後押し

あの事件から数日後。
部屋には三雲とバーボンの二人がいた。
二人…というか四人は自室でしないといけないこと以外基本リビングにいることが多い。
普通スパイ同士警戒するものではないのかと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
この四人が異質なのかは別として…。

バーボンはすっかり料理をするのが趣味の一つとなったらしく、現在さっぱりしたものが食べたいと言った三雲のリクエストをこなすため、レモンタルトを作成している。
それに対して三雲はニュースを見ていた。

『ーいまだ爆弾犯は捕まっていません。ですが今回の事件で負傷者が一人もいないとは驚きですね』

「日本の警察は優秀ですね」
「!!!」

いきなりソファの上から声をかけられて驚きつつバーボンに目を向ける。
バーボンは相変わらずニコニコした笑みを浮かべニュースを見ている。
バーボンの頭の上には相変わらず、"降谷零"の文字と寿命が浮かんでいる。

「…バーボンは何で黒の組織に入ったの?」
「…いきなりなんです?」

いきなりの質問に顔色を変えずにそう返すバーボンをジッと見る。
これでも自分の超直感を除いても人を見る目はあると思っている。
バーボン、否降谷零は決して真実を明かしてもそれを組織、そして自分の巣に漏らすことはない人物だということを。それは勿論、ライやスコッチも同じことだ。
…ライの場合は利用するだろうが…。
丁度薬も切れることだし、いいかな、と思いながらジッとバーボンを見る。
彼の事は全てではないにしろだいぶ知れてきた。だがそれでも早いのか?とも実際思っている自分がいる。
もっと遅く、信頼を勝ち取ってからでもいいのか、それとも早目に打ち明け協力しあう方がいいのか…。

「んー…」
「…変な子ですね」

考えこんだ彼女に苦笑しながらバーボンはキッチンに戻っていき、今だ唸っている彼女をバーボンはチラッと盗み見る。

彼女を一度任務に連れていって以来ジンは彼女の能力が気に行ったようでよく任務に連れていく。
確かに能力自体は組織で有効なのだろう。一度ウォッカにその映像を見せてもらったが、とても5歳児が考えるような内容じゃない。部屋の構図を伝えるのはもちろんだが、確実にターゲットを仕留めるための策を再度練り直す。そして小さな穴ですら無す。
それによって人の死ぬことが分かっているかのように…。
そこまで考えてそれはないと頭を降る。
そんな力があったら殺人事件やテロなどの大勢の命が死ぬ事件を未然に防ぐことができる。
正直公安で使ってほしい能力ではある。組織を壊滅させた後は彼女を警察官…それこそ己の部下として育てようか…そんなことを考えながら、レモンタルトをオーブンから出す。

バーボンがキッチンに入ったのを見て、彼女はアサリを呼ぶ。
そしてリボーンにつないでくれと頼む。
すぐさまアサリはリボーンのダイアルにアクセスし、連絡を取ってくれる。

『どうした?』
「あのさー相談なんだけど」
『連れてこい』
「そうそう、連れてこい…ってえっ!?」
『どうせ組織の味方になりそうな人物に自分の正体を教えたいってことだろ』

バッサリ自分が相談したいと思っていたことを言われ、何も言えなくなる三雲。
本当にこの子供は一体何なんだ。否、そんな問題は等の昔に捨てた。
現在リボーンは呪いが解け、一年一年ごとに成長していっている。

『俺はお前のツナ以上の…否歴代最高の超直感を信じている。三雲がそれがいいと思うならそれを信じろ』
「…ありがとう、リボーン」
『じゃーな』

そう言って電話は切れた。
しばらく亀居した状態で目をつむっていれば、コトンという音と甘酸っぱい匂いが漂ってきた。
目を開ければこちらを不思議そうに見ているバーボンがおり、ジッとその蒼い瞳を見る。

「…ねぇ、バーボンお昼から来てほしいところがあるの」
「お昼からですか?」
「うん、ちょっと私とお話しよう?」

そう言ってから目の前のレモンタルトに目を移す。
その前にこの美味しそうなタルトをいただきますか。