江戸川コナン

あの日から数日後。
彼女は米花町の喫茶店…ポアロの店の前にいた。ジッとポアロを見、その上にある毛利探偵事務所を見る。

「あれ〜?」

喫茶店に入ろうとしたとき、後ろから声をかけられ、彼女は驚いたように振り返る。
下の方を見れば、あの時の少年…江戸川コナンがいた。

「あら、こんにちは…コナン君だったかしら?」
「こんにちは、合ってるよ沢田さん!!」

ニカッと子供らしい笑みを浮かべている彼を見て、本当にあの有名女優の子供だな…と感じる。

「ポアロに来たの?」
「えぇ、透がここで働くって言いだしたから…どんなものかな〜と思ってね。
あと自分の昼食も兼ねて…コナン君も一緒にいく?おごるけど…」
「ほんと?ありがとう!!」

あぁ…なんというか演技しているのがバレバレだ。
カランという音と共に店内に入れば「いらっしゃいませー」と女性特有の声が響く。

「あら、コナンくん」
「梓さんこんにちは」
「こんにちは」

そう言って親し気に話す二人を横目で見、彼女は店内の奥の席に着く。
それに続いたのはコナンでどうやら彼女に自分のことを説明したようだ。

「ここでアルバイトをしています…梓といいます」
「わざわざありがとうございます…沢田三雲と言います」

可愛らしい印象を与える彼女は自分と正反対だな…そう思いながら店内を見渡す。
落ち着いた雰囲気を出している店には女性客が多い印象を与える。

「ご注文はどうされますか?」
「そうですね…コナンくんおススメある?」
「んとね…ハムサンドが美味しいよ」
「そう…なら紅茶とハムサンド、彼には…コーヒーかしら?」
「え…」
「あら?違った?」

コナンはメガネの奥の瞳を大きく見開き驚愕の表情を浮かべる。
それに対してきょとんと首を傾ける彼女の仕草は幼い印象を与える。

「…ぼくアイスコーヒーで」
「かしこまりました…あ、沢田さん」
「はい?」
「ハムサンドはもう一人の店員さんが作るので少々お待ちいただけますか?」

そう言ってくる彼女に三雲は笑みを浮かべて了承する。
その間コナンからは鋭い視線を浴びていたが、彼女は全く気にすることなく梓を見送る。

「…沢田さん、なんで僕がコーヒーを飲むってわかったの?」
「コナン君はきっと信じないわ」
「…それは言っても無いと分からないよ?」
「そう…なら感よ」

そう言った彼女に対しコナンは固まる。
それに面白そうにクスクス笑う三雲。
まるで「ほら信じてないし、納得してない」というような笑い方だ。

コナン…否、工藤新一は探偵だ。
必ず根拠のあることしか信じない。
それは幽霊という存在が科学的に説明されなければ信じないといった具合だ。
だからこそ、感というモノは信じないし、当てにしないことが多い。

「言ったでしょ?私の超直感は外れにくいのよ」
「…」

そう言った彼女の言葉が不満だったようで、コナンは梓が持ってきたコーヒーを飲みながらそっぽを向く。
その視界に金髪の色黒の青年が目に入った。

「あ、安室さん…」
「やぁコナンくん、…と三雲?」
「Hi、透」

コナンの前に座っている女性に目を向けた瞬間ポーカーフェイスが崩れ、驚愕に瞳が開かれる。
その様子を面白そうに彼女はくすくすと笑う。
まるでいたずらが成功したかのように。

「なんでここに?」
「一人で昼食なんてつまらないもの」
「…まったく、君は」

そう呆れたように言う安室に彼女は全く悪びることなく「ごめんなさいね」と笑いながら言葉をかける。
安室も仕方ないといわんばかりに溜息を吐き、梓に名前を呼ばれキッチンの方に消える。

そんな二人のやり取りを興味深そうにコナンは見ていた。
この二人はいわば美男美女。
安室は色黒の肌に淡い金髪、澄み切ったようなアクアマリン色の瞳。
身長も180程はあるだろうし、一見細いだけのような身体は意外と筋肉がしっかりついている。
対して三雲は白い肌に、ハニーブラウンの髪、光によってはシトリンのようなマンダリンガーネットのような瞳をしている。
身長は平均女性より高く、170程だろう。
そして女性らしくふくよかなむ…とここまで考えてコナンはハッとして視線を逸らす。
その頬は赤くなっており、それを目ざとく見つけた彼女はニヤニヤと笑みを浮かべる。

「お待たせしました、ってコナンくん、どうしたんだい?」
「へやぁ!?なんでもないよ!!」

赤くなっている顔を必死に隠そうとする姿に安室は?を浮かべるが、すぐに彼女を見て何かに気づく。
そんな安室に気づいたコナンは冷や汗が出るのを感じていた。

「…まさかと思うけど、三雲に惚れたり「わーーーーーそんなんじゃないよ!!!」…ならいいけど」

安室の後ろから出ていた靄のようなものが消えたことに安心したコナンだったが…

「そうそう、私の身体をジロジロみてよからぬことを考えていた、なんて言えないわよね」
「!!!!」
「…コナン君?」

三雲の発言により、コナンは固まり、安室はにっこりとした笑みをコナンに向ける。
コナンは危険を感じたようですぐさまコーヒーを飲むと「僕用事思いだした!!」と叫びながらポアロを出いった。

それをキョトンとした顔で見送る安室とただ笑みを浮かべた三雲がいた。