奇妙な交流


「あ…」
「ん?」

パチリ。目が合った。

椿は丁度、公園で売っているクレープのメニューを吟味していたところだった。
初めは外に出たついでに甘い匂いに誘われここのクレープに行き着いたのだが、今では寧ろクレープが外に出る目的で任務はついでになっていた。椿の異能上、血塗れになることは少ないが念の為任務の前に来ることにしている。何よりクレープの甘い香りが硝煙や血の臭いと混じるのは頂けない。
おやつ時には早い時間である為、人が少ないのも好都合だった。

そして此度目が合ったのは、ざっくばらんに斜めに切られた個性的ヘアーの白髪くん(仮名)だった。衝撃的な出会いだった為覚えている。
以前会った時に少し話した程度で名前も聞いていなかったし、会うこともないだろうとも椿は思っていた。
まずあの行き倒れ具合から云って既に死んでいても可笑しくなかったが、身なりを上から下までじっくり見れば小綺麗になっている。……恐らく彼のファッションセンスは個性的な部類に入るのだろう。髪も然り。

「あぁああの!!えっと、覚えて貰っているかはわからないんですけど!あの!」
「…おにぎり」
「!! そうです!あっいや僕はおにぎりでは無いんですけど…いや確かに間違いでは無いんですけど……」

何やらモゴモゴ云っている。椿はよく分からなかったが、この少年が来た事によって先程まで自分をメニュー表の前に縛り付けていた問題が解決される事に気づくと、さっと店員に口を開いた。

「抹茶小豆白玉とストロベリー&ベリーホイップ」
「へ?」
「かしこまりましたー!」





「あ、あの……本当にこれ食べていいんですか……?」
「……いらないなら食べるけど」

私が。そう云うと少年は「あっいや!いらないというわけでは!…い、いただきます」とクレープを口に運び始めた。
因みに少年が抹茶小豆白玉で椿がストロベリー&ベリーホイップである。椿は抹茶小豆白玉の上の方を掬って既に貰っていた。白玉が食べたい気分だったがストロベリーの気分でもあったのだ。

黙々と公園のベンチに座って食べていると、少年が口を開いた。

「あの、僕、中島敦と云います。あの時は、助けていただいてありがとうございました」
「……おにぎりで足りたの?」
「足りたか足りなかったかと云えば足りなかったんですけど……あれが無かったら、川辺りで探偵社の人達にも出会えなかったと思います。その前に何処ぞで野垂れ死んでいたら…」
「カラスにつつかれてたかもね」
「やめてくださいよ!」

実際、川で流れていた太宰はカラスにつつかれていたが、敦は何とか其れを救出し、自らの異能の存在を知り、紆余曲折を経て探偵社に身を置かせてもらうことになったのだ。

「其れが中々癖の強い職場で…いや、不満ではないんです。皆さん凄く良くしてくれますし!」
「…」

わかる。椿も同じく癖の強い場所に身を置いているため、敦の声色で何となく働き先を察した。…そう云えば、そろそろ中也が半年ぶりに帰ってくるな、と頭の片隅で思い出した。定期報告とは別の連絡で滞り無く任務は完了しそうだと聞いた。お土産に思いを馳せる。
然し探偵社とは、ヨコハマでは云わずと知れた所である。そんな所で働くとは敦も何らかの異能を持っているのだろうか?それとも普通に不運──否、拾われたのであれば幸運か──な少年なのか。
チラりと敦を見る。美味しいですねと云いながら口の端に小豆の屑を付けていた。見るからに無害そうな少年である。

(…真逆ね)

食べ終わった包みを折り畳むと椿はベンチを立った。其れを見た敦はハッと慌てて背中に声をかける。

「あ、あの!僕、貴女にお礼がしたいんです!」
「…お礼?」

クレープのだろうか。其れなら寧ろこちらが助かった方だと云うと敦はぶんぶんと首を横に振った。

「クレープ…もそうですけど、おにぎり…。命を助けていただいたんです」
「おにぎり渡しただけだし君を助けたのはその探偵社でしょ?」
「其れは、そうですけど…でも、探偵社に助けてもらう前に、貴女にも助けてもらった」
「…」

これは何を云ってもお礼をするつもりだな、と諦めの悪い敦に椿はヤレヤレと肩を竦めた。これから任務だと云うのに。

「ソレ」
「え?」
「垂れてる」
「? …?!わっ!!!」

クレープの口から抹茶ソースが垂れていた。勿体無い。

「うーんじゃあこうしよう」
「へ?」
「次ここで会った時にクレープ買って。2つ」

メニューはその時決めよう。垂れた抹茶をナプキンで必死に拭いていた敦はキョトと目を開いていた。

「それでいいんですか…?」
「? トッピングも付けてもらうからそのつもりで」

椿はまだここのクレープのトッピングに手を出していなかった。アイス、チョコスプレー、ホイップ増量、コーンフレーク、ブラウニー、チョコ棒、ウエハース……夢のラインナップだ。
敦は真逆クレープを所望されるとは思っていなかったらしく、暫く動きを止めていたが、その後肩を震わせて破面した。

「っふふ、わかりました!クレープですね」
「ヨロシク。じゃあ、私は用事があるから」
「あっ待ってください!」

まだ何かあるのかと踵を返した椿に、敦は「貴女の名前を、知らないです。次会った時に不便でしょう?教えてください」と云った。何だそんなことか、と椿はすぐさま自分の名前を口にする。
任務に行かなければ、と椿は今度こそその場を後にした。


「椿、さん」

敦の手から抹茶ソースがぽとりと落ちた。