諦めては人を救えない




市井しせいの人々を守る為ヒーローには複合的な動きが求められる。
すなわち救護、そして───…

「皆さん!演習のシナリオ──…」
「まじか…」
「そういう…」

「対敵…全てを並行処理…できるかな」

神野区の敵連合ヴィラン連合掃討作戦においてエンデヴァーやベストジーニストと並び指名を受けた現在No.10ヒーロー…『ギャングオルカ』───…その実力は間違いなくこの場に居る誰よりも強いと想定される。

ヴィランが姿を現し追撃を開始!現場の候補生はヴィランを制圧しつつ救助を続行して下さい』

この仮想シナリオにおいてヴィランは間違いなくギャングオルカ及びそのサイドキック達である事が分かる…それを相手にしながらの救助活動となるとプロでも高難度の案件…冷静な判断をし力を合わせなければならない。
多くのヴィランが救護所に向かって来る…それを止める為に真堂が動き、日詠もまた素早く重症者を動かせる程度に治癒を施し傷に負担をかけさせないように動かすよう声をかけ皆が避難するのに力を貸していた。
だが殿を務めようとした真堂はギャングオルカの超音波で崩れ落ちた……が、すぐにその場に氷が押し寄せてきた。
氷はギャングオルカの超音波によって防がれ、本人は未だ身動きを封じられてはいないが、真堂もまた麻痺はしているが大事には至らなかった。
非難や対敵の応援の為に散らばって救助活動をしていた者が救助を続行する者と手分けし、その場に駆けつけた…もちろんその場には夜嵐も駆けつけたのだが──…。

動ける怪我人に手を貸しながらその場から避難をさせつつ日詠は敵と対峙する二人を少し見て眉間に皺を寄せるも、すぐに目を離し怪我人の様子を見ながらできるだけ急いで人々の安全を確保するように動いた。



「あんたと同着とは…!!」
「……おまえは…救護所の避難を手伝ったらどうだ"個性"的にも適任だろ、こっちは俺がやる」
「ムムム…」
「来る」

轟が炎を使ったことで夜嵐のおこす風が熱によって浮き、炎は風で飛ばされた事で目標からずれてどちらの攻撃も当たらなかった。

「!?」
「何で炎だ!!熱で風が浮くんだよ!!」
「さっき氷結を防がれたからだ、お前が合わせてきたんじゃねえのか?俺の炎だって風で飛ばされた」
「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「は?誰がそんな事するかよ」
「するね!だってあんたはあの────エンデヴァーの息子だ!」

夜嵐の言葉に轟は苛立ち言葉を返そうとするが、喧嘩を始めたことで隙を付いた敵によって右肩をセメントで固められてしまった…それでも尚続く喧嘩にその場に居た二人の心情など知る由もないギャングオルカ達や審査員は呆れている…そもそもこれは試験であるのだからそんな事は知った事ではない。
そこで状況を見る大人は全員仮免を取得させて良い人物かを測る為にいる…実際の会敵であれば喧嘩をし連携を乱すその間に攻撃を仕掛けてくるか逃げるかの行動を取られるだろう…どちらにせよ今言い争い、互いが互いに足を引っ張り合い連携を取れていない今の状況は完全な愚行と言える…。
再び攻撃を繰り出そうとするがお互いに気を荒立て、目の前が曇った状況でそんな攻撃が通るわけもなく…また熱で風が浮き炎は別方向へと飛ぶ。
そのせいで先程ギャングオルカにやられていた真堂の方へと向かっていきあと少しのところで真堂が炎に巻き込まれるところで緑谷が飛び出し、間一髪のところで動けない真堂を救出した。







『邪魔だ…俺の邪魔をするな』

ただただ冷たい怒りしか伝わってこなかったあのヒーローの目が嫌いになった──…

『やったあ勝ったぞ!!でも次はわかんないな!あんたすごいな!あんたってエンデヴァーの子どもかなんか!?凄いな!』

それでも…全く同じ目をしてても、友だちになれば嫌な感じも気にならなくなると思ったんだ──…

『黙れ…試験なんだから合格すればそれでいい…別にお前と勝負してるつもりもねえ』

だけどその目は俺を見ない…

『邪魔だ』

見ない──…







「何をしてんだよ!!!」

緑谷の一括に轟と夜嵐は動きを止め、冷静さを取り戻す。
だがそれは遅すぎた…サイドキック達とギャングオルカの連携によってまずは夜嵐が落とされ、風のコントロールができずに浮いていた身体が落ちていく夜嵐に気を取られている隙に轟も捕まり間近で超音波を食らい動けなくなってしまった…。
ギャングオルカが二人を相手しているうちにサイドキック達は救護所の避難の方へ向かい、今も尚危険区域から離れようとする者たちを襲おうとしていた…それに気付いた一番距離が近い緑谷が戦線を作り、止めようと動こうとした瞬間抱えられていた真堂が動き地面へ片手を当て"個性"を発動させ地面を割って相手の動きを止めた。

