勝ち抜け!演習試験




所変わり、仮免試験会場内──…
その中はヒーロー資格試験を受ける為に集まった生徒達でごった返していた。

「えー…ではアレ仮免のヤツを、やります…あー…僕ヒーロー公安委員会の目良めらです、好きな睡眠はノンレム睡眠よろしく…仕事が忙しくてろくに寝れない…!人手が足りてない…!眠たい!そんな信条の下ご説明させていただきます」
(((疲れ一切隠さないな大丈夫かこの人)))

目良によるざっくりとした一次試験の内容は受験者約1540人による勝ち抜けの演習を行うというもの…。
ヒーロー飽和社会と言われる現代、ステイン逮捕以降"ヒーローとは見返りを求めてはならない"、"自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない"などの考えが広まり、今のヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくないという。
対価にしろ義勇にしろ多くのヒーローが救助・ヴィラン退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は迅速になっている…故に、仮免を取得すればその激流の中に身を投じることになり、そのスピードについて行けないものはハッキリ言って厳しいものであると説明されたが、驚くべきはその後の内容──…。

「よって試されるはスピード!条件達成者先着・・100名を通過とします」
「!!?」

先着100名…それは約1540も居る受験者の5割どころの数字ではない…その事に会場がザワつくも目良は流し、条件のターゲットとボールを手に説明に入った。
ルールはあくまでも簡単、配られるターゲットを3つ常に晒されている体の好きな場所に取り付け、6つのボールを所持する。
ターゲットはボールが当たった場所のみ発光し、3つ発光した時点で脱落となり3つ目のターゲットにボールを当てた者が"倒した"こととなり二人倒した者からの勝ち抜きとなる…言わばボール当てゲームのような内容だった。
雄英の入学試験と似通ったものはあるが対人と対ロボではまるで話は違ってくる…入試以上に苛烈なルールであると、生徒達の緊張感が漂ってくる。

「えー…じゃ展開後・・・ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートとします」
「展開?」
「各々苦手な地形好きな地形あると思います、自分を活かして頑張ってください」

会場の部屋…かと思われた場所は開かれ、受験者達の前には様々な地形を模したフィールドが広がっていた。

(((ムダに大掛かりだな!!)))
「一応地形公開をアレするっていう配慮です…まァムダです…こんなもののせいで睡眠が…」

不満を洩らしている目良を他所に受験者全員にターゲットとボールが配布され、自分達の得意とする地形へと足を運んでいく中、適当な所にターゲットを付け一つ溜息を吐いて試験とは別の思考を巡らせていた日詠は少し離れた所で緑谷の言葉を聞いていた。

「先着で合格なら…同校で潰し合いは無い…むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋…!皆!あまり離れず一かたまりで動こう!」
「フザけろ遠足じゃねえんだよ」
「バッカ待て待て!!」
「俺も大所帯じゃ却って力が発揮出来ねえ」
「轟くん!!」
「緑谷時間ねえよ!行こう!!」

一通りの流れを見て少し考えた後、日詠もまた緑谷達とは別の方へと走って行く。

(きっと、今はこれが私にできる最善・・だから…皆とはなるべく距離を取るべきだ……じゃないと…)

そこまで考えて日詠は唇を噛み締めた…。
その瞳は不安で揺れたがそれは一瞬で元に戻り、今は目の前の試験にまっすぐと向けられていた。






雄英の生徒はこの仮免について知らないこと…否、知らされていない事があった。

『4』

例年形式は変われどこの仮免試験には一つの習慣に近いものが存在する。

『3』

全国の高校が競い合う中で唯一「"個性"不明というアドバンテージ」を失っている高校…。

『2』

体育祭というイベントで"個性"はおろか弱点・スタイルまで割れたトップ校。

『1』

毎回まず初めに行われる──…

『START!!』

"雄英潰し"があるという事を……。



一斉に他校の生徒が雄英の生徒に襲い掛かった…そこに年齢等は関係は無く、皆全力で出ている杭を打とうとしている。

「……消太くんが何か隠してるだろうなとは思ったんだ」

それが一人で居れば格好の餌だろう…、皆とは別行動組であった日詠は自分に襲い来る受験者達を見据えて呟いた…ついでにこういう事かと再び溜息を吐いた。
紛いなりにも体育祭で3位…あの頃の日詠は家族を見つけたい一心で散々目立つ行動をしていたのだから十分に割れているのは安易に想像がついた。

