腹が減ってはなんとやら
保健室に行くとリカバリーガールが出迎えてくれたので保健室利用書を渡して靴を脱いだ…そこまで酷い火傷では無いものの、改めてそれを確認して意識するとじくじくと痛みが出てくる…考え事をしていたとはいえよくここまで歩いて来れたな私。
「軽い火傷だね、これならすぐに治せそうだ…にしてもやっぱりヒーロー科は怪我人が多いねぇ…」
「訓練で熱くなりすぎてしまうんでしょうね、私もそんな感じでしたけど…」
「さっき運ばれてきた子もだけど、治してもらえるからって無茶するんじゃないよ?ただでさえあんたは体力を消耗しやすい"個性"なんだから」
「…返す言葉もございません…」
リカバリーガールは消太くんの紹介で色々とお世話になっている方々の一人だ、いくら信頼しているとはいえ男性に話せないような内容の話もこの年頃の女子にはあるもので…まぁ俗に言う月の使者とかそういう話とかそういう事の相談にと…流石にはっきりとは言わなかったがそれとなく女性の知り合いはいないのかと聞いたところ彼女を紹介してもらった…消太くんはそれを聞いた時察した顔をしたので隠した意味が無かったかもしれないけど。
医学を学んでいるのであればメンタル面等の事も詳しいだろうし"個性"の使い方のヒントにもなるのでありがたかったけれど…もっと若い女性の知り合いとか居なかったのか、婚期逃してるんじゃないかあの人…流石に心配になってくるよ消太くん…私のせいだったりするのだろうか…と彼女を紹介された時はずっと悩んでいたのも今ではいい思い出だ。
ちゅーっと手の甲にキスされて火傷は治り、痛みも引いたので長居はしない方がいいだろうと立ち上がる。
「ありがとうございます、じゃあ授業に戻りますね」
「はいよ、お大事にね…怪我してなくても来て良いから、また話し相手になっておくれね」
「はい、また…あ、そういえば緑谷くんは大丈夫なんですか…?」
ペッツを受け取りながらふとベッドで横になっているクラスメイトが目に入る。
まるで重傷の入院患者のような姿に思わず顔を
顰めてしまうと、リカバリーガールは溜息を吐きながら「一応ね」と返した…彼女の顔は少し怒っているような表情だった。
「でもあの怪我じゃ一気に治すのは無理だね、あの子はしばらくここに来てもらう事になるよ…あんた仲良いのかい?」
「話したことはまだないんですけど…なんか自分と似てる気がして気になってはいました」
「ああ、確かにね…」
緑谷くんも私も"個性"の制御が上手くできない点では似ている気がする…彼は増強力の制御、私は感情の制御…"個性"は違えど努力すべき方向性は同じに思える、機会があれば話してみたいものだ…お互いに何か見つかるかもしれない。
とりあえず授業をこれ以上サボるわけにもいかないので話はここまでにして戻った…私はともかく緑谷くんははやく力の制御ができるようになれる事を願うばかりだ、使う度に体がボロボロになっていては命がいくらあっても足りないだろう。
それから授業に戻ってもう大分終盤だったけどクラスメイトの戦闘を見て講評会を一通り聞いて5時限目は終わり、着替えて6時限目も終わりようやく放課後となった…"個性"を思いっきり使ったのと治癒での体力消耗で少しだけ眠いと思いつつ、鞄に入っているバランス栄養食をもさもさ食べていると焦凍くんが私の席の近くに遠慮がちに近寄ってきた…まだどこかその表情は申し訳なさそうだ、だからそんな顔しないで欲しい。
「…怒木…その…大丈夫か?」
「何がです…?」
「保健室に行ってただろ…」
「あー…自業自得の結果ですし大丈夫ですよ」
「…そうか…」
「焦凍くんがどうしてそんな顔してる理由が分かりませんけど、謝ったりしないでくださいね?さっきも言ったとおり自業自得の事ですし、焦凍くんに負わされた怪我なんて無いんですから」
ね?と安心させるように笑えば、まだその表情は少し険しかったがさっきよりも力が抜けたようで「わかった」と小さく言って頷いた彼にまた笑いかけた。
