弟子入り

「え?毛利小五郎に弟子入り?」
「あぁ」

リビングで仕事をしていれば、紅茶を入れてきてくれた降谷からそのような言葉がかかり、三雲は眉間に皺をよせ、ブルーライトカット用のメガネを外す。

「またなんで…」
「気になることがあってな…三雲も気づいているんじゃないか?」
「…少年かぃ?」

紅茶を冷ますため、息をかけながらそう答えれば語尾が消えてしまった。
そんな彼女に苦笑しながらも肯定を示す降谷。

「あの少年…小学一年生にしては行動が子供らしくない…」
「(あれ高校生探偵の工藤新一だもんね…)」
「それにあの麻酔針…一体どこから」
「(彼の腕時計だね)」
「声は一体…」
「(ネクタイが変声機になってたね)」

降谷がことごとくいう言葉に紅茶を飲みながら心の中で答えを返す。
なにしろ三雲。
最初から最後まで江戸川コナンこと、工藤新一の行動をすべて見ていたのだ。
気になることがあれば即動き、情報収集に入り、小さなことですら見逃さない観察力…。特に降谷に殴りかかってきた伴場に対し降谷が言った「足を掴んでください」…この言葉に毛利は反応しなかったが、コナンだけは彼の靴裏を見、無実の証拠としてそれを捕えていた。

「…三雲何か俺に隠していないかい?」
「ひょぇ!?」
「……隠しているな」

思いにふけっていれば、目ざとい降谷は瞬時に彼女を問いただす。
いきなり声をかけられれば、変な声が出、それを怪しいと感じた降谷がどんどん彼女に近づいてくる。ソファに座っている為、後ろに後退するも限界はあり、更に降谷の腕で囲われ、完全に逃げ場のなくなった。

「さぁ何を隠している?」
「か、隠してない」
「嘘だ…君は気づいていないだろうが、何か隠し事があると君は必ず、目をつむったり、伏せたり、逸らしたりする…目を隠そうとするんだ」

彼女自身それに全く気付いていなかったようで、そらしていた目を降谷に向ける。
こちらを真っ直ぐに見る蒼い瞳は嘘を言っていないようだ。
彼と出会って過ごしてきた三年間…きっと彼のいうことは本当なのだろう。
口より物をいう目を隠すためにしていたことが習慣となり、癖となったのだ。

言い逃れのできない状況に冷や汗が出てくるのを感じながらジッと降谷を見る。それでも見返してくる降谷に降参をする。

「…まだ確証がないので、確証を得てからでいい?」
「…仕方ない」

そう言って彼は彼女を囲っていた腕で上体を起こし、彼女も抱き起す。
そのまま抱きしめてくる彼に疑問を持った彼女は頭を傾げながら彼を見る。

「……話は変わるが、ボンゴレが助けた警察関係者は…萩原、松田、天野だけか?」
「?…えぇ、報告が上がっているのは三人だけよ」
「…そうか」

その言葉に三雲は眉間に皺をよせ、彼の目をみる。
その瞳は悲し気に揺らめき、眉間には皺をよせていた。

「…もしかして」
「…そう、だな…期待していたかもしれない。ここまで全員死んだと思っていたけど…生きていたから」
「…その人の、名前聞いても?」
「伊達…伊達航だ」

その名前に彼女はしばらく考え、首を左右に振る。
それは完全に彼が死んだということを意味する。
小さく「そうか」と呟いた彼はそのまま彼女の首元に顔を埋めてポツリポツリと話す。

久々に己の古巣に帰れば、そこで己の同僚である伊達航が死んだという話を聞いたそうだ。
警察学校時代は次席という成績を治めていた彼が死ぬはずはない…そう思っていたとのこと。

「…私は確かに人の寿命は見える…先日の初音さんだってそう。
死ぬことが分かっていても私は神じゃない…すべての人を救えるわけじゃないの」
「…分かっている」
「萩原さん、松田さんは本当に運が良かったとしか言えないわ…
萩原さんに関してはたまたまボンゴレの晴れの守護者が近くにいたことが幸運…
松田さんもそう…私が観覧車に乗らなければ、きっと助けることはできなかったでしょう」
「………天野もだな」
「そうね、私が組織に潜入せず、しても彼と関わりを持たなければ助けなかったわ」
「……運がいいな」

三雲とてもとは普通の人間だ。
前世で死神の眼を貰い、デスノートを使わなければここにいなかったのかもしれない。
否いなかっただろう。
彼女がノートを拾い、死神の眼を貰い、己の名を書き、マフィアグループの血縁者に生まれ、こうして彼らにあったのもきっと運命という名の必然なのだろう。
降谷は三雲の肩に顔を埋め、彼女の背中をその両腕できつく抱きしめる。
そんな彼を彼女も抱きしめ、ポン、ポン、と一定のリズムで軽く叩く。

「今度伊達さんの墓参りに行きましょうね」

その言葉に彼は無言で頷いた。