イタリアへ行く

「お嬢、ローズヒップです」
「ありがとう」
「降谷はアールグレイだな」
「あぁ、ありがとう」
「ほら、松田エクスプレッソだ」
「すまないな」
「あと禁煙だからな」
「…分かってるよ、んなこと」

婚約者二人とお付き人の天野、そして警視庁刑事部一課の松田陣平はボンゴレ専用の飛行機にのり、空の旅を満喫していた。
飛行機に乗っているのはボンゴレの機長と副機長、2名の客室乗務員だ。
行先は勿論、ボンゴレ本部のあるイタリア。
何故、三雲、降谷、天野のほかに松田までついてきたのか…それはほんの1週間前に遡る。
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「んじゃ二人は今日から同棲するんだろ?」
「「え?」」
「え?じゃねーぞ」

婚約はしたとしてもまさか同棲するとは思っていなかった二人は、すっきょんとんな声を上げ、コーヒーを飲んでいる小学生を見た。そんな二人に当たり前だろ?といわんばかりの眼を向けるリボーン。

「お前らはゆくゆく夫婦になるんだからな。
同棲をし、降谷は公安の方と、バイト…黒の組織に休みがあるのかどうかは知らねぇが、休みを一週間とれ、どちらも完全に連絡が取れないということも伝えてな」
「え…」
「まさかお前ら…あいさつするのは家光だけだと思うのか?」
「そうよね…父さんは別にいいけど、九代目達にもあいさつしないといけないしね…」
「九代目…」

まさかそこまであいさつしなければならないとは…。
だが考えてみればそれはそうだ。
彼女はボンゴレ創立者であるT世の直系の子孫である。ましてや彼女の弟は]世。その婚約者となればあいさつしなければならない。

「それと、三年前にここにきた松田陣平も一緒に連れていけ」
「松田を?」
「…まさか記憶戻ったの?」
「えぇ、ほんの1週間前に」

天野の言葉に三雲は笑みを浮かべる。

「そう、なら天野さんも一緒に行きましょうね」
「はい、お嬢の身の回りは私めの仕事でございます」
「…天野さん、すっかり板についてきましたね」

綱吉の言葉に天野は笑みを浮かべ頷く。
もともとある程度のことはできていた天野だが、綱吉の右腕である獄寺の弟子として生活していた時は、屋敷の執事長であるセバスチャンとメイド長の花野に様々なことを叩きこまれていた。

伝統、格式、規模、勢力すべてに置いて別格といわれるイタリア最大のマフィアグループ。それに仕える執事やメイドのレベルも相当高い物を求められる。自分が死に、三雲が潜入している間今まで知らなかった礼儀や姿勢、その他諸々を学んでいたのだ。勿論戦闘力も求められる為、守護者や門外顧問の人たち、ファミリー達とも腕を競った。時には荒くれもののヴァリアーに執事見習いとして投げ込まれたこともあるし、したこともない女性の化粧について叩き込まれた。中でも一番苦情を強いられたのが料理だった。
潜入時にも料理はしたことがあったが、それはなかなかひどい物だった。みそ汁や目玉焼きを何とか作れるレベル…。自分達が食べる物とは全く違う…本格的なイタリア料理や日本料理、その他主な国の伝統料理を一年と一番長い日数をかけ習得した。だが彼が学んだ料理はほんの初歩。
まだまだ、と指導者である獄寺に言われているのだ。
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ところ変わって警視庁…。
松田は突如かかってきた電話の主に珍しい…と小さく呟いて電話にでる。

『やぁ、松田久しぶりだね』
「あぁ、久しぶりっすね雲雀さん。今日は何のご用件で?」

約三年前に彼松田陣平はボンゴレ]世の姉である三雲にその命を助けてもらった。それからというモノの松田は雲雀と呼ばれるボンゴレ]世の雲の守護者である雲雀恭弥と波長が合ったのか、時々ではあるものの連絡を取る仲であった。松田から電話するときは殆どが捜査のことが多いが、彼から電話がかかってくるときは折り返しか、プライベートのことが多かった。
雲雀恭弥は並盛財団と呼ばれるグループの筆頭だ。警察が動く前に財団で事件を解決することが多く、またボンゴレに属していることもあり、設備など充実しているのだ。並盛に逃げた犯人を追ったり、目撃情報を聞くには彼に聞いた方が一番なのだ。
しかし今回は松田は勿論彼に電話してはいない。
と、なるとプライベートなのか…?
また良いバーか居酒屋にでも連れていってくれるのかと期待した松田の頬は自然と緩んでしまう。

『来週一週間イタリア行くよ』
「は…」

雲雀の言葉に思わず加えていたタバコが落ちそうになった。
雲雀の言葉に主語がないことは多いがここまで突発的な言葉は今まで無かった。
どういうことなのか聞こうとした時、彼の右腕…スットパー役の草壁に電話が変わった。

『もしもし、草壁です。すみません、いきなり恭さんが…』
「いや、それは構いませんが…どういった話でイタリアへ?」

それから草壁は詳細を話してくれた。
来週の金曜日から一週間イタリアに三雲、降谷、天野が行くらしいのだが、松田も同行してほしいとのこと。
なんでもあってほしい人がいるそうだ。旅費はボンゴレ専用の飛行機で行き、ホテルに関してもボンゴレ所有のホテルに泊まるのでいらないとのこと。必要な着替えやお金、パスポートだけは持ってきてほしい。
用件だけ伝えると忙しいのかすぐに電話は切れた。

松田は急いで有給申請をすべく、目暮警部のもとに行く。

「いきなりかね…?」
「イタリアですか…また急ですね」
「あら、松田君が一週間も休むなんて…しかもイタリア、いきなりどうしたの?」
「いや、友人が海外に行くことになりましてね…」

目暮警部の元には彼の嘗ての教育係だった佐藤にその彼氏の高木もいた。
3人して珍しいものを見るような視線を送る。

「休むには構わんが…いきなりだから取れるかどうか分からんぞ?」
「えぇ、そこは…大丈夫です」
「「「?」」」

苦笑気味の松田の言葉に3人は?を浮かべるが、松田の頭の中には雲雀の電話が終わってすぐにかかってきた、元同僚の天野からの電話の会話が頭に流れていた。

『雲雀さんから電話は来たか?』
「あぁ、来たから今書類を書いているところだ」
『ハハハだよなぁー』
「にしてもいきなりなんだよ、しかも一週間なんて休み取れるわけ…」
『取れるぞ』
「はぁ!?」

天野の言葉に思わず叫んでしまった。

『降谷も行くのは知っているだろ?』
「あぁ…っつか俺より休み取れねぇだろがアイツ…」
『そうだろうな』
「そうだろうなってお前…」
『でもよ、俺達の組織を考えてみろ』
「あ?」
『今、ボス直々に警察の親玉に電話中だ……お、取れたらしいぞ』

松田はその言葉に苦笑する。
本当にボンゴレという組織はどこまで世界に影響を与えているのか…。
そんな訳で無事松田も一週間という長い休みを貰え、現在に至るの出会った。