僕らは『救う側』なのだから
『現在79名!ガンガン進んでいい調子ですよ────』
日詠が御手洗いから戻って大分経ち、試験は後半戦となっていた。
戻って来てから日詠は椅子に座って仮眠を取っているので他の雄英生徒が戻ってきても何の反応も示さないのだが…。
『さて立て続けに3名通過、現在82名となり残席はあと18名ー!』
緑谷・麗日・瀬呂に続いて爆豪・切島・上鳴も通過し、着々と雄英生も控室に集まって賑わっていく…現時点で通過したA組は12人となり、あと9人となった…しかし枠は後18名となり、かなり厳しいものに感じた。
今この場に居ない飯田は数名を一つの場所に集め八百万に引率を任せ、フィールド内を駆け回り他の者を探しているらしい…その八百万は既に控室で待機している為、飯田の考え通り無事に通過へと導かれた事になるがそれでもまだ人数は足りない…。
『ハイ、え── ここで一気に8名通過来ました──!残席は10名です』
「A組は…」
「あと9人…これ…全員はもうムリかなぁ…」
終盤戦……残りの枠もあと僅かとなり、雄英生徒の顔に影が落ち始める…。
そこで顔を上げた日詠に気付いた蛙吹が声をかけた。
「あら、おはよう日詠ちゃん」
「……おはよう梅雨ちゃん…?」
「まだ寝惚けてるのかしら?でももう起きていた方がいいわ、そろそろ一次試験が終るから」
「うん…皆は?」
「…まだ9人来てないわ…あと10人通過で終わるのだけど…」
「そう…」
ぼうっとした表情で雄英生達の表情を見てから再び目を閉じ、そしてまた目を開けて前かがみだった姿勢を伸ばして椅子の背もたれに寄りかかって息を吐いた。
「……梅雨ちゃん」
「どうしたの?日詠ちゃん」
「…私の事こわくない?」
「こわくないわ、大丈夫よ…日詠ちゃんは私の大切な友達だもの」
「……そっかぁ……」
手を握ってくれる蛙吹に日詠の顔は嬉しそうに綻んで自分からも少しだけ蛙吹の手を握り、小さく謝った…蛙吹はその謝罪の意味を理解できず聞こうとするがその手はすぐに離れていき何も言えないまま、立ち上がる日詠をただ見つめるしかなかった…。
そんな中、最終盤に一丸となった雄英生徒が続々と通過していくレスポンスが流れていく…そして───…
『0名!100人!!今埋まり!!終了!です!ッハ───!!これより残念ながら脱落してしまった皆さんの撤収に移ります』
ついに残席は0名となり、一次試験は終了を迎えた。
「おォオオ〜〜〜〜〜…っしゃああああ!!!」
「スゲェ!!こんなんスゲェよ!」
「雄英全員一次通っちゃったあ!!!」
先程の雰囲気とは打って変わって全員が通過できたことを喜ぶ皆の姿をずっと少し離れた場所で小さく笑って見守る日詠をみて、轟は慣れた様子でその隣へと立つ。
「…いつも思うけど毎回私の側に来なくて良いんだよ?」
「分かってる、けどお前の隣が居心地良いんだ」
「あ、そう…」
「…通過してからずっと寝てたが大丈夫か?」
「…大丈夫だよ」
轟が通過し、控室に来た時には既に日詠は眠りこけていた…だから日詠は知らない、夜嵐が轟へ向ける表情は冷たいものである事を…そして轟も知らないのだ、日詠が抱える新たな不安の事を…。
『えー100人の皆さんこれご覧下さい』
「フィールドだ」
「なんだろね………」
モニターに映されたのは先程まで演習を行っていたフィールド…何があるのかとその場に居た一同が思ったのは一瞬で、そのフィールド内の建物や山が爆破され、崩れていく。
(((───何故!!)))