焦凍くんは何かを抱えているのは何となく分かっていた、でもそれに対して下手に詮索をするつもりはない…話したいと彼が思えばいつか話してくれるだろう、話さなくても彼からの私への信頼はそれぐらいでしか無かったのだと諦めるだけだ…話したくない事は誰にでもあることだし私は気にしない。
「まぁ何か申し訳ない気持ちが消えないなら今後は名前で私の事呼んでくれればそれで良いですし」
「そんなことでいいのか」
「私だけ名前呼びって不公平じゃありません?」
「………そうか?」
「そうですよ」
もさもさと栄養食を食べながら箱に入ってるもう一つの袋を開けてまたブロック型の栄養食を出す…手軽にカロリー摂取ができる栄養食は小腹が減った時に重宝する、私はこれのチョコレート味が好きだったりする。
先程から話しながら食べてるせいで焦凍くんの目線がちょっと痛い。
「…あげませんよ?」
「いらねぇ」
「冗談が通じないですね…皆がやってる反省会参加しないんですか?」
「反省する所はよく分かってるけどあれに参加する必要はねぇだろ、帰る…お前は残るのか?」
「焦凍くんって友達できなさそうですよね、私はこの際に皆と仲良くなりたいので残りますけど」
「…お前失礼だな……まァ良い、じゃあまたな」
ばいばいと笑って手を振ると片手だけ上げて教室から出て行く焦凍くんを見送って残りを食べてしまおうともそもそと口を動かしていると赤い髪の片目に傷のある子が私が一人でいるのに気付いたのかこちらに来ると話しかけてきた。
ごめん待って、食べ終わっちゃうからもう少し待って、もごもごと急いで食べてると相手も焦って謝ってゆっくりで良いと言ってくれた…良い人だ。
「悪ぃないきなり話しかけちまって…!俺ぁ
切島鋭児郎ってんだけど、今皆で訓練の反省会してんだ!お前もどうだ?」
「いえ、それはお気になさらず…怒木日詠ですよろしくお願いします、食べ終わったら参加させてもらおうと思ったんで是非!」
「お、そうなのか?怒木って以外とノリ良いんだな!轟のやつには断られちまったからあいつと仲良さそうにしてるお前もそういうタイプかと思ったぜ!」
切島くんの言葉に苦笑してしまう…焦凍くんは今は仲の良い友達だけど最初こそそれはもう冷たかった…打ち解けるのが思ったより早かっただけだ。
少し話したあと切島くんが私も参加すると集まっていた人の中に私を入れてくれる…どう話しかけようか少し悩んでいたから彼のような性格の人がクラスに居てくれて良かったと思った…それぞれ自己紹介をしてそれから私の奇襲攻撃とかがすごかったとか、焦凍くんのあれをどう攻略できたかという話に花を咲かせた…褒められると嬉しいけど照れてしまう、顔が少し熱かったけど皆と打ち解けられて良かった。
そしてこうした反省会は今後の参考にもなるのでしっかり聞いておこう。
色々話していると教室に緑谷くんが戻ってきて皆が一気に集まって自己紹介を始めて各々が色々話していく中いきなりの事で緑谷くんは戸惑っていた…うん、分かる…私もそんなだった…とりあえず私も自己紹介だけはしておいた、今後話せる機会があればいいけど。
緑谷くんが麗日さんに「かっちゃんは」とか話しているのを聞いて、そういえば爆豪くんにも挨拶しようと思っててできないままだというのを思い出した…まぁ話しかけてもテストの時の事で多分目を付けられた気がするので近付かない方が身の為かもしれないなぁ…と、走ってどこか──恐らく爆豪くんの元だろうけど──に向かう緑谷くんを尻目に少し遠くを見つめながら
徐に鞄からまたバランス栄養食の箱出して袋を開けてまたそれを口に入れてもそもそと食べ始めた。
「…怒木、腹減ってんのか…?」
切島くんが苦笑しながら突っ込んできたのでこくこくと頷きながらもっそもっそと食べる。
皆もそんな哀れんだ顔で見ないで欲しい、感情を出すと体力使うの!!お腹空いちゃうの!!
ちなみに鞄の中には後5箱くらいは入ってるわけだけど、あれを全部出して食べたら引かれそうなので黙っておく事にした…この後ご飯を作ってそれもかなりの量を食べるとか流石に言えなかった…。
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