松田陣平

あの任務から帰れば、バーボンとスコッチには心配され、ライからはポンと頭を撫でられた。
それからだろうか、三人の監視が緩くなったのは。というか、誰か一人が部屋にいることがなくなったのは。
任務をこなすことによっていろいろと自由が利くようになったのはとてもラッキーだ。さらに最近では一人で町中を歩くことまで許された。
バーボンは相変わらず「危ないことはダメ」だの「これはしちゃだめ」だの小言を言っているが…。

そして今日11月7日は三人が任務で部屋に誰もおらず。暇を持て余した彼女は一人、ブラブラと町を歩いている。
現在彼女の服装は水色から青になるグラデーションのワンピースに黒のパーカーである。勿論ピアスとリング、ボックスは持っている。

観覧車に乗りたい…いきなりそう思い、杯戸ショッピングモールに足を運び、観覧車に乗る。
ゆったりと登るゴンドラの中で、アサリと会話を楽しむ。
人の眼があるとどうしてもこう話すことができないのが難点だ。
スマホで写真を撮り、定期的に連絡するように言ってくる弟にその写真を送る。
ーよしよし、これでお姉ちゃんは元気にしてることが分かるだろう。

そうスマホを見ながら思えば、ふと感じた嫌な予感。
我が家系に代々脈々と受け継がれるこのブラット・オブ・ボンゴレの中には"超直感"というモノがある。それは良い物でも悪いでも感でわかってしまうものだ。瞬時に嫌だ、と感じたこれは確実なものだ。

三雲はすぐさまスマホを取り出し、日本にほぼいる雲雀にへと電話をかける。

『三雲かい?なんだい?』
「今すぐ杯戸ショッピングモールに霧のリングを持つものを…嫌な予感がする」
『…あいつを向かわせるよ』

雲雀はそう言って電話を切る。
守護者達はこの超直感が嘘を言っていないことは十分理解している。
ボスである綱吉でさえ、「分からないけど…嫌な予感がするんだ」といって作戦を変更したりすることもよくある。
そしてそれはすべて功をなしてきた。
彼女のゴンドラが頂上にきた瞬間だった。
いきなりの爆発音。
下を見れば、管理室が爆発されたのか、そこからもくもくと煙が出ていた。
だが、観覧車はゆっくりと同じペースで動いている。
そして、今まで何故気づかなかったのか…座席の下に爆弾が仕掛けられていたのだ。

「チッ、アサリ警察は?」
【はい…いま向かっているようです】
「ギリギリまで隠れていようかしら…」

三雲はポケットから藍色の石の着いたリングを出し、炎を灯す。
そして己の姿を消す。
____________

しばらくすればゴンドラの扉が開かれ男性が一人入ってくる。
頭の文字を見れば"松田陣平"とその寿命が書いてあった。
寿命を見れば爆弾と同じタイマーになっていた。

「松田陣平?」
【…松田陣平、…警視庁の警察です…そして降谷さんと同期で今でも親しい間柄です】
「バーボンの…なら死なせるわけいかないね…」

幻術により相手に認識されていないので声を出しながらアサリに問えばイヤリングから声が入ってくる。
自分がお世話になり、慣れない料理を必死に頑張ってこなしてくれているバーボンこと安室透こと降谷零の同期で、仲が良いというならそう簡単に見捨てることはできない。


爆弾の解体は順調にすすんでいたが、突如聞こえた爆弾により、ゴトンっと音を立てて観覧車が停止してしまった。
そのあと松田の携帯に電話がかかり、今自分の起きている状況を説明しているようだった。

だが松田は"三分あれば解体できる"と言っている割には寿命のカウントが止まらない。
これは何かあると判断した方がいいだろう…三雲はリングを大空に変え、ボックスを取り出す。

「三秒前か…すまねぇな萩原」

松田はその間に送られてきたメッセージを見てタバコを吸う。

「諦めるの?」
「は!?」

松田が後ろを見れば栗色の髪をした黒のパーカーを着た少女がいた。
少女は橙色の瞳でジッと松田を見ていた。
確かに彼がゴンドラに入った時は誰もいなかったはずだった。
だが確かに彼女はいた。

「なっ!!このガキ何時から…」
「最初からよ、それこそ貴方が入ってくる前から」

そう言って彼女は松田の後ろから爆弾を見、松田を見る。

「病院ということは分かってて、どこの病院かは三秒前にしかヒントが出ないのよね?」
「…あぁ、そうだが」
「解体して」
「は?」
「早く、あと三分よ?」
「ふざける…」
「ふざけてない、早く、貴方一人の命だけならいいけど、私まで殺すの?警察が?」
「だが、俺達の命より多くの命が…」
「だからよ」

そう言って橙色の瞳でこちらを見ている。その瞳の力は否とは言えない力を宿していた。

「貴方の寿命のカウントが終わらないと、病院探せない…」
「!!」
「…後で話すから早く」
「っち!!嘘だったら許さないぞ!!」
「血に誓ってそれはしないわ」

松田はすぐさま爆弾処理に取り掛かった。
それにより、松田の寿命が一気に伸びた。
それを確認すると同時に「アサリ」と名前を呼ぶ。

【はい、ここから北の位置に米花中央病院…】

アサリから入った情報をもとにその場所に目を向ける。だが文字があまりにもごちゃごちゃしていて見当がつかない。
仕方ない…と思い松田を見れば爆弾を解体し終えたようだ。下を見ればショッピングモールには霧の守護者であるある男がいた。
彼が濃い霧の幻影を出すのを確認する。

「松田陣平さん」
「あ?」
「飛びますよ」
「はっ!?」

三雲はオレンジ色のリングに炎を灯し、ゴンドラの窓を割る。

「!!!??」

そしてその炎を手の平サイズのボックスに注入し、割った窓から匣を出せば甲高い声と共に人が乗れるほどの大きさの淡いオレンジ色の炎を纏う白銀に輝く鳥が現れる。

「ライファーン!!このゴンドラの扉を壊して!!!」
『ピィイイイィ!!』

ライファーンと呼ばれた巨大な生物はゴンドラの扉をその巨大な口で咥え、破壊する。
その光景に唖然とする松田の手を引き、乗りやすいように身を屈めているライファーンの背中に跨る。
もちろんライファーンは下の野次馬たちに目撃されると思われていたが、いきなり発生した濃い霧により、その姿は見られていなかった。