その様子に驚愕していると続いて放送が入った。
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「救助…!」
バイスタンダーとは、現場に居合わせた人…もしくは一般市民を指す意味を持つ言葉であるが詳しい説明を聞かない限り一同はよく分からないという表情は消えないだろう。
『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として───…どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』
「む…人がいる」
「え…あァ!?」
「あァア!?老人に子ども!?」
「危ねえ何やってんだ!?」
『彼らはあらゆる訓練において今引っ張りダコの
要救助者のプロ!!』
「要救助者のプロ!?」
『「
HELP・
US・
COMPANY」略して「
HUC」の皆さんです、傷病者に扮した「
HUC」がフィールド全域にスタンバイ中…皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます』
二次試験は100人の救出活動をポイントで採点、演習終了時に基準値を越えていれば合格…という内容だった。
しかしそれ以外…採点基準は一切明かされていない。
開始は10分後、それまでトイレ休憩や軽い飲食を摂る等各々が好きに過ごす時間となった。
「──…」
「日詠…?」
「っな、に…?焦凍くん」
「…大丈夫か…?」
恐らくあのフィールドは神野区での一件を模したもの…
敵連合に攫われた日詠にとっては他人事ではない、寧ろその場に居た人間として何か思う事でもあるのかと轟は心配し再び声をかけた…現に声をかけた時、日詠の声は震えて、瞳を揺らしたのだ…しかし、
「…大丈夫だよ…」
それはほんの一瞬で、不安げな表情は笑顔の下に隠されてしまった。
その事に轟の眉間に皺が寄る…全て隠されて、壁を作る…日詠が皆の前で己が
敵であると暴露したその時から自分とも距離を置きたがっていたことも、何故クラスの人間と距離を置きたがっているのかという理由も轟は知っている…全てその態度から察してそして本人から話されたのだ、だからこそしがみつくようにその隣に居続けたのだから。
辛いのならせめて寄りかかれる場所になろうと…かつて日詠がしてくれたように話す時が来てくれるまではただ寄り添う事を決めたのだ…しかしそれは轟にはもどかしさしか感じなかった…。
「日詠…」
「大丈夫だから…」
何を言ってもそれ以上は答えないだろう…これ以上は聞くなと言うように、自分に言い聞かせるようにそう呟く日詠にそれ以上は何も言えなくなった轟に対し日詠は再び笑って飲み物取ってくると言ってその場を離れてしまった。
(何で……)
離れていく際、腕を掴んでその足を止めようとしたが轟にはそれができなかった…止めたところで何ができるわけでもない…上げた手は悔しさから力強く握り締められた。
そんなこと等つゆとも知らずに日詠の心は一つの思いでいっぱいだった…それを明かすことは恐らく、彼女の中で"何か"が終るまでは一切無いのだが…。
じれったさで少し唇を噛み締めるものの今はそっとしておくべきだと、頭を切り替えるように轟は一つ息を吐いて離れた日詠から更に距離を取るように上鳴と峰田に突っかかられている緑谷の方へ向かった。
それと同じくらいに士傑の生徒達が雄英の生徒達に近付き、爆豪へと級友がした無礼を予想しそれを謝った…雄英とは良い関係を築き上げていきたいという思いも伝えると一部が別々の反応をしている中、轟は自分が試験を通過し控室に入って椅子に座った時に一瞬だけ夜嵐が見せた表情が引っかかりそしてその理由を聞きに声をかけた。
「おい坊主の奴…俺なんかしたか?」
「………ほホゥ──…いやァ申し訳ないっスけど…エンデヴァーの息子さん」
「!?」
「俺はあんた
らが嫌いだ…あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいスけど、あんたの目はエンデヴァーと同じっス」
それだけ言うと夜嵐は移動した士傑の生徒達の居る方へと言ってしまったが、轟の眉間には皺が寄った。
(親父の…目?)
しかしそれをじっくりと考える間も無く、その会話の少しした後に非常ベルのような音が部屋に響きアナウンスが入る。
『
敵による
大規模破壊が発生!』
「演習の
想定内容ね」
「え!?じゃあ…」
『規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』
「始まりね」
『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う、一人でも多くの命を救い出すこと!!!』
再び一次の時と同じように今度は控室が展開されていき、開ききると同時に『START!』と響き、その場に居た全員が一斉に走り出した。
しかし現場に着くと雄英はこのあたりはやはり他と劣ってしまうことが目立った…こればかりは訓練の数がものを言う…救出・救助だけではなく消防や警察が到着するまでの間その代わりを務める権限を行使しスムーズに橋渡しを行えるよう最善を尽くす…ヒーローは人々を
救ける為あらゆることをこなさなければいけないのだが、雄英の生徒は一年でまだ訓練の数は他と比べると断然少なく、どうしても至らない部分が目に付いてくる。
それでも自分にできる事を見つけて動くしかないと、それぞれがつたない知識をフル活用し動いていく…。
「重症者から私に教えてください!軽い治癒ならできます!」
「!わかった!頼む!!」
「こっちに意識の無い人が!頭を強く打ったみたいで頭部からの出血が多く、傷も深い!」
「なるべく動かさないで!すぐそっちに向かいます!!」
殆どが少数編成で動く中、日詠は一人救護所近くで治癒の力を使い怪我人の手当てをしていく事に力を入れることにした。
止血・痛みを止める程度であれば大人数相手に治癒の力を行使しても視力が落ちるのを抑えられる…ヒーローになれば使用頻度は高くなりそうなその力を中心にこれまで訓練してきた事は間違いではなかったと少し安堵しながら治癒を進めていく。
次から次へと運ばれてくる怪我人に若干疲労し汗が垂れてくるが、それを袖で拭って治癒を終らせた人間に笑って声をかけて状態を確認し大丈夫と判断したらまた次の怪我人の状況を見る…それを繰り返していると救護所に緑谷が子どもを連れてきて居るのを横目に日詠は確認した。
緑谷が連れてきた子どもがそこまで重症ではないことを確認すると再び他の人に応急処置を施そうと動いたその時──…、救護所近くやその他の場所で大きな爆発音が鳴り響いた。
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