「真堂さん!オルカの超音波で動けないんじゃ!」
「まァちょっとだいぶ末端しびれてるよね…音波も振動ってなわけで、"個性"柄揺れには多少耐性あんだよ…そんな感じで騙し撃ち狙ってたんだよね!それをあの1年二人がよォ──!」
(キャラが)

最初挨拶を交わした時とだいぶキャラが変わっている事に緑谷は心の中でツッコミを入れつつ、真堂の指示によってこちらに向かって来る敵の行動を不能に…そして残りの傷病者を避難させる為手分けして動く。

ギャングオルカは完全に麻痺し動けなくなった轟から手を離し麻痺の利きが十分ではなかった夜嵐の方へと歩を進める…が、自分達の過ちに気付き取り返す為の轟と夜嵐の足掻きによって、炎の渦の中へとギャングオルカは閉じ込められた。



「…傷病者の避難はこれで終わりですね、もう生死に関わるような傷を負った人は居ないみたいなので安全確保の為あっちに加勢してきます」

新たな救護所を作り日詠は同じく避難してきた人の救護に当たっていた人に声をかけ、了承を得るとその足はすぐに戦線へと向かう…その顔には少しだけ怒りが混じっていたのだが、それに気付ける程近くに居た人間は側に居ない…。
駆けつけた先にはもう何人かが加勢に入り、徐々に敵を制圧していた…潜り抜け救護所へと向かおうとする数人の敵を行かせまいと近くに居た人と共にそれらを止めて身動きをとれなくしてからその目線を少し遠くで舞い上がる炎の渦へと向けて眉間の皺を濃くすると、その場の加勢を他の者に任せ元救護所近くへと走った──…。



「炎と風の熱風牢獄か…良いアイデアだ…並みのヴィランであれば諦め…泣いて許しを乞うだろう……ただ、そうでなかった場合は?撃った時には既に…次の手を講じておくものだ」
(くっ…)
(う゛う゛〜〜…!)

"個性"が「シャチ」である為にできる事や弱点が実際のそれに近いギャングオルカ…それ故乾燥に弱いこと等自分でも十分理解しているもの…当然その弱点を補う為に常に水は持ち歩いている。
ドップドップとペットボトルに入った水を頭からかけ、そして超音波を放ち炎の渦を消しさってしまった…。

「で?次は?」
「二人から離れて下さい!!!」「二人から離れて」

突然その場には居なかった二人からの奇襲だったが、そこは流石プロと言うべきか…防がれてしまった…しかしそのすぐ後に大きな電子音が鳴り配置された全てのHUCフックが危険区域より救助され仮免試験全工程が終了したという知らせが放送された。

「終わった!?」
『集計の後この場で合否の発表を行います、怪我をされた方は医務室へ…他の方々は着替えてしばし待機でお願いします』
「……はぁ…」
「!」

トンッと日詠がつま先で軽く地面を蹴ると光が広がりその場に居たギャングオルカ含む4人の傷が瞬時に癒えた…発動本人は元々傷を作るほどの戦闘を行っていない為回復効果は無い。
ギャングオルカはチラリと日詠を見てから何も言わずにその場を離れた。
日詠もまた無言で倒れている轟に近付くと肩を貸すように立ち上がらせ正面を向き合った…日詠のただならぬ空気に気付いた轟は口を開き、名前を呼ぼうとしたその瞬間だった───…、

バチンッ!!

大きな音が響き轟はまた地面へと尻を付き心底驚いたようにジンジンと傷む頬に手を当ててから目を見開いたまま相手を見上げた。
もちろんその場に居た緑谷と夜嵐も何事かと驚き目を見開いて二人を見ていたのだが…日詠はそんな事も気にせず無言でその場を離れようと、その場に居る誰よりも一足先にと着替えるための移動を開始した…その際、一瞬だけその足がもつれたのかふらりとその足取りが乱れたが、すぐに普通の足取りで歩き始めたのを見送る。

「と、轟くん大丈夫?」
「───…、ああ…悪ィ…」

緑谷の手を取り再び立ち上がり、夜嵐も一瞬呆然とはしたが自らの力で立ち上がるとそれから気まずさから特に会話も無く自分たちもそれぞれ着替えの為にと移動を開始した…。




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