようで、そのままその場を去って行こうとしたところを日詠は少し迷った末に駆け寄って男に声をかけた。
「あの…!」
「!あんたは…」
「良ければこれ使ってください…あまり時間無さそうだから治癒はできないんですけどせめて止血だけでも……」
「………」
「ええっと…迷惑でしたか…?」
「…天使…!!」
「へ…?」
日詠がハンカチを手渡そうとすると話しかけられた男はしばらく固まったかと思うとガシィとハンカチを手に持つ日詠の手ごと両手で掴んでじっとほのかに顔を赤らめながら見つめて来たおかげで日詠はわけも分からず内心慌てていた…余談だが日詠が慌てているのは今こうしている間にも相手の頭から血が滴り落ちているからである。
「一目見た時から好きでしたァ!!!」
「え」
突然の大声での告白に場の空気がまたもや固まったが、本人は全く気にしていない様子だった。
「覚えてないのも当然っス!けど俺は忘れてませんっ!!」
「い、一旦落ち着いて…!血が!!血がすごい出てる!!?」
「敵に攫われたってニュース見た時は心配でした!!無事で何よりっス!!!」
「君が今無事じゃないよね!!??」
まさにその場は阿鼻叫喚…血を噴出しながら熱い告白をしてくる男に対し心配しうろたえている日詠の会話は成り立っているようで成り立っていない、会話のドッジボールとはこのことかとその場にいた殆どがそう思っていただろう。
「
夜嵐イナサ」
「先生知ってる人ですか?」
「すごい前のめりだな、よく聞きゃ言ってることは普通に気の良い感じだ…ありゃあ…強いぞ」
いやなのと同じ会場になったな…とこぼす相澤にA組全員が耳を傾けた。
「夜嵐、昨年度…つまりおまえらの年の推薦入試トップの成績で合格したにも拘わらず、なぜか入学を辞退した男だ」
「雄英大好きとか言ってたわりに入学は蹴るってよくわかんねえな」
「ねー…変なの」
「変だが
本物だ、マークしとけ」
そう言い終わるのとほぼ同時に日詠は疲れた様子で皆の側まで戻ってくると轟は労わるように声をかけ始めた…が、その心境は先ほどの爽快な程の告白を聞いて穏やかでは無い。
それには気付いていない日詠は苦笑しながら大丈夫だと返した。
「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」
「!」
「テレビや体育祭で姿は見てたけどこうして直で会うのは久し振りだな!!」
「あの人は…!」
笑顔で相澤に近付くバンダナを付けた女性に生徒の視線が集まる。
「結婚しようぜ」
「しない」
「わぁ!!」
相澤に対し突然のプロポーズをしてきた女性──…
スマイルヒーロー「
Ms.ジョーク」…"個性"は「爆笑」、近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせる事ができる。
彼女の
敵退治は狂気に満ちている、と緑谷がお馴染みの解説をしている間轟は日詠をちらと見てから少し気まずそうに再び声をかけた。
「…お前はあの人の事知ってるのか?あの会話とか…」
「あー…うん…直接話した事は少ないけど知ってるよ、初めて会った時にお母さんになってあげようか?みたいな事を話されたこととかあるからよく覚えてる…消太くんが嫌ならいいですって答えたら笑われたけど」
「……それは…強烈な記憶だな…」
「悪い人ではないけどね…苦手そうなのに消太くんの周りは賑やかな人ばかり集まるから不思議だよ」
そう言い、Ms.ジョークと相澤が話しているのを見ながら以前のように笑っている日詠に轟は少し安心したように小さく笑った。
そうこうとしている内にMs.ジョークが受け持つクラス、
傑物高校2年2組の面々がA組に近寄って来て1人の男子生徒が1人1人丁重に握手をしていく。
「不屈の心こそこれからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」
バチコンッとウインクをしながら話すまぶしく爽やかなイケメンに一同が困惑の表情を浮かべる。
「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くん」
「あ?」
「君は特別に強い心を持っている、今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
「フかしてんじゃねえ、台詞と面が合ってねえんだよ」
爆豪にも握手を求めようと伸ばした手は爆豪によって払われた。
切島はそれに対し代わりに謝るがそれも爽やかに許す姿はどこか違和感を感じ、日詠も爆豪同様とは言わないものの、できるだけ視界に入り話かけられないように轟の後ろに隠れるように立ったのと同じくらいに彼と同校の女子が轟に近寄った。
「ねぇ轟くんサインちょうだい体育祭かっこよかったんだあ」
「やめなよミーハーだなァ」
「はあ…」
「………」
「?どうした?」
「別に…」
「オイラのサインもあげますよ」
轟の服の裾を掴みながらも顔を逸らしどこか怒った様子の日詠に轟は首をかしげたが、相澤の声かけによって他の騒いでいた面々も再び移動の為に足を会場へと運んだ…その際、生徒が零した会話を聞いたMs.ジョークが相澤に声をかけた事は誰も気付いていなかった…。
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