工藤新一

コナンと三雲は彼女の案内でとある小さな喫茶店に入る。
人があまりいない店内にはバーテンダーと二名のホールスタッフの三名しかおらず、客自体もほとんどいないに等しかった。小さい店の中の奥の席に着き、それぞれ飲み物を注文する。

「さてコナン君、私から質問いいかしら?」

飲み物が来て紅茶を一口飲んだ三雲から発した言葉にコナンは目を細めてみる。
彼女の婚約者である安室透…先日何も無かったのかのように現れた彼が、黒の組織の幹部にしかつけられないコードネーム持つだと判断した。そんな男と付き合い、更には婚約している彼女ももしかしたら黒の組織のメンバーだという考えは捨てれない。

コナンは警戒しながら頷く。
それに対して三雲は笑みを浮かべる。

「その身体はアポトキシン4869の影響かしら?工藤新一君」
「!!!」

まさかそんな質問が来るとは思っていなかったからこそ、コナンは動揺をしてしまった。その反応だけで彼女は肯定と受け取り、「なるほど」と呟く。一人納得する三雲とは反対にコナンは警戒を一層強める。

ーやっぱり、この人も安室さんと同じ組織の一員…。しかし何故俺が工藤新一だと分かったんだ。工藤新一は組織内では死んだとされているって灰原が…。
…まさかカマをかけてるんじゃ…。

「…沢田さん、何言っているの?僕工藤新一じゃないよ、江戸川コナンだよ?」
「………」
「僕新一兄ちゃんによく似ているって言われるけど、新一兄ちゃんは高校生で僕は小学S…『って!!新一兄ちゃんが電話で言ってたよ、僕電話して聞いたんだ』っ!!!??」

突如流れた己の声にビックリしてアイスコーヒーを飲んでいた視線を彼女に向ければ、その声はスマホから流れていた。その言葉はとある事件の時、小五郎に突っ込まれてとっさに着いた言い訳だった。

「まぁこれを録音したのは私じゃないんだけど…おかしいわね?
工藤新一は組織のメンバーに毒薬を飲まされ殺された…確かアポトキシン4869を服用して死亡したリストに彼の名はあった…君が工藤新一でない場合、彼は死んでいるのよね?これを録音したのは数日前で、工藤新一が生きているとなると…組織は許さないわ。
それにもしこれって工藤新一が生きていると世間にばらしているわよ?」
「!!!」

コナン…否新一はこれに目を見開く。
確かに己のその言葉は工藤新一は生きている、と世間に公表していることとなる。
新一は一瞬でこの人物の危険ランクが一気に己の中で上がるのが分かった。

「まぁ、そう言われるのは分かっていたからね…他にも証拠を準備しているわ」
「!!」
「ロンドン行きの飛行機に彼は乗っているわね、でもロンドンの空港のトイレから出てきたのは博士とコナンくん…その映像もこちらで入手してるわ。
あとは貴方の指紋と彼の指紋の一致、他は血液検査結果かしら。
あぁあと江戸川コナンの出生がないわね」
「…すごいね…でもなんでそこまで分かっていて、黒ずくめの組織には報告してないの?」
「私には彼らに報告する義理はないからね」
「そっか……沢田さん、一体何者なの…」

己を工藤新一だと確証付ける証拠を次々に出されてはコナンも降参するしかない。だが不思議なことに己が新一だということを組織には報告しないという。その言葉に彼女は笑みを浮かべる。

「ただのずば抜けて感の良い、彼の婚約者よ」

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コナンは彼女のセリフに納得していなかったが、幼馴染からの電話によりしぶしぶ帰宅した。残った紅茶を飲んでいる彼女に一人の男が近づく。

「一さん、色々と雑用押し付けて申し訳なかったわ…大変だったでしょう?」
「気にしないでください、それが我々の仕事です」
「ありがとう…ラル、バジルもありがとう」
「当たり前のことをしただけです。…拙者たちは彼らに?」
「えぇ、ラルは宮野志保に、バジルは工藤新一に」
「お任せください」
「分かっている」

店にいたバーテンダーは彼女の部下である天野一、ホールスタッフは独立諜報組織CEDEFのメンバーであるラル・ミルチとバジルだった。
もともとこの店自体もボンゴレカンパニーの社長代理である男の趣味で立ち上げられた店。かなり繁盛しているところを借りたのだ。

「にしてもやはりその目は便利だな」

そう言ってラルは彼女のマンダリンガーネット色の瞳を見る。

「確かにね、私に見破れない変装は無いわね」
「…でも人の死も見える…」

天野の言葉に三雲は笑みを返す。

「そうね…この目はいわば死へのカウントダウンを教える目ね…仲の良い友人たちの死を…家族の死を伝えるこの目が嫌になったことも少なくないわ…
それでも助けられる命もあった」

三雲の言葉に天野は目を見開き、笑みを浮かべた。