再び

安室こと降谷零は婚約者の迎えを待っていた。
今回の事件は組織側の人間として動くことになってしまった。この指輪をくれた綱吉に申し訳ない気持ちと共に、感謝の気持ちでいっぱいだ。まさか今回組織の仕事が入るとは…。だが、シェリーを始末できた上にかつて同じ組織に潜入していた、日本で好き勝手に暴れるFBI…赤井秀一に関して情報が得られたのだからよかったのかもしれない。
正直に言う、降谷は自国である日本で好き勝手に動くFBIが嫌いで仕方ない。
同じ組織ののど元を噛みつく狼としてはありがたいが、いかせん自由すぎるのだ。
そんなことを考えていれば自然と眉間に皺はより、組んでいる腕には力が入ってくる。

「あれ、安室さん」
「あ、蘭さん…」

事情聴取を終えたのであろう蘭や園子、コナンに博士子供たちも建物から出てきた。
コナンだけが睨むかのように己を見ているがあえてスルーさせてもらう。

「安室さんどうやって帰るんです?」
「あれでしたら私の車に乗ります?迎え呼んでいるので」

そう言って嬉しそうに声をかけてくれるのはかの鈴木財閥のご令嬢、鈴木園子だった。
安室はそんな提案を丁寧に断る。

「ありがたいのですが、すでに迎えを呼んでいまして…」
「あ、そうなんですか?」
「もしかして…」
「あぁ、蘭さんはお会いしてますね」

安室がそう言った時だった。
ブォン!!という音と共にオレンジ色のボディをしたGT-Rが停まる。
子供たちは興奮したように「カッコイイ!!」「すごいです」「すげぇ」と言葉をこぼす。
機械の好きな博士もコナンですら感嘆の声を上げる。

「丁度来たようです」

ニッコリ安室が笑みを浮かべれば運転席から出てきたのはこの車の持ち主三雲だった。
彼女はどこかに電話をしているのかイタリア語で会話をしていた。

「…どこの言葉かしら」
「イタリア語じゃな」
「博士分かるの?」
「いや…ほとんどわからんのぉ」
「あれ?言葉変わったよ?」
「聞いたことない言葉じゃ…」
「すごーい…あの人誰?」
「……」

安室たちを視界に入れると途端に言葉を変える三雲。そんな彼女を警戒するようにコナンは見る。それもそうだ。
安室は先程黒の組織の仲間だということが分かったばかりだ。彼の婚約者である三雲も仲間だという可能性は大いにある。電話が終わったのか「Ciao」と言葉を言って耳に手を当てる。

「お待たせ、透」
「いいえ、急にすみません…急ぎですか?」
「えぇ、ちょっと急いで帰らないといけないの…あら毛利さんにコナンくん、お久しぶりね」
「あ、沢田さんお久しぶりです!!この車カッコイイですね…」
「Grazie!っと、ごめんねまた電話だわ、透早く乗って…Pronto?」
「えぇ、では皆さんまたポアロで」
『はい!!!』

後ろにいた蘭たちに気づいた彼女は笑みを浮かべてあいさつを交わす。
そのあとすぐに電話がかかってきたようで彼女はまたもやイタリア語で電話を取りながら運転席に行こうとするが、安室がその腕を掴み助手席に案内する。扉を開け、彼女に乗るように促し、扉を閉め己は運転席に回る。そんな安室の流れるような動きに溜息をこぼすのは女子高校生約二名だ。
電話中の彼女は目線で「何すんの」と言っているが、安室は完全スルーだった。
そして来た時と同じくブォンとエンジンを鳴らしながら車は走り去っていく。

「きゃーあの人誰なの!?」
「あの人は安室さんの婚約者の沢田三雲さんよ」
「…へぇ、なんかできる女って感じだね」
「やっぱりイケメンの彼女は美女なのね…」

そんな風に話す女子高校生たちに目もくれず、コナンはただ車の去った方角を見た。
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※"〜〜〜"は日本語以外です

安室を見つけた彼女はそのすぐそばにある名前を見てすぐさまアサリに綱吉に繋ぐように指示を出す。

『もしもし?』
「ツナ、見つけた」
『場所は』
「今は本来彼女が住んでいる場所とは違う所にいるわ…すぐに写真を撮る」
『頼むよ』

三雲はすぐさまスマホのカメラを出し「アサリ」と声をだす。
すると画面がひとりでにズームをし、動画開始の音が出る。二秒ほどすればアサリからの完了の言葉が聞こえたため、スマホを助手席に投げ、エンジンを切る。

「"どう、確認できる?"」
『このご老人に背負われている少女だね…うん、確かに似ている…獄寺君、これを門外顧問の方に…ありがとう姉さん』
「"いいえ、彼女がこの組織を壊滅させる手立てになることを祈るわ…じゃあね"」

そう言って電話を切り、安室の待つ場所に向かう。