「でもやる事は結局変わらない」

日詠は昔から身近に居たヒーローに教えられている…理不尽ピンチを覆していくのがヒーローという職業だということ、プロになれば"個性"を晒すなんて前提条件であることを理解している…。
だから日詠は笑った。
本来ならこんな状況で笑うのはおかしいのだろう…だがそれを理解しながらも日詠は笑った。

本来であるならヒーローに狙われるべき存在だと理解している…いつしか"あったかもしれない未来"に、"ありえたかもしれない未来"…タマゴとはいえどヒーローに囲まれて狙われる今の状況はそんな想像に当てはまる。
日詠の目には狙ってくる者の動きが遅く見えている…それはきっと、過去に行われた実験の産物であり忌まわしきものなのだろうと理解するのは遅くはなかった……が、もうそんな事を気にして動きが鈍るほど日詠の心は弱くは無い。
寧ろ過去も現在も受け入れ自分の居場所と目的が明確に定まり、ケジメもつけた今の日詠は体育祭を行った時期よりも格段に威力も精細さも上がっている。
時間が経ちほぼ乱戦となっても尚、大勢からの連携された攻撃をかわしながら相手の"個性"がどういったものなのか…動く前に理解し対策をする為観察している最中、地面が揺れたことで一部の者の意識が逸れる。

「地震…!?"個性"か?」
「目の前に集中しろォ!!」
「混戦で何がどうなってんのか…………!」
「連携しろって!距離とって"個性"見ろ!」

その時その場に不自然に風が舞い上がり、次々にボールが風に攫われていくのに気付き日詠は取り急ぎもしもの時の為に避けながら地面に描いていた"紋"を起動させた。

「!?」
「あっ ちょボールが風で────…」
「…っ"九曜くよう計都けいと"…!!」

日詠の周りに黒く半透明なドーム状の障壁が現れる…その中で風の発生源を見上げた。

「…って、ええ!?」
「ボールだけ・・が巻き上げられてく!!」

幸い日詠の所持していたボールは巻き上げられてはいない…が、その場にいた殆どの受験者の所持したボールだけが一人の男のへと風と共に集まる。

「…あれは…」
「俺 ヒーローって!!熱血だと思うんです!!!皆さんの戦い!!熱いっス!!俺 熱いの好きっス!!」
「士傑高校!!一人かよ!?」
「何言ってるんだ!?わかるけど…」
「待て、ボール取られたら俺たち何も…」
「この熱い戦い!!俺も混ぜて下さい!!」
「っ!まずい…!!"九曜くよう夏日星なつひぼし"!!!」

その男…夜嵐の言動から危険を察知し、障壁の中を更に地面のコンクリートが障壁に沿うような形で壁となって固まった…。
これで日詠の視界から相手になる者達は見えなくなってしまったが、そんな事は恐らく関係ないとどこか確信めいたものがあった…その予想はすぐに当たっていた事が分かる。

「よろしく お願いしまっス!!!!」

そう叫ぶと一斉にその場に居た者に降りかかるボールの雨…日詠の作り出した壁の中からは様子が分からないだろうがその衝撃は内側にも伝わるほどだった…否、伝わるなんてものではなくその衝撃に一度目に作られた障壁はすぐに打ち壊され、二枚目の壁の中からその壁が壊れないように更に"個性"を使って補強していく破目になり日詠の頬に汗が伝う…。
壁内部に伝わる音が止んだのを確認し、"個性"の使用を止めるとすぐに壁はボロボロと崩れ落ちたのを見て周りを見ると煙が舞い上がりよくは見えないが倒れている人が目に写ったのと同時にアナウンスが入った。

『脱落者120名!!一人で120人脱落させて通過した!!』
「やったあ!!!勝てたァ!!」
「…120人…」

通過した夜嵐は視界の外に居る日詠に気付く事無く移動したが、あの目良さえ驚かせ声をあげた程の一度の攻撃による脱落人数に長い溜息を吐き出すとふらりと動いた…その表情は明らかな不満が映っている…。
だがその場を生き残ったのは日詠だけではなく…同じように間一髪で難を凌いだ受験者達が再び動き出し、先程の音で近付く者も少なからず居た…しかしここに立っている者は全員体育祭で見せた日詠の性格を忘れているだろう──……、

「…この場に居る全員ぶっ潰す…!!」

日詠が負けず嫌いなことと怒りの沸点が割と低いという事を……。




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